海上自衛隊には5分間講話という教育手法がある。
任期制の海士には課せられないが、職業軍人と看做される海曹以上には必須のもので、定められたテーマや自由な意見を5分間程度に纏めて話すものである。
5分間講話については、一般隊員は海士から海曹に昇任した際に受ける教育課程で、大卒の幹部候補者は江田島の幹部候補生学校でそれぞれ初体験するが、一つのテーマを5分間で起承転結させることや5分間話し続けることは思いの外に難いものである。
このような教育の故であろうか、結婚式を始めとする行事におけるロングスカートをはいた来賓挨拶・スピーチには飽き飽きする。ましてや冒頭に「挨拶とスカートは短い方が」なる前置きがあろうものなら更に鼻白む思いがする。
30代に艦を下ろされて隊員のリクルートを主任務とする〇〇県地方連絡部に転属させられ、それまで接触も薄かった官公庁の職員、民間企業主、一般市民との会話や打ち合わせが主な業務となった。そこで、最もショックを受けたのは、交渉相手の真意が主題から横道にそれた無駄話ともとれる会話の中に隠されているということであった。そのため自衛隊にあっては4・5分間の応酬で得られる結論に到達するまでに30分近くも掛かり、イライラを押し隠すために相当な努力が必要であった。
ま、海上自衛隊では上司からの質問には結論だけ回答し重ねて理由を質された場合にのみ結論に至る背景・思考過程を説明するに反し、一般社会では結論に至る背景説明からなされることにも戸惑った。この海自における対応は、質問者と回答者が同等の識見・責任を持っているという相互尊重の伝統に基づいているとともに、戦闘場面における意思疎通を円滑にするために定着した作法と思っている。また、この方法は、若年者や下級者に者に対する教育や評価にも有効で、結論を直ちに述べ得ない場合には判断力や決断力を指導し、理由・思考が誤っている場合には正すことにも繫がっていると思っている。下級幕僚勤務であった際、「間違っている」・「結論は良いが、この理由であるべき」と指導され「なるほど、そう判断すべきなのか」と教えられたことも多い。
残念ながら、一つのテーマについて短時間に起承転結させる5分間講話、結論から述べる会話法は、海自退職後にあっては「短気」の評価にも繋がっているようにも感じられる。テレビでコメントする元提督は理由・思考過程を伝えた後に結論を述べるという市民感覚に沿った話法に依っているので、相当の努力をされたものだろうと思う一方で、もし、下級幹部が同様の対応を執れば「結論は」と一喝され、「牛の涎の様な」と酷評されるだろうと思っている。