精神障害者がイタリアに行って料理や農業を学び、将来は東京・銀座でレストランを開く――。障害者の就労支援をしている東京都内の団体がそんな試みを始めている。イタリアは精神科病院が全面的に廃止され、精神障害者は地域社会で生活するのが基本だ。イタリアに学ぶことで、障害者が働くことへの印象を変える狙いもあるという。
「イタリアで人情の温かさに触れ、物をつくる楽しさを知った。声を出す自信も持てるようになった」
イタリア北部ボローニャで9月から1カ月間、パスタ作りなどの研修を受けた渡辺淳さん(31)は、そう話す。日本では珍しい種類のパスタの作り方も現地で学んだ。レストランで身につけた技術をメニューに生かしたいと考えている。
渡辺さんは大学在学中に「自分を追い込んでしまい」、統合失調症を発症。今は精神障害者らの就労支援をする特定非営利活動法人「東京ソテリア」(東京都江戸川区)が雇用する形で週4日、事務作業をしている。同法人には渡辺さんのような「利用者」が約20人いるという。
ソテリアは昨年、ボローニャで障害者の地域生活を支える社会協同組合「エタベータ」と業務提携を結んだ。今年から、毎月1人ずつ日本から障害者を派遣し、エタベータが運営する農園や調理場で研修を受けてもらう。ソテリアの職員も同行し、利用者の生活面や技術面の指導に当たる。
ソテリアは江戸川区内でカフェを開いているが、今後は研修を受けた障害者が中心となって、銀座周辺にイタリア料理の移動販売車を出せないか検討中だ。軌道に乗れば、レストランを出店するという夢もある。担当者の塚本さやかさんは「銀座という都心に障害者の働く場ができることで、精神疾患に対するイメージを変えたい」と話す。
障害者の雇用を巡っては、一定割合で知的・身体障害者を雇うことを企業に義務づける障害者雇用促進法がある。同法の改正で、来年4月から雇用率を2・2%(民間企業の場合、現行2・0%)に引き上げる一方、精神障害者も対象に含められるようになる。
精神障害者の雇用機会が増えることが想定されるが、ソテリアの野口博文代表(47)は「精神障害者を『保護する対象』と考えたり、罰則から逃れるために雇ったりすべきではない」といい、「精神障害者が働きながら、地域でのサポートを受けて生活できる仕組みづくりが必要だ」と指摘する。同団体は、こうした地域の受け皿となっているイタリアの社会協同組合をモデルにしたという。
精神科病院を全廃、精神障害者が地域で暮らすイタリア
イタリアでは1978年に「バザーリア法」と呼ばれる法律の成立で、精神科病院を廃止。法に触れる行為をした精神障害者を収容する司法精神科病院も2015年に廃止した。緊急時のみ一時的に居住できる施設があるほかは、基本的に入院はしない。社会協同組合などを通じてケアや就労支援を受けながら、地域で生活する。
今回、日本からの研修生を受け入れた「エタベータ」は、レストランや農園、印刷工房などを運営。約20人の障害者が職員として働き、年間5万ユーロ(約700万円)の利益を上げているという。
エタベータを行政の立場から支援してきた元ボローニャ精神保健局長で精神科医のイボンヌ・ドネガーニさん(66)は「精神障害者は危険だ、といった地域住民の偏見や心配はもちろんあった」という。エタベータも、長年かけた地域との交流の積み重ねで受け入れられるようになった。ドネガーニさんは「精神的ケアが必要になるのは、誰にも起こりうること、と理解されたからだ。むしろ、『病棟から地域へ』と意識を変えるべきは精神科医だった」と話した。
日本の精神障害者が、イタリアでパスタの打ち方などの調理を学んだ
朝日新聞 2017年12月10日
駅係員が視覚障害者にどう接したらいいか当事者に教わる勉強会が8日、大阪市天王寺区のJR天王寺駅であり、JR西日本の職員や視覚障害者など約70人が参加した。視覚障害者と駅係員がペアを組んでホームを歩き、互いに学びあった。
京都市中京区の男性(31)によると、目の前に障害物がある時など、一般の人が何も言わずに白杖(はくじょう)をつかんで誘導しようとすることがあるという。しかし、視覚障害者にとっては前方が分からなくなる不安な行為。久宝寺駅勤務の土師太輔(はしだいすけ)さん(34)は「白杖がどれだけ大切か再認識した」と話した。
さらに視覚障害者が駅係員とともに線路に降り、ホームの高さ(約140センチ)を確認。「これは上がれないなぁ」と思わず感想を漏らす人もいた。岸和田市の女性(47)は「思ったより高くなくて驚いた。ホームから落ちたら、きっと方向は分からず、足も取られて観念するしかないな、と思った」と話した。
福山、府中市の障害者就労継続支援A型事業所を利用する障害者112人が解雇された問題で、福山市の枝広直幹市長は8日、運営する同市曙町の一般社団法人「しあわせの庭」(山下昌明代表理事)に対し市が支払う給付金(10、11月分)を既に停止しており、利用者の未払い賃金に充当させるよう検討中であると明らかにした。同日の市議会一般質問で連口武則市議(水曜会)に答弁した。
県、未払い額の情報提供を命令
県は8日、障害者総合支援法に基づき、未払い賃金などの情報提供を「しあわせの庭」に命令した。
県の計画では、これまでは各自治体が請求を受けて施設利用料を支払ってきたが、支払いを停止していた10、11月分を利用者に自治体が直接支払い、未払い賃金分などと相殺する。20日までに未払い賃金の金額などが記載されたデータを提出するよう求めている。従わない場合は事業所の指定を取り消すことができるが、既に経営破綻しているため実効性はないという。【山田尚弘】
「しあわせの庭」自己破産を申請
「しあわせの庭」は7日、広島地裁福山支部に自己破産申立書を送付したことを弁護士を通じて明らかにした。
毎日新聞 2017年12月9日
飯田下伊那地方にある六つの障害福祉サービス事業所でつくるグループ「飯田下伊那倍増カフェ」が、知的障害などがある施設利用者が作った商品のお歳暮セットを受注している。利用者の工賃アップが大きな目的で、今年で10年目。新たな販路や施設間の結び付きを生むことにつながるなど、工賃以外の面でも成果をもたらしている。
セットには、ブルーベリージャム、トマトケチャップ、ラスク2袋、甘酒2種類、名古屋コーチンの卵の薫製、乾燥バジルを混ぜた食塩―の8品を詰めた。材料は施設利用者が栽培した物のほかも、できる限り地元産の食材にこだわる。
グループの広報担当で、障害者就労支援事業所「こぶし園」(下伊那郡豊丘村)職員の小木曽優介さん(34)は「自信を持って売りたいと思ってみんな取り組んでいる。味もばっちり」と胸を張る。
グループは2008年に発足。各施設の担当者が月1回ほど集まり、セット内容の相談や商品のアイデアを出し合う。施設間の連携が強まるとともに、お歳暮セットを通じて商品が知られるようになり、各施設に単体商品の注文があるなど、販路開拓にもつながったという。
小木曽さんによると、こぶし園では、10年前は1人当たり平均月額1万円に届かなかった工賃が、昨年度は約2万2千円に上昇。他の施設でも工賃は上昇傾向という。
こぶし園利用者の小沼仁さん(22)は「自分が作った物がおいしいと言われるとうれしい」。同じく利用者の矢野俊夫さん(60)は、働いたお金で毎年1回野球観戦に行くのが楽しみで、次に行く時は「グッズも買いたい」と笑顔を見せる。
小木曽さんは「お歳暮の取り組みが事業所同士や、お客さんと施設の利用者をつなげるツールになっている。職員のやりがいにもつながった」と話している。
今季の注文は22日まで。1セット3千円。送料別(全国一律500円)。
問い合わせはこぶし園(電話0265・35・8573)へ。
お歳暮セットを手にするこぶし園の利用者
(12月10日) 信濃毎日新聞