陸自の小銃射撃訓練で、隊員3名が死傷する発砲事案が起きた。
現在までに判明しているのは、犯人が新隊員教育中の18歳隊員、死亡したのは教官である1等陸曹(52歳)と3等陸曹(25歳)、負傷したのは3等陸曹(25歳)である。
犯人が目標としたのは1等陸曹の教官で犯行動機は「叱られたため」と速報されているが、詳細については不明である。死傷した3名は犯人に濃密な教育を施す関係に無かったとされているので、おそらく射撃や射場における教育のみの関係であったように思える。
海上自衛官としての経験では、本人やバディを危険に晒す実弾射撃と消火訓練だけは指導・教育に際して身体的に強固な強制を加えるのが黙認されていたが、陸自にあっても射撃時の不安な行動や射場規律違反に対しては、罵声を浴びせることもあったであろうし鉄兜の上からではあるが拳骨くらいはあったのかも知れないが、騒音下で被教育者のパニックを正すためには止むを得ないと思っている。
日常生活を正す生活指導や、自衛官としての服務規律指導に対しては、自分の生まれ育った環境・経験則と異なるために、長期の・度重なる指導をストレスと感じ、指導者に殺意を抱くことは起こり得るかもしれないが、射場のみに限った関係で相手に殺意を抱くとは理解できない。射場に限った教育関係とは、自動車教習所における同乗教官と教習生の関係に例えることができるが、罵声やレバー操作の手を叩かれても、一過性のもので教習車を降りれば関係は消滅する。
今回の犯人はいわば”内部の腐ったリンゴ”であり、外側から事前に知ることは困難であったように思える。また、近年増えているとされる「叱られた経験が無い」・「叩かれた経験が無い」若者にとって、同僚の前で叱責されるのは耐えられないことであるのかも知れない。まして、拳骨の一つでも食らおうものならば、青天の霹靂・カルチャーショックで、相手を殺すことでバランスを保とうとするのかも知れない。
陸幕長や防衛大臣は原因究明と再発防止に努めるとしテレビの識者も同様であるが、いかにハード・ソフトの両面から見直しをしても、人間関係に起因する事故を局限することはできても根絶することは不可能で、国防と云う目的達成のリスクの一つと割り切るしかないように思える。
こう書けば、「何を能天気な!!・死傷した人の身にもなってみろ」という叱責が聞こえてきそうであるが、学識豊かな人でも、殺人を犯し、ひき逃げを犯し、麻薬を服用し、公金をくすね、他人を誹謗し、・・・が茶飯事である。これらが今に至るも根絶できないのは、文明社会の病根で、文明社会のリスクの一つと捉えなければならないのではないだろうか。