2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、駅や公園などにある公共のトイレを快適にしようという運動が進められている。その目指すところは、日本を訪れる人たちの「おもてなし」にとどまらない。障害者や高齢者、赤ちゃん連れの人など、誰もが外出時に安心できる環境をつくる取り組みだ。
NPO法人日本トイレ研究所(東京)は東京五輪・パラリンピックを見据え、14年から「世界をもてなすトイレプロジェクト2020」を進めている。車いすや盲導犬の利用者、オストメイト(人工肛門(こうもん)を使う人)、性的少数者、外国人、子育て中の人、高齢者らが公共トイレでどんなことに困っているのかを知り、解決を目指す。
■「トイレの困りごと」に2千件超の声
駅や公園などの「外出時のトイレ」で困っていることを募ると、2141件の意見が寄せられた。「視覚障害者には水を流すボタンやトイレットペーパーの位置をさがすことが困難な時がある」「外見からは健康な人と区別がつかない内部障害者もいることを知ってほしい」など、悩みは人それぞれだった。
困りごとの代表例を48件選び、2月から特設サイト(http://toilet-nippon.jp/)で週1件ずつ公表している。解決策の提案や意見を書き込めるようにした。検索機能も付けた。加藤篤代表理事は「外出先ですてきなトイレを見つけたら、ぜひ投稿を」と呼びかける。
スマートフォンのアプリにはトイレ関連のものが増えてきている。NPO法人Check(チェック)の「Check A Toilet(チェック・ア・トイレット)」は、全国の多機能トイレを探せるアプリだ。ボランティアの協力を得ながら集めた情報は約6万件。段差の有無や手すりの形・位置、介助者用のスペースなどが分かる。情報を提供したい人は、ユーザー登録をして参加できる。
■現在地に近いトイレ探すアプリも
ライオンの「@トイレ」は一番近くにある公共トイレの位置が分かる。スマホ画面の「EMERGENCY!(緊急)」ボタンを押すと、現在地に近いトイレの候補地が出てくる。関東、関西、中京、札幌、福岡の駅のトイレ情報も調べられる。
観光地などでは公衆トイレ整備に力を入れ、ウェブサイトでその位置を公開する所もある。和歌山県は13年度からの「おもてなしトイレ大作戦」で約650カ所を整備した。昨年、高野山開創1200年を迎え、国民体育大会も開かれたことなどから急ピッチで進めた。
高知県でも12年度から「おもてなしトイレ」事業を始め、清潔で明るいなどの基準を満たした722件を認定した。群馬県の「ぐんまビジタートイレ」事業は03年度から進められており、これまでに215カ所を認証した。2年ごとに維持管理の状況も確認しているという。(見市紀世子)
<「トイレの困りごと」に寄せられた声(抜粋)>
・公衆トイレが少ない。頻尿なので外出ができない(80代男性)
・水を流すボタンがどれか分からないことがある(80代女性)
・車いすを使っている。おむつを替えるベッドがなくて使えないことが多い(10代女性)
・オストメイトでも利用できるトイレが少なくて困る(60代男性)
・男性用トイレにもベビーシートを付けてほしい(40代女性)
・「だれでもトイレ」が少なく、トランスジェンダーのため男女どちらにも入れない(10代)