二十一日投開票の参院選では、さまざまなテーマが議論されている。憲法をどうするかも争点の一つ。改憲を目指す自民党の憲法草案には、家族の在り方などに関する規定も盛り込まれている。家族と憲法の関わりを、それぞれの現場から考えた。
自民党が昨年公表した改憲草案。第二四条に「家族は、互いに助け合わなければならない」という条文が新設された。家族の絆が薄れてきたことを考慮したという。だが、困ったときに身内で面倒を見合うことで、社会保障費を減らしたいという思いも透けて見える。
昨年春、高収入のお笑い芸人の母親が生活保護を受給していたことが明るみに出た。多くの人が「なぜ親を援助しなかったのか」と批判したのは、記憶に新しい。
“憲法二四条”の考えと重なるような動きは既にある。先の通常国会に提出された生活保護法改正案。受給者の家族の扶養義務を厳しくとらえ直した=メモ参照。いったん廃案となったが、秋の臨時国会に再提出される見通しだ。
東海地方に住む四十代の女性受給者は「(生活保護を受ける)こういう生き方しかない、という人生があることを分かってほしい」と訴える。
女性と夫は精神障害者。女性は以前、精神障害に理解がある会社で働いていたが、その会社が倒産した。今は生活保護が命綱だ。「保護を受けたことで親族を含め、いろいろな人から嫌みを言われた。そのたびに胸が張り裂けそうでした」と振り返る。
数年前までは、自治体の福祉事務所で担当者が「親兄弟に養ってもらえ」などと生活保護の相談に来た人を追い返す事例が目立った。二〇〇六年、北九州市門司区の五十代の男性が餓死した事件は、福祉事務所の担当者が「子どもに養ってもらえ」と申請を拒絶したのが原因だった。
日本は欧米に比べ、生活保護受給者の恥や負い目の感情が強い。「家族に迷惑をかけたくない」という気持ちから、申請をためらう人が増える可能性がある。
今年五月、国連の社会権規約委員会は日本政府に勧告を出した。その中に次のくだりがある。「スティグマ(恥や負い目の感情)のために高齢者が生活保護の申請を抑制されていることを懸念する」
その一方で「保護を受ける前に家族で助け合うのは当然」という声もある。長い不況の影響もあって、生活保護費は増え続け、二〇一二年度で三兆七千億円。家族の助け合いが多くなれば、その分、国の負担は減る。
中部地方のある男性建築士(69)は「家計が苦しい人も多いが、家族ができる限り援助するのは人間として当然」という。
生活保護問題に詳しい司法書士の水谷英二さん(55)=名古屋市=は「家族の助け合いは当然のことのようだが、それを法制度に結びつけていいのかどうか。生活保護を受けられるのに受けていない人も多い。そうした実情も踏まえて議論するべきだ」と話す。
◇
<生活保護法改正案中の家族の扶養義務強化の部分> 親や兄弟などの扶養義務者が扶養義務を果たしていないなどと判断した場合、自治体は(1)扶養義務者に書面で通知する(2)扶養義務者などに報告を求める(3)金融機関や勤め先などに資料の提供を求める-といったことが可能になる。受給申請者や扶養義務者の側は、金融機関や勤め先まで洗いざらい調べられる可能性があることが心理的な圧迫要因になる。

生活保護法の改正反対を訴える人たち=6月5日、東京都千代田区で
東京新聞-2013年7月10日
自民党が昨年公表した改憲草案。第二四条に「家族は、互いに助け合わなければならない」という条文が新設された。家族の絆が薄れてきたことを考慮したという。だが、困ったときに身内で面倒を見合うことで、社会保障費を減らしたいという思いも透けて見える。
昨年春、高収入のお笑い芸人の母親が生活保護を受給していたことが明るみに出た。多くの人が「なぜ親を援助しなかったのか」と批判したのは、記憶に新しい。
“憲法二四条”の考えと重なるような動きは既にある。先の通常国会に提出された生活保護法改正案。受給者の家族の扶養義務を厳しくとらえ直した=メモ参照。いったん廃案となったが、秋の臨時国会に再提出される見通しだ。
東海地方に住む四十代の女性受給者は「(生活保護を受ける)こういう生き方しかない、という人生があることを分かってほしい」と訴える。
女性と夫は精神障害者。女性は以前、精神障害に理解がある会社で働いていたが、その会社が倒産した。今は生活保護が命綱だ。「保護を受けたことで親族を含め、いろいろな人から嫌みを言われた。そのたびに胸が張り裂けそうでした」と振り返る。
数年前までは、自治体の福祉事務所で担当者が「親兄弟に養ってもらえ」などと生活保護の相談に来た人を追い返す事例が目立った。二〇〇六年、北九州市門司区の五十代の男性が餓死した事件は、福祉事務所の担当者が「子どもに養ってもらえ」と申請を拒絶したのが原因だった。
日本は欧米に比べ、生活保護受給者の恥や負い目の感情が強い。「家族に迷惑をかけたくない」という気持ちから、申請をためらう人が増える可能性がある。
今年五月、国連の社会権規約委員会は日本政府に勧告を出した。その中に次のくだりがある。「スティグマ(恥や負い目の感情)のために高齢者が生活保護の申請を抑制されていることを懸念する」
その一方で「保護を受ける前に家族で助け合うのは当然」という声もある。長い不況の影響もあって、生活保護費は増え続け、二〇一二年度で三兆七千億円。家族の助け合いが多くなれば、その分、国の負担は減る。
中部地方のある男性建築士(69)は「家計が苦しい人も多いが、家族ができる限り援助するのは人間として当然」という。
生活保護問題に詳しい司法書士の水谷英二さん(55)=名古屋市=は「家族の助け合いは当然のことのようだが、それを法制度に結びつけていいのかどうか。生活保護を受けられるのに受けていない人も多い。そうした実情も踏まえて議論するべきだ」と話す。
◇
<生活保護法改正案中の家族の扶養義務強化の部分> 親や兄弟などの扶養義務者が扶養義務を果たしていないなどと判断した場合、自治体は(1)扶養義務者に書面で通知する(2)扶養義務者などに報告を求める(3)金融機関や勤め先などに資料の提供を求める-といったことが可能になる。受給申請者や扶養義務者の側は、金融機関や勤め先まで洗いざらい調べられる可能性があることが心理的な圧迫要因になる。

生活保護法の改正反対を訴える人たち=6月5日、東京都千代田区で
東京新聞-2013年7月10日