2年ほど前、栗栖良依さんという女性からメールが届いた。
「『スローレーベル』というブランドのワークショップを横浜の『象の鼻テラス』で行うのですが、トークショーに出演してもらえないでしょうか」というものだった。
「スローレーベル」は、短時間に大量生産する「ファスト」に対し、自由で「スロー」なものづくりを目指したブランドだ。スパイラル/ワコールアートセンターが「象の鼻テラス」を拠点に、アーティストと企業、福祉施設、職人をつなぐプロジェクト「横浜ランデブープロジェクト」をスタートし、そこに栗栖さんが参加することで「スローレーベル」は生まれた。若手のクリエーターがディレクションを行い、障害者だけでなく老若男女誰もが創作に参加できる、クリエイティブな“マスクラフト”だ。
おしゃれな世界観のあるワークショップだと聞き、興味津々でトークショーへと向かった。海に突き出した場所にある「象の鼻テラス」に着くと、織り機を使う若い女性や、テーブルで細かい作業に熱中している子どもなど、思い思いに創作に励んでいた。障害者のために開催されるワークショップというよりも、いろいろな人たちの和やかでおしゃれな集まり、という雰囲気だった。
栗栖さんは、小柄な美しい女性だが、杖をついて現れた。「じつは、私も障害者なんです」とにこにこ笑っている。イタリアのドムスアカデミーでビジネスデザインについて学んだが、骨肉腫を患い、障害を負う身となったという。「障害を持ちながらこの仕事をしていると、逆に多くのことを学べて、むしろ私は助けられるんですよ」と明るい表情だ。
布を編んで作った手作りのコースターや、紙細工で作ったブローチなど完成度が高く、マーケットの中でも十分に戦っていける力を感じる。すべての作品をプロのクリエーターがディレクション。また、「スローレーベル」からプロとして飛び立つ障害者もいるという。
障害者にクリエイティブなものづくりをする機会を提供する、という意味では確かに「エシカル」だが、栗栖さんや参加者からは、エシカルうんぬんより、ひたすら「おしゃれに手作りするって楽しい」という思いを感じる。
そこでふと、思い出した逸話がある。知り合いの自閉症の男性が、養護学校の高校を卒業して就職活動をしたときのことだ。障害者雇用をすることで知られる某大手企業の就職体験に参加したのだが、与えられた仕事は、一日中ボトルにラベルを張るという単調な作業。途中で彼は居眠りをしてしまい、「うちの会社には向いていません」と断られたという。「障害者だからって、こんな単調な作業だけを押し付けるのはおかしいと思った」という彼の母親の言葉が頭から離れなかった。
そのことを栗栖さんに話すと、「むしろ我々は、障害者がもっている、すばらしい色彩感覚や創造力に助けられているんです。我々の持っていない彼らの才能と組んで、一点ものを手作りする、新しいものづくりの世界を作っている。そういう機会を増やしたいんです」。 「スローレーベル」は、これからの時代の産業のあり方も示しているのではないだろうか。
徳島や道後など、地方の地場産業とも組む形で成長を続けている「スローレーベル」だが、この春は、本拠地である「象の鼻テラス」で、3月1日~23日まで、ワークショップ 「Blue Ocean Blue Sky うみとそらのものづくり」展が開催される。この機会にぜひ、体験、見学し、皆で「ものづくりの未来」について意見を交わしたいと思っている。
asahi.com : 2014年2月28日
「『スローレーベル』というブランドのワークショップを横浜の『象の鼻テラス』で行うのですが、トークショーに出演してもらえないでしょうか」というものだった。
「スローレーベル」は、短時間に大量生産する「ファスト」に対し、自由で「スロー」なものづくりを目指したブランドだ。スパイラル/ワコールアートセンターが「象の鼻テラス」を拠点に、アーティストと企業、福祉施設、職人をつなぐプロジェクト「横浜ランデブープロジェクト」をスタートし、そこに栗栖さんが参加することで「スローレーベル」は生まれた。若手のクリエーターがディレクションを行い、障害者だけでなく老若男女誰もが創作に参加できる、クリエイティブな“マスクラフト”だ。
おしゃれな世界観のあるワークショップだと聞き、興味津々でトークショーへと向かった。海に突き出した場所にある「象の鼻テラス」に着くと、織り機を使う若い女性や、テーブルで細かい作業に熱中している子どもなど、思い思いに創作に励んでいた。障害者のために開催されるワークショップというよりも、いろいろな人たちの和やかでおしゃれな集まり、という雰囲気だった。
栗栖さんは、小柄な美しい女性だが、杖をついて現れた。「じつは、私も障害者なんです」とにこにこ笑っている。イタリアのドムスアカデミーでビジネスデザインについて学んだが、骨肉腫を患い、障害を負う身となったという。「障害を持ちながらこの仕事をしていると、逆に多くのことを学べて、むしろ私は助けられるんですよ」と明るい表情だ。
布を編んで作った手作りのコースターや、紙細工で作ったブローチなど完成度が高く、マーケットの中でも十分に戦っていける力を感じる。すべての作品をプロのクリエーターがディレクション。また、「スローレーベル」からプロとして飛び立つ障害者もいるという。
障害者にクリエイティブなものづくりをする機会を提供する、という意味では確かに「エシカル」だが、栗栖さんや参加者からは、エシカルうんぬんより、ひたすら「おしゃれに手作りするって楽しい」という思いを感じる。
そこでふと、思い出した逸話がある。知り合いの自閉症の男性が、養護学校の高校を卒業して就職活動をしたときのことだ。障害者雇用をすることで知られる某大手企業の就職体験に参加したのだが、与えられた仕事は、一日中ボトルにラベルを張るという単調な作業。途中で彼は居眠りをしてしまい、「うちの会社には向いていません」と断られたという。「障害者だからって、こんな単調な作業だけを押し付けるのはおかしいと思った」という彼の母親の言葉が頭から離れなかった。
そのことを栗栖さんに話すと、「むしろ我々は、障害者がもっている、すばらしい色彩感覚や創造力に助けられているんです。我々の持っていない彼らの才能と組んで、一点ものを手作りする、新しいものづくりの世界を作っている。そういう機会を増やしたいんです」。 「スローレーベル」は、これからの時代の産業のあり方も示しているのではないだろうか。
徳島や道後など、地方の地場産業とも組む形で成長を続けている「スローレーベル」だが、この春は、本拠地である「象の鼻テラス」で、3月1日~23日まで、ワークショップ 「Blue Ocean Blue Sky うみとそらのものづくり」展が開催される。この機会にぜひ、体験、見学し、皆で「ものづくりの未来」について意見を交わしたいと思っている。
asahi.com : 2014年2月28日