中央省庁が長年にわたり、障害者の雇用割合を水増ししていたことが分かった。障害者手帳を持たない対象外の職員を算入する偽装を続けていたという。
労働意欲を高める障害者、雇用に努める企業への裏切り行為だ。開いた口がふさがらない。
厚生労働省が全省庁の調査を始めている。33の行政機関の多くが同じ手法を用いたのなら、共通の“手引”があった可能性も否定できない。各機関で誰が、どんな基準で障害認定をしていたのか。徹底解明を求める。
働く人の一定割合を障害者とする「法定雇用率」の考え方は、1960年制定の身体障害者雇用促進法で採用された。76年に雇用が義務付けられた後、障害者雇用促進法に変わり、対象も知的障害、精神障害に広がった。
法定雇用率は今年4月から、国と地方自治体が2・5%に、従業員45・5人(短時間雇用者は0・5人)以上の企業は2・2%に引き上げられている。
国は76年の義務化当初から水増しを繰り返してきたとみられ、国土交通省、総務省などが事実関係を大筋で認めている。
行政改革に伴って業務の外部委託が進み、障害者の仕事を確保しづらかった。国会対応をはじめ省庁には突発的な業務が多い―。そんな声が聞かれるものの、言い訳にはならない。
子会社を設けたり、職場外で働く「テレワーク」を活用したりして、雇用増を図る企業や自治体が増えている。都内では、企業の主催で障害のある人を対象にした合同面接会も開かれている。
薬の影響や体調の波が大きい人向けに、雇用率に算入できなくても、超短時間で働ける場を提供する企業がある。まだ不十分とはいえ、民間企業で働く障害者は昨年6月時点で50万近くに達し、労働者全体に占める割合も1・97%といずれも過去最多となった。
国の行政機関で採用が広がらないなら、その事実を明らかにし、企業の取り組みに倣って改善の道を探るのが筋だろう。
障害者雇用促進法は、障害者が労働者の一員として能力を発揮できる機会の確保を理念に掲げる。水増しからは、数値さえ満たせばいいと、政府自体が理念をないがしろにした姿勢が透ける。
厚労省は調査結果を公表する方針でいる。政府は雇用率の数合わせをするのではなく、障害のある人が働く価値を見いだせる仕組みをいかにつくるか、原点に返らなければならない。
(8月20日) 信濃毎日新聞
愛媛県は20日、法律で定められた障害者の雇用割合を水増ししていたと発表した。水増しの疑いがあるのは2017年に146人、18年は148人で、これらを除くと両年ともに法定雇用率を下回る。中央省庁で水増しが相次いで発覚したことを受け、県が調べていた。
県によると、障害者雇用促進法は、国などの機関の法定雇用率を3月まで2・3%、4月からは2・5%に設定している。国の指針では、算入できるのは障害者手帳などの所持者か、医師による判定書などがある人と定められている。
県は、障害が軽い人について、障害者手帳などの確認をしないまま、対象に入れていた。15年以上前から同様の対応を続けていたという。「担当者の制度に対する認識が甘かった」と説明している。県は6月現在、雇用割合を知事部局で2・57%、教育委員会で2・41%などとしていたが、実際には知事部局1・30%、教育委員会1・38%だった。
記者会見で菅豊正・県総務部長は「県民の模範となる立場でありながら、不適切な取り扱いを長年続けてしまった」と謝罪した。この問題を巡っては、文部科学、農林水産、防衛、法務各省などで同様のケースがあったことが判明している。
指定医診断に基づかず 自治体波及、15年前から
中央省庁の障害者雇用の水増し問題を受け調査を進めていた愛媛県は20日、記者会見を開き、菅豊正総務部長が「県の障害者雇用率の算定方法に誤りがあった」と明らかにした。指定医や産業医の診断に基づかないケースがあった。少なくとも、15年前から同様の取り扱いがあったとしている。障害者雇用を巡る問題は地方自治体にも波及した。
菅総務部長は「県民の模範となるべき県が、不適切な取り扱いをしていたことに心からおわび申し上げる」と謝罪した。
2018.8.20 産経ニュース
「ドドドッ」。山裾に広がる畑に耕運機のエンジン音が響く。操作するのは知的障害や精神障害のある人たちだ。就労継続支援B型事業所「スマイルコーン」(津市)は、農業を通じた障害者の就労支援に加え、増加する耕作放棄地対策という地域の問題にも取り組む。自身も車いすを利用する指導員の川原田憲夫さん(74)は「使われなくなった農地を障害者が耕して、環境保全に貢献できる」と話す。
毎日新聞 2018年8月20日
立憲民主党の枝野幸男代表は19日、中央省庁が雇用する障害者数を長年水増ししていた問題を巡り、閉会中審査開催など国会での審議が必要だとの認識を示した。堺市で記者団に「信じられないという思いだ。全貌解明に向け、国会としての緊急かつ精力的な動きが求められる」と述べた。
枝野氏は「閉会中審査や臨時国会の召集は、与党も拒否するような話ではない」と指摘した。
2018/8/19 日本経済新聞