箸で食べる、髪を洗う―。そんな日常生活の行動に不便さを感じている障害者らをサポートしようと、体が不自由でも使い勝手のいい箸やシャンプーブラシなどの日用品「自助具」を手作りする工房がある。「かながわ自助具工房」(横浜市神奈川区、かながわ県民活動サポートセンター内)は、生活必需品から趣味に使う道具まで、障害の程度や好みにぴったり合った製品を届けている。
「もう一度、編み物がしたい」。女性が工房を訪ねてきたのは2年ほど前だった。脳梗塞の後遺症で左手がまひし、長年の趣味からも遠ざかっていた。
製作スタッフは、医療の専門知識がある作業療法士も交えて女性と話し合いを重ねた。約1カ月後、片手だけで編み物ができる器具が完成した。
太ももで挟んで固定できる仕組みの編み棒と、右手に持ったもう1本の編み棒で毛糸を編めるように工夫を凝らした。編み棒の長さなども、女性の体に合うように微調整。「諦めていた趣味を再び楽しめるようになった」。女性は大喜びだったという。
日用品は、ひと工夫加えるだけで変身する。工房では1990年の開所以来、たくさんの自助具を創作してきた。
例えば、食べ物がつかみやすくなるように箸にバネを付けたり、肩が上がらない人にはU字形のプラスチックの中央にシャンプーブラシを取り付け、乾布摩擦の要領で髪を洗えるようにしたり…。スプーンの持ち手にスポンジを巻き付ければ、握力が弱くても楽に食事ができる。
製作に携わっているのは定年退職した男性を中心としたボランティアだ。作品はリウマチ患者などの間で評判で、製作・修理する自助具は年間約300点にも及ぶ。10年以上のベテランの安東徹郎さん(87)は「世の中にない道具を考案して、使う人が便利と言ってくれるのが何よりもうれしい」と笑う。
一方、開所当初に比べて訪れる人が減っているという。ケアプラザなど地域の支援施設が充実。民間業者が誰にでも使いやすいユニバーサルデザインの日用品に目を向け、市販品が増えてきたのも要因だ。
今年3月末、県社会福祉協議会による運営が終了。かながわ県民活動サポートセンター内に併設されている自助具の展示場が閉鎖されることが決まった。
それでも、材料費だけを利用者に負担してもらい、無償で自助具を提供するのは県内唯一。使い手のことを考えた道具は手作りでないと生み出せない。
工房の運営は製作スタッフらが立ち上げたボランティア団体が受け継ぎ、春以降も活動を継続している。安東さんらは「作ってほしいという人がいる限り、工房を続けていきたい」と話し、製作体験教室なども開催していくという。
問い合わせは、県社会福祉協議会ともしびセンター電話045(312)4813。
使う人のことを考えて、自助具の製作に取り組む工房のボランティア
カナロコ(神奈川新聞) -2012年6月4日
「もう一度、編み物がしたい」。女性が工房を訪ねてきたのは2年ほど前だった。脳梗塞の後遺症で左手がまひし、長年の趣味からも遠ざかっていた。
製作スタッフは、医療の専門知識がある作業療法士も交えて女性と話し合いを重ねた。約1カ月後、片手だけで編み物ができる器具が完成した。
太ももで挟んで固定できる仕組みの編み棒と、右手に持ったもう1本の編み棒で毛糸を編めるように工夫を凝らした。編み棒の長さなども、女性の体に合うように微調整。「諦めていた趣味を再び楽しめるようになった」。女性は大喜びだったという。
日用品は、ひと工夫加えるだけで変身する。工房では1990年の開所以来、たくさんの自助具を創作してきた。
例えば、食べ物がつかみやすくなるように箸にバネを付けたり、肩が上がらない人にはU字形のプラスチックの中央にシャンプーブラシを取り付け、乾布摩擦の要領で髪を洗えるようにしたり…。スプーンの持ち手にスポンジを巻き付ければ、握力が弱くても楽に食事ができる。
製作に携わっているのは定年退職した男性を中心としたボランティアだ。作品はリウマチ患者などの間で評判で、製作・修理する自助具は年間約300点にも及ぶ。10年以上のベテランの安東徹郎さん(87)は「世の中にない道具を考案して、使う人が便利と言ってくれるのが何よりもうれしい」と笑う。
一方、開所当初に比べて訪れる人が減っているという。ケアプラザなど地域の支援施設が充実。民間業者が誰にでも使いやすいユニバーサルデザインの日用品に目を向け、市販品が増えてきたのも要因だ。
今年3月末、県社会福祉協議会による運営が終了。かながわ県民活動サポートセンター内に併設されている自助具の展示場が閉鎖されることが決まった。
それでも、材料費だけを利用者に負担してもらい、無償で自助具を提供するのは県内唯一。使い手のことを考えた道具は手作りでないと生み出せない。
工房の運営は製作スタッフらが立ち上げたボランティア団体が受け継ぎ、春以降も活動を継続している。安東さんらは「作ってほしいという人がいる限り、工房を続けていきたい」と話し、製作体験教室なども開催していくという。
問い合わせは、県社会福祉協議会ともしびセンター電話045(312)4813。
使う人のことを考えて、自助具の製作に取り組む工房のボランティア
カナロコ(神奈川新聞) -2012年6月4日