重度の肢体不自由と知的障害を併せ持った重症心身障害者の通所事業を展開する「島田療育センターはちおうじ」(東京都八王子市台町)が今春、開設から3年を迎える。
入所施設が飽和状態にある中、在宅生活を送る患者の受け皿となり、日中の活動の場を提供している。ただ、重症心身障害児・同障害者(重症児者)が在宅で暮らすためには、いまだ多くの課題が残されている。
◆言葉は話せなくても…
「おやつですよ」。通所事業を利用する20歳代の男性の腸につながる管に、女性スタッフが麦茶を注いでいた。布団の上に横になっている男性の手がわずかに動く。「おいしかったのかな。おなかいっぱいになりましたかー?」。男性が言葉を発することはないが、女性スタッフは次々と話しかける。
利用者たちは歩くことができず、体の可動範囲もごくわずか。そのため、食事や移動、排せつなど日常生活のほぼすべてで介助を必要とする。トイレへの移動などには、体を包むための布がつり下がったリフトを用いている。
布団に横たえる際は、スタッフが利用者の膝の下や背中の下にクッションを置く。利用者によって心地よいと感じる体のポジションが違うという。「言語でのコミュニケーションはとれなくても、注意深く観察していると、何に喜んで何を嫌がるのか、分かってくるのです」と同センター通所科の箱崎一隆科長は話す。
同センターは、日本で初めて開設された重症児施設「島田療育センター」(多摩市)の分園として2011年4月にオープン。約230人が入所する大規模入所施設である本園に対し、分園では在宅で生活する患者の支援に重点を置いているのが特徴だ。
通所科には、特別支援学校卒業後の10~40歳代の17人(男性14人、女性3人)が在籍。その多くが、鼻腔(びくう)栄養や胃、腸ろう、気管内の吸引など、医療的ケアを必要とする利用者だ。1日に10人前後が自宅から送迎バスなどで通い、午前10時頃から午後4時頃まで、看護師や介護士、保育士などのスタッフから介護を受けている。
◆全国に4万3000人
社会福祉法人「全国重症心身障害児(者)を守る会」の岡田喜篤・常務理事によると、重症児者は、全国に推計で約4万3000人。全国に約200ある重症児者の入所施設はほぼ満床で、12年時点で、7割弱が在宅で生活しているとみられている。高齢化も進んでおり、今後、在宅の割合はさらに増えることが予想されるという。
◆介護者75%体調不良
「島田療育センターはちおうじ」のある利用者の母親の1日は、午前5時半、栄養剤を作ることから始まる。腸への注入にかかる時間は1回約3時間半。1日に必要な4回分のうち、2回はセンターで行うが、残る2回は朝と夜に自宅で行い、最後の注入が終わるのは午前3時頃。「いつ体力の限界を迎えるか」と将来に不安を抱く。
同センターの小沢浩所長らが、医療的ケアを必要とする重症児者の介護者を対象に調査を行ったところ、介護者の睡眠時間は平均5・2時間で、75%が介護者自身の体調不良を抱えていた。こうした介護者の休息のため、短期入所の必要性が高まっているが、現状では受け皿が十分でなく、利用したくてもできなかった経験を持つ介護者は、63%にも上った。
この母親も、「緊急で預けられる場所がなく、冠婚葬祭にも出席できない」と話す。小沢所長は、「在宅の重症児者を支えるためには、医療だけでは限界があり、福祉との連携が必要。親の負担を軽減するため、介護保険のケアマネジャーのように、医療機関や行政などをつなぐ橋渡し役の育成も不可欠だ」と話す。(蔵本早織)
(2014年3月24日 読売新聞)
入所施設が飽和状態にある中、在宅生活を送る患者の受け皿となり、日中の活動の場を提供している。ただ、重症心身障害児・同障害者(重症児者)が在宅で暮らすためには、いまだ多くの課題が残されている。
◆言葉は話せなくても…
「おやつですよ」。通所事業を利用する20歳代の男性の腸につながる管に、女性スタッフが麦茶を注いでいた。布団の上に横になっている男性の手がわずかに動く。「おいしかったのかな。おなかいっぱいになりましたかー?」。男性が言葉を発することはないが、女性スタッフは次々と話しかける。
利用者たちは歩くことができず、体の可動範囲もごくわずか。そのため、食事や移動、排せつなど日常生活のほぼすべてで介助を必要とする。トイレへの移動などには、体を包むための布がつり下がったリフトを用いている。
布団に横たえる際は、スタッフが利用者の膝の下や背中の下にクッションを置く。利用者によって心地よいと感じる体のポジションが違うという。「言語でのコミュニケーションはとれなくても、注意深く観察していると、何に喜んで何を嫌がるのか、分かってくるのです」と同センター通所科の箱崎一隆科長は話す。
同センターは、日本で初めて開設された重症児施設「島田療育センター」(多摩市)の分園として2011年4月にオープン。約230人が入所する大規模入所施設である本園に対し、分園では在宅で生活する患者の支援に重点を置いているのが特徴だ。
通所科には、特別支援学校卒業後の10~40歳代の17人(男性14人、女性3人)が在籍。その多くが、鼻腔(びくう)栄養や胃、腸ろう、気管内の吸引など、医療的ケアを必要とする利用者だ。1日に10人前後が自宅から送迎バスなどで通い、午前10時頃から午後4時頃まで、看護師や介護士、保育士などのスタッフから介護を受けている。
◆全国に4万3000人
社会福祉法人「全国重症心身障害児(者)を守る会」の岡田喜篤・常務理事によると、重症児者は、全国に推計で約4万3000人。全国に約200ある重症児者の入所施設はほぼ満床で、12年時点で、7割弱が在宅で生活しているとみられている。高齢化も進んでおり、今後、在宅の割合はさらに増えることが予想されるという。
◆介護者75%体調不良
「島田療育センターはちおうじ」のある利用者の母親の1日は、午前5時半、栄養剤を作ることから始まる。腸への注入にかかる時間は1回約3時間半。1日に必要な4回分のうち、2回はセンターで行うが、残る2回は朝と夜に自宅で行い、最後の注入が終わるのは午前3時頃。「いつ体力の限界を迎えるか」と将来に不安を抱く。
同センターの小沢浩所長らが、医療的ケアを必要とする重症児者の介護者を対象に調査を行ったところ、介護者の睡眠時間は平均5・2時間で、75%が介護者自身の体調不良を抱えていた。こうした介護者の休息のため、短期入所の必要性が高まっているが、現状では受け皿が十分でなく、利用したくてもできなかった経験を持つ介護者は、63%にも上った。
この母親も、「緊急で預けられる場所がなく、冠婚葬祭にも出席できない」と話す。小沢所長は、「在宅の重症児者を支えるためには、医療だけでは限界があり、福祉との連携が必要。親の負担を軽減するため、介護保険のケアマネジャーのように、医療機関や行政などをつなぐ橋渡し役の育成も不可欠だ」と話す。(蔵本早織)
(2014年3月24日 読売新聞)