新潟県出身の前澤俊男さん(68)は、千葉県市川市のNPO法人SSU市川で副会長を務める。「地域の福祉は地域住民の手で」というSSUで、前澤さんは福祉送迎サービスやヘルパー、日常の困りごと解消の“助けあいサービス”で活躍している。週4日マンション掃除の仕事もしながら有償ボランティアを続ける、前澤氏の毎日とは。
■近くにいるから分かることも
高校を卒業してから入社した企業は繊維系卸しが多かった。会社員と並行してコットンショップを経営したこともあったが、62歳で勤務先の会社が倒産。
失業保険をもらいにハローワークへ通ううちに、職業訓練があると案内される。介護ヘルパーがあったので、希望を出したが通らない。職業訓練はハローワーク側で審査があり、それに合致しないと受けられないからだ。断られてなにくそと発奮し、他の講習機関を調べて介護ヘルパーの資格を取った。
その資格がいま役立っている。SSUの福祉送迎で病院まで送っていった後、車いすを押して病院内の付き添いをするにはヘルパー資格が必要だ。資格があるおかげで、家に迎えに行き、病院内の受付や付き添い、家までの送りと一貫してサービスができる。
高齢者や障害者などの移動困難者を手伝っていると、疑問に思うことがある。何年か前に、近くの体育館に車いす用のスロープが設置された。ところが、急勾配すぎて車いすの人が自力で上がれない。
管理者に意見すると、「私が車いすを実際に押してみて、運べましたから問題ないです」と突っぱねられた。「わかってないな、と思いましたよ。障害のある人は、自分でできることは自分でやりたい。最初から他人に押してもらう前提のスロープでは、役に立たないですよ」と前澤さん。各方面に働きかけ続け、晴れて“自分で登れる車いすスロープ”が設置された。
上を見ればきりがない
SSUの活動のかたわら、送迎サービスの上部団体、移動支援ネットワークちばの事務局および理事も務める。国土交通省認定団体だ。
「会社員を辞めてボランティアを始めるのは、最初勇気が必要だったし、緊張もしました。有償といっても、もうかるわけではないですし。ただ、利用する人にとっては民間の半額程度の送迎料金や、“助け合いサービス”の仕事は重宝すると思います」
上を見ればきりがないし、ブラブラしているより近所で役に立てるのは幸せだと感じている。会社などで偉かった人は、昔の立場にけじめをつけて臨むと新しいところへも入りやすくなると思う。SSUの活動を通していろいろな人に会えて、今まで知らなかった世界を知ることができる。
プライベートでは、障害者スポーツの応援をしている。先日、車いすでラグビーをする「ウィルチェアラグビー」の応援に行った。その日、アジア・オセアニア・チャンピオンシップで全日本チームが優勝、みごとパラリンピック出場権を獲得した。うれしい1日だったという。
2016.03.23 ZAKZAK