死者15人、負傷者2346人を出した新潟県中越沖地震から16日、丸1年を迎えた。地震で失ったものもあれば、生まれたものもある。柏崎・刈羽地域では、地震を機に、これまであまり横のつながりのなかった障害者施設や団体間のネットワークづくりが進められている。ネットワークの名は「れんと(連人)」。人と人を緩やかに連ねる社会を実現するのが願いだ。(永岡栄治)
◇
「お父さぁーん、ゆうじー」
昨年7月16日、柏崎市西本町の入沢真由美さん(46)は全壊した借家の前で泣き叫んでいた。中には、夫の正美さん(49)と、重度知的障害者の次男、祐司さん(22)がいた。
「おれも祐司も、大丈夫だ」。かすかに夫の声が聞こえた。正美さんは倒壊家屋のわずかなすき間に祐司さんを引き込んでいた。近所の人や救助隊が助けてくれ、奇跡的にけが一つなかった。
「この子はとっても運が強い。何かを持って、生まれたのかもしれない」。入沢さんは思い至る。
祐司さんは4歳のときに急性脳炎を発症。半月、意識不明の状態に陥ったが、驚くほどの生命力で回復していたからだ。
地震後、一家は避難所や仮設住宅での暮らしを強いられている。「てんかん発作のある知的障害者が受け入れられるだろうか」。入沢さんの不安は杞憂(きゆう)に終わった。
祐司さんは会話はほとんどできないが、人懐っこい笑顔で人気を集め、家族のような付き合いが生まれた。
障害者が地域で暮らせる社会をめざすNPO法人(特定非営利活動法人)「トライネット」(柏崎市四谷)のありがたさも実感した。入沢さんはしみじみと言う。「人の温かさが身にしみた。家はないけれど、これからもみんなが笑顔で暮らせればそれが一番」
◇
トライネットは、障害児が地域の中で当たり前に暮らせるようにとの願いを込め、障害児を持つ西川(さいかわ)紀子代表(51)らが平成12年に立ち上げた。
15年にNPO法人化を果たし、柏崎市を中心に約60人がデイケアや就労移行支援などを受けている。
西川代表にスカウトされ、知的障害児入所施設をやめて4月からトライネットで働いているのが、笠原洋紀さん(25)だ。
笠原さんは短大で保育士の資格を取り、知的障害児施設に採用され、働きがいも感じていた。
意識が変わったのは、中越沖地震だ。「施設では入所者の対応に追われ、外のことが分からなかった」。より幅広い活動の場を求めて、トライネットに飛び込んだ。
笠原さんがまず取り組んだのが、柏崎市、刈羽村の身体・知的・精神障害者の施設や団体のネットワークづくり。5回の会議を重ねて6月上旬、「れんと」を立ち上げた。
活動の第1弾として始めたのが、地震1周年の16日、柏崎青年会議所と協力して取り組んだ「感謝のキャンドル」だ。一人一人が思い思いのメッセージやイラストをキャンドルケースに書き、全国の支援に「ありがとう」の気持ちを込めた。
笠原さんは、知的障害児の可能性に驚く。「絵を描かせてみると、ものすごく集中して、とてもまねのできないような精緻(せいち)な絵を描く。その可能性をもっともっと伸ばしてあげたい」
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「お父さぁーん、ゆうじー」
昨年7月16日、柏崎市西本町の入沢真由美さん(46)は全壊した借家の前で泣き叫んでいた。中には、夫の正美さん(49)と、重度知的障害者の次男、祐司さん(22)がいた。
「おれも祐司も、大丈夫だ」。かすかに夫の声が聞こえた。正美さんは倒壊家屋のわずかなすき間に祐司さんを引き込んでいた。近所の人や救助隊が助けてくれ、奇跡的にけが一つなかった。
「この子はとっても運が強い。何かを持って、生まれたのかもしれない」。入沢さんは思い至る。
祐司さんは4歳のときに急性脳炎を発症。半月、意識不明の状態に陥ったが、驚くほどの生命力で回復していたからだ。
地震後、一家は避難所や仮設住宅での暮らしを強いられている。「てんかん発作のある知的障害者が受け入れられるだろうか」。入沢さんの不安は杞憂(きゆう)に終わった。
祐司さんは会話はほとんどできないが、人懐っこい笑顔で人気を集め、家族のような付き合いが生まれた。
障害者が地域で暮らせる社会をめざすNPO法人(特定非営利活動法人)「トライネット」(柏崎市四谷)のありがたさも実感した。入沢さんはしみじみと言う。「人の温かさが身にしみた。家はないけれど、これからもみんなが笑顔で暮らせればそれが一番」
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トライネットは、障害児が地域の中で当たり前に暮らせるようにとの願いを込め、障害児を持つ西川(さいかわ)紀子代表(51)らが平成12年に立ち上げた。
15年にNPO法人化を果たし、柏崎市を中心に約60人がデイケアや就労移行支援などを受けている。
西川代表にスカウトされ、知的障害児入所施設をやめて4月からトライネットで働いているのが、笠原洋紀さん(25)だ。
笠原さんは短大で保育士の資格を取り、知的障害児施設に採用され、働きがいも感じていた。
意識が変わったのは、中越沖地震だ。「施設では入所者の対応に追われ、外のことが分からなかった」。より幅広い活動の場を求めて、トライネットに飛び込んだ。
笠原さんがまず取り組んだのが、柏崎市、刈羽村の身体・知的・精神障害者の施設や団体のネットワークづくり。5回の会議を重ねて6月上旬、「れんと」を立ち上げた。
活動の第1弾として始めたのが、地震1周年の16日、柏崎青年会議所と協力して取り組んだ「感謝のキャンドル」だ。一人一人が思い思いのメッセージやイラストをキャンドルケースに書き、全国の支援に「ありがとう」の気持ちを込めた。
笠原さんは、知的障害児の可能性に驚く。「絵を描かせてみると、ものすごく集中して、とてもまねのできないような精緻(せいち)な絵を描く。その可能性をもっともっと伸ばしてあげたい」