婚活をしていると、「あれ?ちょっと変わっているな...」という相手に、なぜか普段より高い確率で遭遇します。婚活市場では、コミュニケーション力の高い人のほうが成婚しやすいため、いわゆる「コミュ障」な方が残ってしまうことが多いためです。
「婚活市場において、コミュニケーションの苦手な発達障害者が濃縮されている」と発達障害カウンセラーの吉濱ツトム氏は言います。
吉濱氏は、強度のアスペルガー症候群を克服した経験を元に、これまで2,000人以上の発達障害者を改善に導いています。著書『発達障害と結婚』(イースト・プレス)刊行後は、恋愛や婚活、夫婦関係の相談が急増。
発達障害者の婚活のリアルについて、お話を伺いました。
高スペック開業医に2回目のデートがない理由
アスペルガーの人は、知的欲求が高くて勤勉。学歴の高い人も多く、医師や弁護士といった専門職に就く人の割合が、定型発達の人に比べて高い傾向にあると言われます。医師や弁護士は女性ウケもよく、収入も高いため、婚活では非常に有利に働きます。
内科と皮膚科のクリニックを経営しているTさん(38)は婚活サービスに登録して2年。紹介してもらった女性は100人を超えているといいます。一流大学卒の開業医、背も高く端正な顔立ちのTさんは、やはり女性に人気です。
しかし、いつも2回目のデートにつながりません。デートで会話が弾まないというのが、主な理由です。患者さんへの問診に困ったことはないTさんですが、女性との雑談では、何を話していいのかわからなくなってしまいます。
「暑いですね」
「はい」
「……今日は休診ですか?」
「はい」
「……ふだん、お休みの日は何をしているんですか?」
「いや、別に……」
そのことを伝えると「でも、休日に取り立てて何かをしているわけではないので、話すほどのことでもないと思って」とTさん。話すほどでもないことを話すのが雑談だということを、理解していなかったのです。
美人セールスレディの「幸せになれない口ぐせ」
保険のセールスレディをしているMさんは、大きな瞳が印象的な仲間由紀恵似の美人。気遣いができて人あたりもよく、仕事の成績は常にトップクラスです。しかし、プライベートでの友人は少なく、交際もあまり長続きしないといいます。
理由もなく罪悪感を抱えてしまうMさんは、すぐに「すみません」「ごめんなさい」を連発します。この申し訳なく思う気持ちを、仕事のときは気遣いという形にうまく昇華させているMさんですが、プライベートでは空回りしているようです。
レストランで椅子を引いてもらったら「すみません」。食事をご馳走してもらっても「すみません。すみません」。本来なら「ありがとう」とか「ごちそうさま」というべきところは全て「すみません」です。また、デート中、手が触れたりするとすぐ「ごめんなさい」とあわてて手を引っ込めてしまいます。これでは、二人の仲が進展しようがありません。
「すみません」「ごめんなさい」とばかり言われていると、なんだか悪いことをしているような気がして、交際相手も落ち着かないことでしょう。
また、このタイプの人は、相手にマウンティングすることの好きな異性を引き寄せやすい傾向にあるので注意が必要です。必要以上にへりくだっていると、それにつけ込むような人に狙われてしまいます。
相手と対等であることは、幸せな結婚の必須条件です。「まずは、ごめんなさいの連呼をやめてみましょうか」と伝えると、「はい。すみません。ほんと、すみません」と言っていました。
雑談が苦手、話が飛びまくるADHD
発達障害を持っている人は、基本的にあまりコミュニケーションが得意ではありません。目的意識の強いアスペルガーの人は、テーマのない会話が苦手。内容に意義を必要とせず、会話することそのものを楽しむ雑談というコミュニケーションについていけません。
それに対してADHDの人は、話があちこちに飛んでしまい、要領を得ないという傾向を持っています。この場合、仕事に支障がでることは多いのですが、とりとめのない会話が得意なため、プライベートなコミュニケーションにはさほど困りません。
婚活に苦しむのは、雑談の苦手なアスペルガータイプの人。
「いい天気ですね」
「はい」
「……」
せっかく相手が話を振ってくれても、これでは話が続きません。
雑談力を磨く3つのポイント
発達障害を持っている人の中には、コミュニケーションに難があると自覚している人も多く、話し方教室に通ったり、会話術の本を読んで勉強していたりします。しかし、なにも会話の達人になる必要はありません。雑談すらできないのに、場を沸かせるような高度な話術を身に着けようとしても、うまくいかずに心が折れるだけです。また、婚活にそこまでのテクニックはいりません。
まずは、「取り残されないようにする」くらいを目標に、雑談力を磨いていきましょう。
1.内容がなくてもいい
「有意義なことを話さないといけない」というプレッシャーを手放しましょう。アスペルガーの人、目的のない会話が苦手で、他愛のない話をされると「だからなに?」と思うことが多いようです。それが転じて「意味のある発言をしなければならない」と勝手にプレッシャーを感じ、何も話せなくなってしまいます。
雑談に、意味は不要です。気の利いた返事ができなくても大丈夫。大切なのは、話を続けやすいような返事をすることです。
「天気いいですね」と言われたとき、「そうですね」ではなかなか会話が続きませんが、「そういえば、このところ全然雨降りませんよね」と返せば「たしかにそうですね。前に雨降ったのっていつでしたっけ?」などと会話が続くでしょうし、「日差しが強いので、鼻の頭が日焼けでヒリヒリするんですよ」と返せば「男性はあまり使わないかもしれませんが、日焼け止めクリームを塗ってみたらいかがですか?」と会話が弾むでしょう。
ここまで話がふくらめば、その次の返事はずっと返しやすくなりますよね。
雑談はラリーを楽しむテニスのようなものです。ラリーテニスは、得点を競うわけではなく、ただ打ち合うということを楽しみます。雑談も同じです。ただ会話のやりとりをすることを楽しむ。そこに、特に意義や目的は必要ありません。
気の利いたセリフや爆笑を誘うような一言は、スマッシュのようなもの。「すごーい!」となるかもしれませんが、そこでラリーは途切れてしまいます。会話の高等テクニックは、合コンのような一本勝負には使えるでしょうが、婚活のようにじっくり信頼関係を築いていくことが大切な場面では、さほど役に立たないものなのです。
ラリーを続けるためには、相手が打ち返しやすいところにボールを返すことが重要です。話を続けやすくなるような返事を心掛けましょう。
2.オープナーを用意する
ラリーもなにも、そもそも会話自体がなかなか始まらず、重苦しい空気が漂ってしまうことがあります。初対面の人との会話というのは、最初の一言がなかなか難しいものです。発達障害者は特に初対面に対する苦手意識の強い人が多いので、事前の準備をしておきましょう。
会話のとっかかりになる言葉を、オープナーと言います。会話の扉を開く(オープン)ためのもの、という意味です。
昔から「木戸に立ち掛けし衣食住」という合言葉があります。これは、オープナーに適したキーワードの頭文字を並べたもの。
「キ」は気候、「ド」は道楽(趣味や娯楽、テレビ・映画・スポーツなど)、「ニ」はニュース、「タ」は旅、「チ」は知人、「カ」は家族、「ケ」は健康、「シ」は仕事、「衣」はファッション、「食」はグルメ、「住」は住まい。
これらはどれも、なごやかに話の弾みやすい話題ばかり。といっても、いきなり全部をオープナーとして使おうとするのはさすがに大変です。まずは気候やファッション、それが身に着いたら趣味と旅、といったように、できそうなところから少しずつオープナーを増やしていくといいでしょう。
「暑いですね」「寒いですね」ではちょっと愚痴っぽくなってしまうので、デートのときには「最近、涼しくなってきましたね」「いいお天気ですね」といったポジティブなオープナーをおすすめします。
天気の話だけではワンパターンになりがちです。オープナーに変化をもたせるためには、相手の服装を褒めるというのも効果的。デートの際、女性は特に服装に気を遣っているものです。「ワンピース、とてもお似合いですね」「秋の装いがステキですね」といった一言からデートがスタートすれば、場もなごみます。
男性のファッションの場合、褒めどころが難しいものですが、時計や財布といった小物を褒めるのも手です。こだわりのある男性の場合、自分が厳選した小物を褒めてもらうと、自分自身を褒めてもらったかのように嬉しく感じます。そこから小物選びのこだわりについて、話しが膨らむかもしれません。
少しずつオープナーを増やしていくことで、デートの途中で会話が途切れた際にも、スムーズに次の会話を切りだせるようになるでしょう。
3.会話を録音して聞いてみる
会話が苦手だと感じていても、自分の話し方の何がどういけないのかを把握できている人はほとんどいません。発達障害を持つ人は、症状のひとつとして物事を客観的に捉えるメタ認知の弱い人が多いため、会話を改善しようにも現状把握ができません。まずは、普段の自分の会話を録音し、聞いてみましょう。
会話をしている最中は、相手がいるうえに話題がどんどん進んでいくため、相槌をうつだけで精一杯かもしれません。しかし、一人のときに録音した会話を聞き直すことで、冷静に言うべきセリフが見つかります。そのセリフを実際に口に出してシミュレーションするようにしましょう。シミュレーションをくり返すことで、実際の会話でも少しずつ対応が上達していきます。
発達障害者には、生まれつき劣等感や罪悪感を強く持ってしまう傾向があります。これは、虐待や貧困といった成育上の問題とは関係ありません。恵まれた環境で育った人であっても、発達障害の症状として極度の劣等感・罪悪感を抱えてしまうのです。
すると、普段の会話の中で「ごめんなさい」とか「すみません」という言葉を多用してしまいます。本来なら「ありがとう」というべき場面や、全く気にする必要のないところでもひたすら謝り続けるため、場が盛り下がり、相手は負担に感じてしまいます。
録音した音声を聞くと、「自分はこんなに謝ってばかりなのか」と、きっと驚くことでしょう。過剰に謝ることで卑屈な印象を与え、楽しいはずの会話をシラケさせてしまっていると、身に染みて分かるはずです。
自分の発話を聞くというのは、とても恥ずかしく、いたたまれない気持ちになるものです。しかしその分、メタ認知の弱い発達障害の人には非常に効果的があります。
会話というのは、人間にとって最大のコミュニケーション手法です。会話がスムーズにできるようになると、恋愛や婚活だけでなく、その後の夫婦関係、子育て、親戚づきあいもずっと円滑に進みます。また、仕事や趣味、地域での活動にも大きな影響を与えます。
会話といっても、難しいことはありません。日常会話の9割以上は雑談で締められています。雑談はちょっとしたテクニックを身に着けることで一気に上達するものです。
こと婚活においては、会話が合うか合わないかでパートナーとしての相性を計る傾向があります。小手先のテクニックでも充分効果がありますので、「コミュ障だから……」と諦めずに、ぜひトライしてみてください。
現代ビジネス