ベテランたちが見せる熟練の技
現社長の大山隆久さん(41歳)は創業者・大山要蔵氏の孫で、2008年4月に父親の泰弘現会長の後を継いで4代目社長に就任した。大山社長は開口一番、「まずは工場を見てください。当社は現場がすべてですから」。こうして案内されたのが、冒頭のチョークの生産ラインだ。
工程はまず原材料を混ぜ、練り上げるところから始まる。ダストレスチョークの原料は、ホタテの貝殻粉末を加えた炭酸カルシウム。これに色素剤を調合して、棒状に成型する。これを一定の長さに切断し、10本程度ずつにまとめて乾燥工程に。ここで丸1日かけて乾燥した後、1本1本のチョークの長さ(標準品の場合は63ミリメートル)に再度切断し、梱包ラインに流す。標準品では12本×6段の計72本が1箱に梱包されていく。こうして最終検品工程を経て、段ボール詰めされて出荷の運びとなる。
12人の工員たちはこれらの各工程を分業体制で受け持っており、担当する仕事はだいたい固定されているという。例外は、ライン全体の作業を統率しているリーダー格の「班長」とサブリーダー格の「5S委員」(5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字)。
いずれも知的障害のあるベテラン社員で、技能や実績をベースに「他人に親切に教えたり、サポートしたりできる人」が選ばれている。自分の仕事をこなしながら、ほかの社員の動きを見守ったり、報告を受けたりするのが役目。シフトに欠員が出た時や仕事が押せ押せになる繁忙期などには、必要に応じてほかの人の仕事を応援することもあるといい、臨機応変に動くことができる多能工としてラインを支えている。
どの社員も、無駄のない流れるような手さばきと、途切れることのない集中力で作業をこなしていることが強く印象に残る。例えば、梱包ラインで箱詰めを担当するベテランの女性社員は1日に1000箱もの梱包を難なく処理するという。
特に驚かされたのは、不良品を見分け、はね除ける作業スピードの速さ。各人がそれぞれの担当工程で、ラインを流れてくるチョーク1本1本に目をこらし、瞬時の判断で不良品を取り除いていく。その手際の良さに半ばあっけにとられていると、大山社長は「私たちがやるよりも、はるかに素早く、厳しくチェックしてくれます。正直に言って、良品として出荷しても何ら問題のないレベルの製品でもはねますからね」と笑顔で解説してくれた。
まさに熟練の技である。だが、それは見方を変えれば、“過剰品質”気味に不良品を除去していることにもなる。それでは必要以上に歩留まりを悪くし、生産性を落とす結果になるのではないか。
その疑問に対して、大山社長は「不良品は再び砕いて材料に戻しますから、原材料のロスは全く出ないんです」と答えた。チョークという製品の特性が、知的障害者に特有の研ぎ澄まされた感性や能力とうまく合致しているのだろう、と感じた。
もっとも、それは決して偶然の産物ではない。知的障害者が持っている潜在能力を引き出す創意工夫を、最初の2人を採用した半世紀前からコツコツと積み重ねてきた企業努力の成果、具体的に言えば、日本企業のお家芸である「カイゼン(改善)」運動によって得られたものなのである。
3につづく
現社長の大山隆久さん(41歳)は創業者・大山要蔵氏の孫で、2008年4月に父親の泰弘現会長の後を継いで4代目社長に就任した。大山社長は開口一番、「まずは工場を見てください。当社は現場がすべてですから」。こうして案内されたのが、冒頭のチョークの生産ラインだ。
工程はまず原材料を混ぜ、練り上げるところから始まる。ダストレスチョークの原料は、ホタテの貝殻粉末を加えた炭酸カルシウム。これに色素剤を調合して、棒状に成型する。これを一定の長さに切断し、10本程度ずつにまとめて乾燥工程に。ここで丸1日かけて乾燥した後、1本1本のチョークの長さ(標準品の場合は63ミリメートル)に再度切断し、梱包ラインに流す。標準品では12本×6段の計72本が1箱に梱包されていく。こうして最終検品工程を経て、段ボール詰めされて出荷の運びとなる。
12人の工員たちはこれらの各工程を分業体制で受け持っており、担当する仕事はだいたい固定されているという。例外は、ライン全体の作業を統率しているリーダー格の「班長」とサブリーダー格の「5S委員」(5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字)。
いずれも知的障害のあるベテラン社員で、技能や実績をベースに「他人に親切に教えたり、サポートしたりできる人」が選ばれている。自分の仕事をこなしながら、ほかの社員の動きを見守ったり、報告を受けたりするのが役目。シフトに欠員が出た時や仕事が押せ押せになる繁忙期などには、必要に応じてほかの人の仕事を応援することもあるといい、臨機応変に動くことができる多能工としてラインを支えている。
どの社員も、無駄のない流れるような手さばきと、途切れることのない集中力で作業をこなしていることが強く印象に残る。例えば、梱包ラインで箱詰めを担当するベテランの女性社員は1日に1000箱もの梱包を難なく処理するという。
特に驚かされたのは、不良品を見分け、はね除ける作業スピードの速さ。各人がそれぞれの担当工程で、ラインを流れてくるチョーク1本1本に目をこらし、瞬時の判断で不良品を取り除いていく。その手際の良さに半ばあっけにとられていると、大山社長は「私たちがやるよりも、はるかに素早く、厳しくチェックしてくれます。正直に言って、良品として出荷しても何ら問題のないレベルの製品でもはねますからね」と笑顔で解説してくれた。
まさに熟練の技である。だが、それは見方を変えれば、“過剰品質”気味に不良品を除去していることにもなる。それでは必要以上に歩留まりを悪くし、生産性を落とす結果になるのではないか。
その疑問に対して、大山社長は「不良品は再び砕いて材料に戻しますから、原材料のロスは全く出ないんです」と答えた。チョークという製品の特性が、知的障害者に特有の研ぎ澄まされた感性や能力とうまく合致しているのだろう、と感じた。
もっとも、それは決して偶然の産物ではない。知的障害者が持っている潜在能力を引き出す創意工夫を、最初の2人を採用した半世紀前からコツコツと積み重ねてきた企業努力の成果、具体的に言えば、日本企業のお家芸である「カイゼン(改善)」運動によって得られたものなのである。
3につづく