ゴエモンのつぶやき

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地域に根ざした「就業実習」――知的障害者の戦力化《後編》3

2010年06月29日 01時40分39秒 | 障害者の自立
 こうして昨年9月14日、3カ月間の試行期間を設け、以降は1年ごとに自動更新するという契約が正式に締結された。


30歳の若き店長の奮闘が支えた

 木南さんの本当の意味の奮戦が始まったのは、この時からだ。諸々の管理業務がこの若い店長に委ねられた。まずは、3人に任せる仕事のメニュー作り。今週は何をしてもらうか、前日までに作業内容を考え、下準備をしておく。ほかの店舗スタッフとの融和も大事な仕事だ。

 枚方山之上店のスタッフは正社員3人(うち薬剤師が2人)とパート・アルバイトで約20人。この人たちでシフトを組み、常時7~8人が店に出る体制となっている。他方、知的障害のあるスタッフも10人のメンバーが交代で3人ずつ出勤する。このため、全員が顔を揃える機会は少なく、互いに打ち解けるのはなかなか難しい。両者の間に溝ができないように気を配るのは、必然的に店長の役目となる。

 一番留意しているのは、来店客に迷惑をかけないこと。障害のあるスタッフも同じ赤いエプロンを着けているので、外見からはそれとは分からない。例えば、急に商品について質問され、受け答えできずに不快な思いをさせたりすることのないように、常に目配りが必要になる。

 それでも、木南さんは「今まで問題が起きたことは全くありません。ぱうんどケーキ村の皆さんも一生懸命やってくれていますし、何よりも大阪のお客様はフレンドリーで、心優しい方が多いですから」と、ここでも屈託のない笑顔を見せた。

 後見役の島田さんは「店長の目が行き届きやすい小規模店舗であったことが幸いした面はあると思います」としたうえで、「けれども、この新しい試みがうまく離陸できたのは、ひとえに木南店長の頑張りのおかげ。彼でなければ、こんなにスムーズに事が運んだかどうかは分かりませんね」と手放しで称賛する。

 一方、ぱうんどケーキ村の知的障害のある人たちも、初めての企業での就業体験で何かをつかんだ人が多いようだ。機関誌『フォレスト倶楽部ニュース』の昨年12月1日号には、3人のメンバーが感想を寄せている。そのうちの1人は次のように言っている。

 「・・・緊張する中、お店の入り口で消毒した買い物カゴをお客様にうまく渡せた時は相手も笑顔をくれたので、うれしくほっとできました。・・・3時間はあっという間に終わりましたが、いろいろ教えてもらえて勉強になりました。ありがとうございました」


「地域社会に愛される店作り」という視点

 つい最近の話だが、キリン堂と木南店長に嬉しい知らせが届いた。10人のメンバーのうちの1人が地元の郵便局に正式採用され、勤務することが決まったというのだ。本格スタートから半年で、はるか先の目標と思われていた「施設通所者の企業への就職」という成果が早くも実現したのである。

 仲介役を果たした竹川さんは「予想以上に順調な滑り出しになりました」と会心の笑みを見せる。うまく進んだ理由を「お向かい同士という立地条件、新しい店長に率いられた新しい店舗といった幸運が重なったことは確かでしょう。でも、最大のポイントは双方の関係者が『できない理由』を並び立てるのではなく、『何ができるか』『どうやればできるか』を前向きに考え、行動を起こしたことだと思います」と分析。特に受け入れ側が「地域社会に親しまれ、愛される店作り」という理念をぶれずに貫いたことが大きいと見る。

 6月12日、キリン堂は枚方山之上店を含む近畿・四国地区の74店舗で、「ドッグポール」という新しいサービスツールの運用を開始した。ペットブームによって増え続けている愛犬家がペット連れでも来店できるように、買い物をしている間、犬をつないでおける専用のポールを店の入り口付近に設置したのである。日本ペットフードの協賛を得て、新たな“店頭広告媒体”として活用することも狙った試みだが、同社ではこれも「地域コミュニティーに愛される店作り」の一環と位置づけている。

 「障害のある店舗スタッフの採用」と「ペット連れの来店客向けサービス」を同じ視点で議論するのは不謹慎と思われるかもしれないが、いずれも従来の小売業界の常識では「やれない」、もしくは「やってはいけない」と考えられていた取り組みという点は共通している。顧客に支持される理念を持ち、社会のニーズの変化を読んで時代の要請に柔軟に応える姿勢があれば、“タブー”を打ち破って新しい風を起こすことはいくらでもできる。

 大手上場企業と地域の小さな授産施設の連携で実現したこの“枚方モデル”とでも呼べる障害者就労支援スキーム。他の地域、他業種の店舗でも応用することは十分に可能であろう。


地域に根ざした「就業実習」――知的障害者の戦力化《後編》2

2010年06月29日 01時36分01秒 | 障害者の自立
 ここにはツテがある。本社総務部法務課に勤務する島田幾雄さんだ。仕事を通じた古くからの知り合いで、自治体事業のアドバイザーを依頼したりしている大切な外部ブレーンの1人なのだ。あるアイデアがひらめいた竹川さんは島田さんに相談を持ちかけた。「御社の枚方山之上店で、ぱうんどケーキ村さんのパンを取り扱ってもらうことはできないでしょうか?」。

 連絡をもらった島田さんは早速、枚方市に足を運び、詳しく事情を聞いた。それから現地で何回か、ぱうんどケーキ村管理者の石川さんも交え、三者で協議を行った。だが、結論は「やはり無理」。枚方山之上店では健康食品なども販売しているが、生もののパンとなると、目の前にある工房で焼いた製品とはいえ、商品管理の問題が大きな壁となって立ちはだかった。

 それでも3人は諦めずに、何かできないか、話し合いを続けた。そうした中で浮かんだのが、「施設に通う障害者に、キリン堂の店で働く機会を提供できないか」という全く違うアプローチだった。

 この事業の目的はあくまでも「工賃倍増」。パンの販売増だけがその方法ではないし、そもそも授産施設の役割は障害のある人たちに職業スキルを身に着けさせ、社会に巣立たせることだ。賃金をもらい、しかも将来の就職につながるインターンシップ型の「就業実習」が実現できれば、パンの販売増以上に大きな意味がある。

 「分かりました。実現できるように努力します」。島田さんはこの宿題を本社に持ち帰って検討することを約束した。


「不安なのは、相手も同じ」

 「同じ地域に生きる一員として、何とか応援したい」。島田さんは、寺西忠幸会長兼社長をはじめとする経営陣にこう訴えた。この試みが「人と人が支え合う地域密着の店作り」という経営理念に合致することに理解を示した寺西会長兼社長がゴーサインを出すのに、時間はかからなかった。「困難なことはあるだろうが、ぜひともやってみよう」。

 ただ、いくら本社が了解したとしても、実際に知的障害のある人たちを預かるのは現場の店舗だ。島田さんは枚方山之上店の木南祐介店長に、この難役を引き受けてくれるかどうかを尋ねた。木南さんは現在30歳。昨年3月の同店オープンと同時に店長に就任した若い現場リーダーだ。「初めてこの話を聞いた時は正直に言って、戸惑いました。それまでは障害のある人と接したことさえありませんでしたから」と木南さんは述懐する。

 そこで、2人はぱうんどケーキ村側の希望も聞きながら、任せられそうな作業内容をリストアップし、「3人+補助職員1人」のグループによる共同作業という運営スキームを考案する。「これなら何とか行けそうですね」。

 木南さんは受け入れを決断した時の心境を、「不安なのは、相手も同じ(笑)。自分にとってもいい経験になるはずだし、この店舗でなければ、こんな経験をするチャンスはないかもしれない。そう考えたんです」と屈託のない笑顔で説明してくれた。

 会社も全面的にバックアップする態勢を整えた。最大の問題は、新たな人件費をどのような形で負担するかだった。店舗スタッフの人件費は、個々の店舗ごとにやりくりするのがチェーンビジネスの通常の運営方法だ。

 時給額は「まだ勉強させていただくレベルですから」というぱうんどケーキ村側の意向も汲んで、大阪府の最低賃金の762円(2009年9月現在)とすることで合意した。週3時間だけの勤務でもあり、月次の支払い総額は決して大きなものではないが、それでも激しい競争環境の中で店の収益管理の責任を負う店長にとっては、負担材料になることは否定できない。

 そこで、島田さんはあえて「雇用契約」とせず、キリン堂本社とぱうんどケーキ村との法人間の「業務委託契約」とし、人件費は業務委託費として本社が負担する契約方式にした。企業側にメリットの多い障害者雇用にするよりも、現場の店舗と施設側の意向に合致する現実的な契約方式を選択したのである。

3につづく

地域に根ざした「就業実習」――知的障害者の戦力化《後編》1

2010年06月29日 01時32分42秒 | 障害者の自立
 大阪市に本社を置く中堅ドラッグストアチェーンのキリン堂。関西を地盤に、228の直営店をはじめグループ全体で311店舗(2月現在)を展開し、「地域コミュニティーの中核となるスーパードラッグストアを社会インフラとして確立する」という経営ビジョンを掲げ、地域密着の店作りを推進している。

 昨年9月、そうした経営理念を実践する1つの試みとして、地域の障害者福祉施設と連携して、知的障害のある人たちを週1日のパートタイム店員として受け入れ、就業実習の場を提供するというユニークな取り組みをスタートさせた。「どのようなやり方なら実現できるか」。関係者が知恵を出し合い、運営方法も、契約方式も前例のない独自のスキームをゼロから編み出したのである。

 舞台は枚方山之上店、主人公は木南祐介店長――。

 大阪のベッドタウンである枚方市はドラッグストア各社がしのぎを削る激戦区で、キリン堂にとっても7店舗を集中出店している重要戦略地域の1つ。枚方山之上店は昨年3月にオープンした新しい店で、店舗面積は約170坪と小規模ながら、駐車場を完備した単独立地の郊外型路面店である。


知的障害者が接客する

 ここに毎週木曜日の朝9時半から昼12時半までの3時間、知的障害者3人が介助者の福祉施設職員1人とともに「出勤」して来る。メンバーはいずれも、社会福祉法人フォレスト倶楽部(本部枚方市、上野精順理事長)が運営する地元の共同作業所「ぱうんどケーキ村」(石川泰代管理者)に通う障害者たち。自主性を重んじるぱうんどケーキ村ではこの取り組みを始める際に希望者を募ったところ、10人の通所者が手を挙げた。そこで、その中から毎週3人ずつが交代で勤務する「グループ就労」の形を採用した。

 実際の仕事は、ユニフォームの赤いエプロンを着用し、ほかの店舗スタッフと一緒に朝礼に参加、その日の目標や注意事項を確認するところから始まる。

 最初に行うのは、店の入り口に立って「いらっしゃいませ」と声かけをしながら来店客に買い物カゴを手渡す業務。これを30分から1時間くらい続けた後は、いったんバックヤードに下がって、店頭を飾るポップ広告の製作などに当たる。印刷された広告素材を透明なバウチに入れるといった軽作業が多いそうだ。これが1時間から1時間半程度。それから再び店に出て、陳列棚の商品の補充と整頓、いわゆる「前出し」作業に汗を流す。最後に、終礼を行って今日の良かった点と反省点を各人が発表し、「お疲れ様でした」となる。作業を3つに区分けしているのは、集中力を切らさずに仕事ができるようにとの配慮からだ。

 流通業界は障害者雇用に比較的前向きな業界で、大手企業の多くは知的障害のある人も積極的に雇用している。しかし、商品在庫の管理などバックヤード業務を担当させているところがほとんどで、店舗に配属するケースはまだまだ少ない。

 キリン堂もまた特例子会社「キリンドウベスト」を持ち、約15人の障害者を採用しているが、清掃などの店舗メンテナンスが主な業務。週1回実質2時間程度の限定的なものとはいえ、“店舗スタッフ”として受け入れたのは今回が初めてだ。大きな挑戦と言える今回の取り組みを後押ししたのは、「地域コミュニティーに貢献する」という経営の座標軸だ。

 実は、ぱうんどケーキ村は枚方山之上店のすぐ目の前、狭い幹線道路をはさんだ向い側のテナントビルの1階にある。まさに、スープの冷めない距離に立地する“お向かいさん同士”なのだ。この近さが、実験的なスキームを実現させた大きな要素になっている。


どうやって「工賃倍増」を実現するか

 事の起こりは2008年の暮れ、大阪府障がい福祉室自立支援課が実施している「大阪府工賃倍増5か年計画(2007~11年度)」事業の一環として、1人の経営コンサルタントがぱうんどケーキ村を訪問したことに始まる。

 やって来たのは、大阪・天満橋にある経営コンサルティング企業、フラン社長の竹川智子さん。竹川さんは福祉用具や地場産品のマーケティング・販路開拓戦略を専門分野とし、大阪府、和歌山県、滋賀県、三重県、静岡県など地方自治体と連携して、多数の地場中小企業の経営指導を手掛けてきた実績を持つ。

 同事業は、障害者自立支援法の施行に伴い、いわゆる授産施設に通う障害のある人たちの所得を引き上げるのが目的。竹川さんは、実施主体である大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(通称エル・チャレンジ、塩見健一郎理事長)の委嘱を受けて、ぱうんどケーキ村の“経営テコ入れ”のために派遣されたのである。

 最初に相談されたのは、毎日焼いているパンやケーキ類の売り上げをどうやって増やすか。工房と店が一体となった造りとなっているため、店舗部分は間口1間程度、ほとんど1坪ショップほどの広さしかない。

 これでは、店売りを増やすことは難しい。そこで、病院の売店での委託販売や、福祉活動に理解がありそうな事業所での職域販売といった方法を考え、周辺を営業活動で歩き回ったが、なかなか色よい返事がもらえない。

 打開策を摸索していた時、竹川さんの目に入ったのが、対面にあるキリン堂だった。

2につづく

カイゼンで能力を引き出す――知的障害者の戦力化《前編》4

2010年06月29日 01時30分23秒 | 障害者の自立
 成果を上げた社員に対する報奨制度や表彰制度も、もちろんある。報奨については人事考課に基づいて賞与で報いる仕組みだ。一方、表彰制度は、毎月最も成果を上げた人を5S委員らの推薦で選ぶ「月間MVP」と、毎年12月に行う「年間表彰」がある。年間表彰には優秀賞をはじめ、挨拶賞、努力賞、貢献賞、皆勤賞などの部門賞が設けられている。


“仲良しクラブ”ではない

 この表彰制度は、全員が何かの賞をもらえるような“仲良しクラブ”的な表彰ではない。「プライドの高い社員の中には、期待はずれに終わってがっかりする者もいます」と大山社長。

 実際、数年前にはこんな小さな事件が起きた。「今年は頑張ったので賞がもらえるはず」と意気込んでいた中堅社員の1人が、期待に反して自分が選ばれなかったことに腹を立てて、表彰式の場から出て行ってしまったのだ。組織の和を壊すような振る舞いは容認できない。この時ばかりは大山さんたちは厳しく対応した。勝手な行動を取ったことを叱り、ほかの社員たちを傷つけたことなどを丁寧に諭して聞かせた。この社員はさすがに自分が悪かったことに気づき、以降、いっそう熱心に仕事に取り組むようになった。

 そして現在、彼は、戦略商品である「キットパス」(ガラスにも書けるようにパラフィン成分を加えた新型チョーク)の生産ラインを受け持つ副班長格の5S委員として、なくてはならない存在に成長しているという。


 十数年前、「頑張った社員を褒めるところから始めた」5S委員会だが、大山社長は「ここ数年で社員たちの意識が明らかに変わってきたことを実感しています。まだまだ課題は山積みですが、本当の成果を出すのはこれからです」と、決意と期待を表す。

 今年で就任3年目を迎える大山社長。多くの二世・三世経営者がそうであるように、「以前は、会社の体質や経営手法への疑問や戸惑いを感じた時期もありました」と率直に語る。だが、今は「口幅ったい言い方ですが、世の中には当社のような企業が絶対に必要なはず。私たちは、知的障害者の雇用に関しては世界一の会社になろうと考えています」ときっぱりと言い切る。

 とはいえ、主力商品のチョークを取り巻く環境は厳しい。少子化で子どもの人口が減り続けていることに加え、パソコンや電子黒板の導入など教育現場のIT(情報技術)化も加速している。筆者は以前、ある教育関係者から、若い教師の中には「板書」の仕方も分からない先生がいる、という薄ら寒い話を聞いたこともある。

 そうした時代の変化を見据えて、大山社長は新商品「キットパス」の販路開拓など、「新たなチョーク文化」を創り出すことに情熱を注いでいる。「社員全員が幸せになれる会社であると同時に、たくましい会社にしていくことが私の使命だと自覚しています」。大山社長は最後に、力強くこう締め括った。

 「日本でいちばん大切にしたい会社」は、決して特別な会社ではなかった。ごくありふれた、謹厳実直な日本の中小企業だった。


カイゼンで能力を引き出す――知的障害者の戦力化《前編》3

2010年06月29日 01時27分34秒 | 障害者の自立
「信号機」をヒントに始まった

 チョーク工場の片隅に、その証しが大切に保管されている。赤と青に塗り分けられた大きなバケツと、同じように赤と青に塗り分けられた量り用の分銅だ。これらはかつて材料の調合で使っていた道具である。知的障害のある人の中には、重さや長さなどの数値の観念が捉えにくい人がいる。そこで、誰でも分かる「信号機」をヒントに、「赤いバケツに入った材料は赤い分銅で量る」といった具合に、直感的に理解できる仕組みを作り出したのだ。

 同じように、時間を計る必要がある工程では、時間を量的に把握できる砂時計を用いるようにした。検品工程でも、ノギスを使う計測方法を改め、チョークのサイズに型抜きした専用の検査治具を開発し、製品を型に押し当てることですぐに良否を判断できるようにした。今で言うユニバーサルデザインの考え方を取り入れた独特の生産補助ツールだ。「先代社長や先輩方が編み出したこうした道具や手法が、当社の出発点なんです」と、大山社長は力を込めた。

 こうした小さな取り組みから始まった日本理化学工業のカイゼン運動は、現在では、はるかに高いレベルへと発展を遂げている。会社が掲げた品質管理や生産性向上の目標達成に向けて、知的障害のある社員1人ひとりが自分自身の目標を定め、自ら考え、自ら行動し、互いに助け合いながら「自分に課せられた役割」を果たしていこうという取り組みが根付いているのだ。それはすなわち、日本のものづくり産業を支えてきた「TQC(全社的品質管理)」活動そのものである。

 チョーク工場に通じる通路の壁に、それを象徴する標語が大きく掲示されていた。書かれているのは先ほどの「5S」と「ほうれんそう」の呼び掛け。言うまでもなく、ほうれんそうは「報告・連絡・相談」。ともにQC活動の基本中の基本である。「当社が推進しているのはこの2つだけ。5Sと報連相をいかに徹底して実行するかが最大の経営課題なんです」と大山社長は強調する。

 さらに、会議室を兼ねる社員食堂の壁には、今年の経営目標を掲げた大きな模造紙が張り出されていた。一番上に2010年の年間テーマである「責任を持って報連相をしよう」の標語。その下には、社員1人ひとりが手書きした個人の目標が顔写真と共に並べられている。

 「僕はしっかりと報連相します」といった素朴な内容が多いものの、各人が「何をしなければならないか」をしっかりと自覚し、明確な目標意識を持って仕事に取り組んでいることが、確かに伝わってくる。


全員参加で自ら考える「TQC」に

 こうした目標を管理・遂行する推進体制もまた、TQCのお手本通りに構築している。中核機関となるのは「5S委員会」だ。各職場の班長、5S委員約20人と健常の社員を加えたメンバーによって毎月1回、第3土曜日の午前中に開催している。「今月は5Sの中のどの項目を重点テーマにするか」など、各職場ごとに課題を抽出し、みんなで対応策を考えていく。

4につづく