視覚障害の男性が東武東上線川越駅のホームから誤って転落し、死亡した事故から2年。
「一声で救える命がある」。盲学校である県立特別支援学校塙保己一学園(川越市)の生徒や保護者らは再発を防止しようと、視覚障害者への声掛けを訴えた。
県でも転落事故を防ごうと「内方線付き点状ブロック」の設置を促進。同ブロックは視覚障害者が立っている位置をより分かりやすくするもので、鉄道会社に助成をして普及を図る。
2012年3月6日、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師橋本彰雄さん=日高市、当時(62)=が川越駅のホームから誤って転落、進入してきた電車にひかれて死亡した。
事故の再発を防ごうと、塙保己一学園は今月16日、さいたま市大宮区のJR大宮駅西口デッキ上で、通行人に「視覚障害者を駅ホーム転落事故から守ること」を呼び掛けるキャンペーンを実施した。
3月18日の「点字ブロックの日」に合わせて行われたもので、事故以前より実施されており、今回で17回目。
生徒や保護者、卒業生ら60人は「点字ブロックを自転車などでふさがないこと」を訴えた。
同学園の荒井宏昌校長(56)が「駅のホームで視覚障害者を見かけたら『危ない』の一声を。その一言だけで救える命があります」との呼び掛けに合わせ「視覚障害者を駅のホームの転落事故から守って!」と書かれたポケットティッシュや菓子を通行人に配布した。
キャンペーンに参加した同学園高等部2年生の塚崎幸平君(17)は「利用客の多い駅では、電車のドアが開いた瞬間に人が殺到し足がよくぶつかる。うまくよけることができなかったために、ホームと電車の隙間に落ちそうになったこともある」と困り顔で話す。
「白いつえを持った人を見たら少しでもいいので気を使ってほしい」と思いを込めながらティッシュを配っていた。
県は本年度から、視覚障害者のホーム転落事故をなくそうと、駅に設置する「内方線付き点状ブロック」への助成を開始している。
同ブロックはホーム内側に線状の突起、電車側に丸い突起と使い分けることで、視覚障害者が自分の立っている位置が安全であるかどうかを理解することができる。
国は11年、国内での視覚障害者転落事故の約9割が利用客1万人以上の駅で起きていることから、利用客の多い駅を中心に同ブロックを速やかに設置するよう自治体に通達していた。
同ブロックの設置費は1ホームで約1千万円。助成が適用されると、国が3分の1、県・市町村で3分の1を負担する。鉄道会社の負担は3分の1で済む。
県内の利用客1万人以上の駅は133駅。3月1日現在で、うち29駅に同ブロックが設置されている。川越駅では転落事故後の12年5月に設置された。
本年度末には、費用の助成が適用された東武スカイツリーラインの大袋駅、東武東上線の新河岸駅、霞ケ関駅、若葉駅の計4駅で設置が完了する予定。県交通政策課は「17年度までに約8割以上の駅で設置できるよう助成していく」としている。
駅のホームで視覚障害者を見たら声掛けをするよう呼び掛ける県立特別支援学校塙保己一学園の関係者ら=さいたま市大宮区のJR大宮駅西口
2014年3月25日(火) 埼玉新聞