三連休の最後は、シンポジウムに参加して、前々から関心があった「触法障害者」の問題について勉強してきました。朝9:30〜17:00という長丁場!知らない世界で刺激をいただけました。
「触法障害者」問題を知っていますか
「触法障害者」という言葉、聞いたことがある人はかなり少数派でしょう。逮捕され、刑務所で時間を過ごした元国会議員の山本譲二さんが、「獄窓記」「累犯障害者」で告発したことで世に出てきた問題です。
「触法障害者」問題。ざっくり言うと、地域社会で居場所をなくした障害者の方が、福祉につながることができず、そのまま犯罪者として「刑務所を居場所にしてしまう」問題です。シンポジウムでは、44回逮捕され、50年近く刑務所で人生を過ごした障害者も報告されています。
ショッキングですが、山本譲二さんは刑務所の中でこんな言葉を聞いたとか。
「俺さ、これまでの人生の中で、刑務所が一番暮らしやすかったと思ってるんだ。誕生会やクリスマス会もあるし、バレンタインデーにはチョコレートももらえる。それに、黙ってたって、山本さんみたいな人たちが面倒を見てくれるしね。
(中略)ここは、俺たち障害者、いや、障害者だけじゃなくて、恵まれない人生を送ってきた人間にとっちゃー天国そのものだよ」
(本)山本譲司「獄窓記」—投獄された元衆議院議員が刑務所で見たものとは 受刑者の25%程度は知的障害の疑いがあるという衝撃的なデータも出ています。
平成14年に、新しく刑務所に入った30,277人のうち7,079人、パーセンテージにしますと23.4%の者が、CAPASによる知的障害者の基準になる69以下がやはり同じように23.4%いる。同じように平成15年の新受刑者3万4,351のうちの6,959人、22.2%。それから平成16年の32,090人のうちの7,176人、言い換えれば23.3%がやはり69以下である。
1.わが国の矯正施設における知的障害者の実態調査
さらに、取調べにおいても、コミュニケーションに障害がある人は不利になります。シンポジウムの主催者の一人でもある、郵便不正事件で冤罪となった村木厚子さんは「障害がある人が取調べを受けることは、言葉が通じない外国で取調べを受けるようなものです」と語っています。
「地域社会で居場所をなくした障害者が、刑務所をよりどころにしている」という、かなり理不尽な社会問題なので、最近になって解決の動きが高まっています。今回のシンポジウムでは、多種多様な取り組みが紹介されていました。詳しくはまた別の記事にて。
マスメディアが隠蔽する「触法障害者」問題
そんな大きな課題である「触法障害者」問題ですが、一般的にはあまり知られていません。マスメディアで報道されることも滅多にありません。これは一体なぜなのでしょうか。
シンポジウムの冒頭で基調講演をなさった、長崎新聞記者の北川亮さんは「メディアが構造的に隠蔽してしまう」問題を指摘しています。
新聞社には、警察から「報道資料」として、日々「誰が、どんな罪を犯して逮捕されたか」という情報が伝えられます。新聞社はその情報を元に、警察や関係者に取材をして、記事を書いていくわけです。
しかし、すべての犯罪が新聞記事になるわけではありません。たとえば「万引き」のような小さな犯罪は、わざわざメディアは報道しないわけです。
問題はここにあります。触法障害者の大部分は、メディアに報道されるような大きな罪ではなく、さい銭泥棒や万引き、無銭飲食といった、小さな罪で捕まります。彼らは居場所を失い、金銭も失い「食うに困った」果てに、盗みを働くわけです。
報道資料には確かに彼らの名前・罪状は掲載されていますが、それは一見しただけでは「ネタ」になりません。メディアは構造的に、小さな罪を繰り返す障害者たちを見落としてしまうのです。北川さんいわく、後で調べてみたら、取材をした触法障害者たちの名前は、すべて報道資料として新聞社に届いていたそうです。
世の中には、触法障害者以外にも、こうしてメディアが構造的に見落としてしまう問題があるのでしょう。その意味でも、ぼくら個人メディアができることは多いと思われます。
この問題については、以下の書籍が詳しいです。長崎で取り組まれている最新の取り組みについても、詳しく収録されています。
居場所を探して―累犯障害者たち
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長崎新聞社「累犯障害者問題取材班」
長崎新聞社
2012-11
Amazon Kindle 楽天ブックス
触法障害者問題を告発した原点である「獄窓記」もおすすめ。歴史に残るノンフィクションです。
獄窓記 (新潮文庫)
posted with ヨメレバ
山本 譲司
新潮社
2008-01-29
Amazon Kindle 楽天ブックス
BLOGOS- 2013年07月16日 08:18