もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

TV[ヒューマニエンス」に学ぶ

2022年07月22日 | 科学

 この頃、NHKBSの「ヒューマニエンス」という番組を視聴している。

 同番組に馴染んだ方には蛇足であるが、番組は人体に関する新しい知識や取り組みについて専門家がMCや別分野の知識人に対してレクチャーする構成であるが、先日は「言語の果たす役割」についてであった。
 興味を持ったのは、例として示された「大きな帽子をかぶった猫」という曖昧表現が、実は人類を進化させたという一場面である。読んで頂いたら分かるように、例文は「大きな猫」とも「大きな帽子」ともとれる表現で、話者の意図は受け手によって全く別の意味を持つ。このことが、文化・文明の深化と多様性をもたらしたとするもので、「なるほど」・「さもありなん」と納得させられた。
 現代社会にあっては自分の意思を正確に伝えるための文章や会話が求められるが、通信手段が限られた軍事組織にあっては一般社会以上に指揮官の意図を徹底させる正確な・別の解釈のしようがない命令が求められる。
 それまで現場の中間管理者で文章・文書は単なる受け手・読み手でしか無かった自分が、40歳を過ぎて突然に司令部の幕僚を命じられた。最初に起案した文書は、合議過程や文書審査での訂正印や書き込みに埋め尽くされ、最後には決裁者の朱筆も加わって見事なまでに真っ赤になった。直属の上司は「まァ、丸と点が残っただけでも良しとしよう」と慰めてくれたが、文章の難しさを痛感させられるとともに、我が不出来文章を海自では「鯉のエサ10円」と評価されることを知った。
 ある提督は幕僚に「中級幹部以下は堅確な・上級幹部以上は格調ある文章を」と教育されていた。幕僚勤務が長くなると指揮官の訓示下書きを命じられる機会も経験したが、指揮官の個性・指導方針に気を配って書いた原稿が、実際の場面では絶妙の表現に置き替えられており、「成程!!これが格調か」と納得させられた。
 今、ネット上には多くの文章で溢れており、筆者は自分の主張や考えを伝えるために最大限の努力をされているのだろうと読んでいるが、残念ながら符牒じみたネット用語を駆使したものは、良く真意を理解できないことも多いのは、言葉の深化に取り残された結果であろうと思っている。
 ボケ防止にこと寄せて駄文を弄する自分も、格調高い文章は無理としても堅確な文章でなければならないと自戒を新たにしている。

 最後に、文中に出てきた海上自衛隊における一般的ではあるが不文の幹部区分呼称を付記すると、初級幹部:3尉・2尉、中級幹部:1尉・3佐、上級幹部:2佐・1佐、高級幹部:将補・将、とされている。
 もし、報道等で階級を付して紹介された者に対しては、幹部としてどれほどの処遇を受けランク付けされているのかを考える参考にして頂きたい。