社会福祉法人改革を柱とした社会福祉法改正案が23日、参議院本会議で一部修正の上、賛成多数で可決された。法案は2015年の通常国会に提出され、衆議院を通過したが、時間切れで継続審議扱いとされ会期をまたぐことになった。このため、衆議院で再度審議されるが、3月中には成立する見込みだ。
15〜17日に開かれた参院厚生労働委員会では、付帯決議が15項目付いた。社会福祉充実残額の算出にあたり事業継続に必要な財産額を適切に算定することや、法人が労働関係法制を確実に順守するよう措置することなど、衆院の付帯決議にはなかった内容も盛り込まれた。
法案は福祉サービスの供給体制の整備と充実を図るため、社会福祉士及び介護福祉士法と社会福祉施設職員等退職手当共済法の改正案とセットで提出された。
法人改革では、無料または低額な料金による福祉サービス(地域公益活動)の提供を法人の責務とする。全法人に議決機関としての評議員会を必置とし、一定規模以上の法人には会計監査人による監査を義務付ける。定款や役員報酬基準などを広く一般に公表することも求める。
また、法人の全財産から事業継続に必要な財産を控除して社会福祉充実残額(いわゆる余裕財産)を明確にし、残額のある法人は社会福祉充実計画を策定し所轄庁の承認を得なければならない。施行日は改正事項によって異なる。
厚労省は15日の参院厚労委員会で、法人改革に関して「地域公益活動の責務化は法人の本旨を明確化したもの」「充実残額の算出を容易にするソフトを開発して配付し、小規模法人を支援する」「充実残額を職員処遇改善に充てる場合は充実計画に位置付けることになる」「大規模法人の会計監査人の費用は法人が負担する」などと答弁した。
また16日は、参考人として武居敏・全国社会福祉法人経営者協議会副会長ら4人が出席。法人改革について武居氏は「前向きに捉えており、真の公益法人としての役割を果たせるようにしたい」とした。
共産党、社民党・護憲連合は「地域公益活動を法人の責務とすることは社会福祉制度における公的責任を縮小させるものだ」などとして法案に反対した。
なお、介護福祉士の資格取得方法の見直しについては、22年度から養成施設卒業生に国家試験を課す。退職手当共済制度の障害者施設・事業への公費助成は経過措置を設けて廃止する。
■付帯決議の内容は以下の通り
①社会福祉法人の経営組織のガバナンスを強化するには評議員、理事等の人材の確保や会計監査人の導入等、社会福祉法人にとって新たにさまざまな負担も懸念される。このため特に小規模の法人については、今後も安定した活動ができるよう、必要な支援に万事遺漏なきを期すこと。また、人材の確保が困難な地域にある法人についても必要な配慮を行うこと。さらに、社会福祉法人の適正な運営に必要な識見を有する人材を育成するため、自治体等が行う研修等の取り組みに必要な支援を行うこと
②事業運営の透明性の向上を図るため、都道府県による財務諸表等の収集、分析および活用ならびに国による全国的なデータベースの整備に当たっては、一般国民、特に利用者が社会福祉法人の経営状況を了知でき、かつ、外部評価に耐えられる内容となるよう、分かりやすい評価尺度を作成し、公表すること
③いわゆる内部留保の一部とされる社会福祉法人が保有する純資産の額から事業の継続に必要な財産額を控除等した「社会福祉充実残額」の算出に当たっては、社会福祉法人の経営に支障を来すものとならないよう、事業の継続に必要な財産額が適切に算定されるようにすること。また、政府統計等により把握される他産業の民間企業の従業員の賃金等の水準を所轄庁から所管法人に示すよう要請することにより、「社会福祉充実残額」を保有する社会福祉法人が社会福祉充実計画を作成するに当たって、当該賃金等の水準を斟酌した上で、社会福祉事業を担う人材の適切な処遇が確保されていることを確認することの重要性の周知を徹底すること
④事業の継続に必要な財産額が確保できない、財産の積立不足が明らかな法人に対しては、必要な支援を検討すること
⑤地域公益活動の責務化については、待機児童、待機老人への対応等、本来の社会福祉事業を優先すべきであり、社会福祉法人の役割と福祉の公的責任の後退を招くことのないようにするとともに、社会福祉法人設立の主旨である自主性と社会福祉事業の適切な実施に支障を及ぼすような過度の負担を求めるものではないことを周知徹底すること
⑥社会福祉法人の所轄庁については、指導監督等の権限が都道府県から小規模な一般市にも委譲されていること、社会福祉充実計画の承認等の新たな事務が増えることから、所轄庁に対し適切な支援を行うとともに、一部の地域において独自の取り扱いが散見されるとの指摘があることに鑑み、また指導監督が法定受託事務であることを踏まえ、指導監督にかかる国の基準を一層明確化することで、その標準化を図ること
⑦社会福祉法人の提供するサービスの質の確保に当たっては、高い能力を発揮する人材の雇用および職員全体で職務を補い合う業務体制の確立が求められることから、社会福祉法人において労働基準法、労働安全衛生法等の労働関係法令の確実な順守ならびに業務に関する規程の整備および運用がなされるよう、所要の措置を講ずること
⑧現下の社会福祉事業における人材確保が困難な状況に鑑み、介護人材を始めとする社会福祉事業等従事者の離職防止に資する措置を講ずるとともに、介護報酬、障害福祉報酬の改定による影響を注視しながら、職員の処遇の実態を適切に把握した上で、人材確保のための必要な措置について検討すること。また、介護人材の現状を正しく把握し、必要な人材を養成・確保するに当たっては、その量のみならず質についても適切に評価できる手法を検討すること
⑨社会福祉施設職員等退職手当共済制度の公費助成廃止に当たっては、職員確保の状況および本共済制度の財務状況の変化を勘案しつつ、法人経営に支障が生じないよう、障害者支援施設等の経営実態等を適切に把握した上で報酬改定を行うなど必要な措置を講ずるよう検討すること。また、公費助成の廃止の対象となった法人のうち、本共済制度から脱退した法人および新規採用者を本共済制度の対象としない法人に対し、社会福祉事業を担う人材の確保に当たって退職金が果たす役割の重要性の周知を徹底すること
⑩准介護福祉士の国家資格については、フィリピンとの間の経済連携協定との整合を確保する観点にも配慮して暫定的に置かれたものであることから、早急にフィリピン側と協議を行う等の対応を行うとともに、当該協議の状況も勘案し、准介護福祉士の名称、位置付けを含む制度の在り方について介護福祉士への統一化も含めた検討を速やかに行い、所要の措置を講ずること
⑪介護職員の社会的地位の向上のため、介護福祉士の養成施設ルートの国家試験義務付けを確実に進めるとともに、福祉サービスが多様化、高度化、複雑化していることから、介護福祉士が中核的な役割および機能を果たしていけるよう、引き続き対策を講ずること
⑫将来的に福祉職、介護職に就く人材を増やすべく、現在中学・高校教育における福祉、介護に関わるインターンシップの体験率が必ずしも高くない状況も勘案し、関係府省と連携して、福祉、介護に関わる基礎的理解と経験が得られるよう努めること
⑬介護職員の処遇については、介護・障害福祉従事者の人材確保のための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する法律(平成26年法律第97号)等により処遇改善に関する措置が行われてきたことを踏まえ、人材確保に支障を来さぬよう処遇改善に資する措置など必要な措置を講ずるとともに、正規・非正規、フルタイム・パートタイム等にかかわらず、均等・均衡待遇を確保するよう努めること
⑭介護職員が抱える心的・精神的負担に対する支援については介護労働がいわゆる燃え尽き症候群を引き起こす例が見られることから、今後も必要な調査を行うことにより介護現場の実態を適切に把握した上で、産業保健等によるメンタル面からのサポートについて幅広い観点から検討を行い、施設の労働環境を評価できる仕組みの構築を含めた所要の措置を講ずること
⑮本法律による改正後の社会福祉士及び介護福祉士法等の一部を改正する法律付則第6条の4の規定に基づき、育児休業、介護休業に準ずる休業を厚生労働省令で定めるに当たっては、雇用は継続しているものの、やむを得ず介護の実務に就けない場合、倒産や事業の縮小・廃止等の本人の責めによらない離職の場合、疾病等により雇用されること自体が困難な場合など実務に従事できないことにやむを得ない理由があると認められる場合について、適切に配慮すること。
2016年03月28日 福祉新聞編集部