事件当初から、安倍元総理の襲撃犯は「元海上自衛官」と呼ばれていた。
「呼ばれていた」と過去形で書いたのは、昨日あたりから報道でもその呼称が使用される頻度が減ってきたからである。
本ブログでは、富山県の交番襲撃・拳銃強奪事件を始めとして、高校卒業後の短期間に在職した者(特に犯罪者)をも「元自衛官」と呼称することに疑問を呈してきたが、なかなかに改まる気配が見えないものの、昨日訪れたブログで「41年間の人生中の3年を突出させることの不条理」を記した方がおられて、救われた思いがする。
一般企業でも、高卒入社3年の社員を企業を代表する存在とは認めないだろうと思う。
本日は、殆どの方が知らないと思える海上自衛隊における新入隊員の処遇等について紹介したい(聊か古い経験をもとに進めるので、若干の間違いがあるかもしれないが)。
採用された隊員は2等海士に任命されて教育隊で3か月程度の新隊員教育を受けるが、教育の大半は漕艇(カッター)等による体力作り、隊員としての服務規定、小銃取扱・手旗信号等の基礎教育である。教育期間終了時に大職域(甲板・機関・経補・航空)が指定されて部隊に配属される。
部隊(艦艇)においては、乗艦後2週間程度の「新乗艦者教育」を設けて艦独自の内規・部署や艦の一般的性能等を教育して各小職域(班)に配置する。新乗艦隊員を受け入れた班は「対番」と称する先任者を指定して、マン・ツー・マンで艦内生活、当直勤務、部署配置を習熟させるが、一人で当直勤務できるまでには乗艦後1か月程度を擁するのが一般的で、ここまで来るのに既に半年近くを要している。
入隊後約10か月経過して1等海士に昇任し、この前後に4か月程度小職域の基礎知識を学ぶために術科学校の海士課程に入校する。海士課程を修了すれば特技が付与されるが、艦での扱いは漸くに半人前であり、軽易な作業は任されるものの重要な作業では上級者の助手ができるレベルでしかない。1等海士1年で海士長に昇任するが、既に入隊後2年近くを経過している。
海士の身分は「任期制」で、任期終了時に継続任用するか退職するかを選択できる制度であり、いわば契約社員に等しいものである。陸上自衛隊は全ての任期を2年としているが、海・空自衛隊では第1任期を3年間、以後の任期を2年間としている。海士は任期を重ねたのち昇任試験をクリヤーすれば職業軍人と呼ぶべき海曹となるが、不幸にして昇任試験をクリヤーできなければ概ね30歳前後に継続任用不可となって退職せざるを得ない。
長々と、新入隊員の処遇を記述したが、海上自衛隊在職3年の隊員の実像が分かって戴けたのではないだろうか。
勿論、個人差はあるであろうが自分を振り返っても、1任期中の3年間は部署に慣れ、命じられた仕事をこなし、雑用処理に手一杯であったと記憶している。