奈良県に知的障害がある男女5人でつくる劇団がある。文学や哲学の古典作品を題材に、メンバーの素直な気持ちを軸にしたやりとりが対話劇に仕立てられる。独特な調子と間合いで発せられる言葉に観客は引き込まれ、ときに笑いが起きる。周囲の支えもあり、10年以上活動を続けてきた。
劇団「くらっぷ」に所属するのは奈良県在住の25~41歳。平成16年、社会福祉法人のデイサービスの一環で演劇を始め、その後、劇団として独立した。5人のうち3人が初期メンバーだ。
台本はなし
演出家、もりながまことさん(49)はヘルパーとして福祉の現場で活動する傍ら、活動当初から劇団と関わってきた。台本は用意せず、稽古はもりながさんが大まかな場面設定をし、5人がせりふや動きを自分で考えて演じる。見学する家族やもりながさんの反応を見て修正を繰り返し、最終的なストーリーが決まる。「彼らの営みをそのまま見せ、表現することに意味がある」と、もりながさんは話す。
6月中旬、第10回奈良演劇祭で上演したのは、プラトンの「饗宴」を基にした作品。神と人間の交流を描き、神役が「暴力をしていいと思うか」と問うと、人間役の2人がマル、バツと異なった回答をする。すると神役が「どうして答えが二つなんですか? 反省して一つにしなさい」と迫る-という具合だ。
「予想つかない」
約1時間の公演に、客席からは大きな拍手が起きた。名古屋市の会社員加藤奈々さん(40)は「予想がつかない劇だった。役者の発する言葉が印象的で、特別な意味を感じた」と話した。
メンバーの一人、木村由有里さん(28)はクリーニング店で働く一方で稽古に励む。母、光子さん(65)は「練習を重ねるごとに役に入り、舞台を見ると本当に役者だと思う」と目を細めた。
第10回奈良演劇祭で劇団「くらっぷ」が上演した作品の一場面
2018.8.26