「一にも二にも訓練。とっさに行動できるよう体で覚えておかないと」。大分県の南端に近い佐伯市蒲江の丸市尾(まるいちび)地区。区長の児玉和康さん(67)は津波避難の心掛けを強調した。南海トラフ巨大地震が発生した場合、同地区には最大で高さ13メートル超の津波が襲うと予想されている。集落を囲む山には避難場所を計6カ所整備。さらに高速道路の建設残土を積み上げ、高さ20メートル余りの人工高台も造られた。
津波の第1波は地震発生から26分後に到達するとされる。昨年11月の訓練では、約110人の参加者全員が避難場所まで20分以内に移動を終えた。家を出る際に黄色い小旗を玄関などに立てるように決め、避難が遅れて中に残っている人がいないかを確認する時間が短縮できたという。
ただ、地区はほぼ2人に1人が高齢者。児玉さんは不安を抱く。「対応できるか、本当のところは起きてみないと分からない」
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県内で津波被害が予想されるのは南海トラフ地震に限らない。県中部を大津波が襲う「別府湾地震」、県北部を中心に被災する「周防灘地震」。沿岸部はどこも津波の危険性を抱える。
県が2013年度に策定した「地震・津波対策アクションプラン」では、津波の浸水が想定される沿岸12市町村の619地区全てで、住民の避難行動計画の作成と避難地・避難路の整備、確保をするとした。県防災対策室などによると、今月末までには全地区で避難計画がまとまる見通しだ。
一方、災害時に避難が難しい高齢者や障害者を手助けする「個別計画」の作成は遅れている。県地域福祉推進室によると、県内18市町村のうち、姫島村のみが今月末までに完了する見込み。5市町はまだ着手もできていない(2月末時点)。同室は「プライバシーの問題に加え、手助けする人を探すのも苦労する」と困難な実情を説明する。
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津波対策の先駆的な取り組みで知られる佐伯市米水津の宮野浦地区。避難場所の整備と併せ、住民の意識啓発に力を入れてきた。区長の宮脇茂俊さん(70)は「ここまで来れば生き延びられる、という意識がだいぶ定着した」と話す。
手助けが必要な人の「ひなん支援プラン」作成は、米水津の全地域が取り組んでいる。消防団員が毎年3月に消火器の点検で全戸を回るのに合わせ、援助の希望者、協力者を確認。情報を更新している。
東日本大震災では岩手、宮城、福島3県の死者1万5823人のうち、60歳以上が1万398人に上った(昨年8月末時点、警察庁調べ)。避難行動の意識付けと併せ、災害弱者の命をどう守るか。普段からの地域の防災活動が鍵を握る。
※この記事は、3月6日大分合同新聞朝刊1ページに掲載されています。