視覚障害者と一緒にロープを握った伴走者が走る「ブラインドマラソン」。参加者を増やそうと、富山県内の男性2人が練習会を行う「ブラインド伴走会富山」を立ち上げた。「ブラインドマラソンを富山に根付かせ、10年、20年と続けたい」と意気込む。
7月下旬、富山県射水市内の公園で行われた練習会には、視覚障害者6人と伴走者5人が集まった。障害者と伴走者でロープを握り合い、約1時間、思い思いのペースで歩いたり走ったりした。視覚障害のある安達実さん(70)=富山市=は「仲間が多いのは素晴らしい。これからも楽しく走っていきたい」と笑顔を見せた。
ブラインド伴走会富山は、代表で視覚障害のある川口勇人(はやと)さん(50)=富山県高岡市=と、副代表で伴走者の波能(はのう)善博さん(40)=同=が今年3月に立ち上げた。会員は15人で、月に1回ほど練習会を開いている。
川口さんは2004年、脳に腫瘍(しゅよう)が見つかった。一部が視神経に食い込み、視力は徐々に低下。右目は全く見えず、左目の視力も0・01に。視力を失って間もなくは家に引きこもっていた。しかし、盲導犬と富士登山をしたり、伴走者と日本縦断マラソンに挑んだりした富山市の男性(80)のことを知り、「心に波風が立った」。
人づてに、伴走経験の豊富な波能さんと知り合い、昨年2月から走り始めた。最初は300メートルほどしか走れなかったが、週1回の練習を続けて、同6月には大会に出場して5キロを完走。走ることが楽しくて、その後も波能さんと大会に出場している。「障害者は引きこもりがち。ブラインドマラソンを知って、外に出るきっかけになればうれしい」と川口さん。
一方で波能さんは、ブラインドマラソンのレース中、周りの反応が気になっていた。「気を使われ過ぎているようで。もっと気軽に接してもらえたら」
ブラインドランナーが増え、伴走者と走る風景が当たり前になってほしい。2人はそんな思いで、練習会を続けていく。
次回の練習会は25日午前9時半から。場所は射水市黒河の歌の森運動公園。問い合わせはメール(blindtoyama@gmail.com)で。
位置・腕振り・歩幅がポイント
ランニングが趣味の記者(31)も練習会に参加し、伴走を体験してみた。
歩幅が違うと動きが合わせづらいため、ペアを組むのは身長が同じくらいの人がいいという。記者は川口さんと一緒に走った。
ロープをつかんで2人で走る際は、走る位置・腕振り・歩幅の三つがポイントになる。まずは、並んで歩きながら腕振りと歩幅を合わせる。走り始めてしばらくするとリズムが合い出し、スムーズに進めるように。一体感が心地いい。かつて運動会でやった二人三脚のようで、懐かしさを覚えた。
川口さんの走り慣れたコースだったため、細かな声かけは要らず、カーブでは軽くロープを引くと川口さんの体も自然と傾く。ただし「初めてのコースでは、走る前に道幅を確認してもらうことが必要」と波能さん。段差や急カーブ、折り返しなどでは丁寧な声かけが欠かせないという。
障害者と健常者が自然に触れ合い、生き生きとランニングを楽しむ姿に刺激を受け、心が和んだ。今度はプライベートで参加してみよう。
朝日新聞社 2018年8月23日