民間企業に厳しいルールを課しながら、範を示すべき中央省庁のなんとずさんなことか。
総務省や農林水産省など複数の省庁で、法律で義務づけられた障害者の雇用割合を過大に算出し、「水増し」していた疑いが出ている。厚生労働省の指針に定められた障害者手帳や医師の診断書などによる確認を怠り、対象外の人を算入していた可能性があるという。
自主的に再点検した地方自治体でも、同様の問題が次々と見つかっている。ずさんな算定は公的機関で横行していたとみるべきだろう。
厚労省は全省庁を対象に調査し、近く結果を公表するというが、調査対象を自治体にも広げ、すみやかに全容を解明するべきだ。同時に再発防止策も講じなければならない。
国や自治体に一定割合以上の障害者の雇用を求める障害者雇用率の制度ができたのは1960年。76年には民間企業にも義務づけられた。心身に何らかの障害を持つ人たちの働く権利を保障し、それぞれの人が能力を発揮し、生きがいを持って働ける社会を目指す。そんな理念に根ざす制度だ。
とりわけ国の機関や自治体には、民間企業より高い目標が設定されている。率先して取り組む姿勢を示すためだ。
厚労省は、昨年の国の行政機関の平均雇用率は2・49%で、当時の法定雇用率2・3%を大半が達成していると公表していた。ところがその数字が怪しくなったのだ。共生社会の理念を軽んじた行為と言うほかない。
なぜ中央省庁でずさんな算定がまかり通ったのか。民間企業との運用の違いも一因だろう。
従業員100人以上の企業が法定雇用率に達しない場合、その人数に応じて納付金を課せられる。算定が正しく行われているか、定期的な訪問検査もある。こうした仕組みは、公的機関にはない。チェック体制の在り方を見直すべきだ。
障害者の法定雇用率をめぐっては、2014年に厚労省所管の独立行政法人で、障害者を多く雇ったように装う虚偽報告が発覚した。厚労省はこれを受けて独立行政法人の検査を進めているが、国や自治体は対象から外した。身内への甘さにほかならない。
国や自治体の法定雇用率はこの4月から2・5%に引き上げられた。いくら目標を掲げても、実態把握もできていないのでは絵に描いた餅だ。
徹底的に調べ、悪質な行為には厳正に対処する。そのことなくして信頼回復はない。
2018年8月23日 朝日新聞社