ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

室蘭線・沼ノ端―岩見沢 存続へ沿線自治体が協議会

2019年01月03日 18時03分58秒 | 障害者の自立

 【岩見沢】障害者芸術への関心が高まる中、市は今年、アール・ブリュットを地域づくりに生かす取り組みを加速させる。今秋に国内数カ所で予定されていた「障害者国際芸術文化祭」の開催は2020年にずれ込む見通しで、市は全国に先駆ける形での「プレイベント」の年内開催を目指し文化庁などと調整を重ねる。作品展示などを通じて地域での芸術活動を後押しする考えだ。

 障害者国際芸術文化祭は、国内外の障害者による芸術作品の展示、舞台発表などの場。国内での開催は初めてで、岩見沢市のほか、東京都、福岡県、滋賀県などが誘致を目指している。市などによると、開催時期は東京五輪・パラリンピックに合わせ20年に変更になる方向だという。

 市は芸術文化祭誘致を続ける一方、文化庁や「障害者の文化芸術国際交流事業実行委員会」などが企画するプレイベントについても開催地として立候補する意向を文化庁などに伝えた。今後、具体的な事業内容の提案などを行う。市の担当者は「国内初のイベントの皮切りになることで注目も集まる」と意気込む。

 障害者芸術への理解を広める取り組みとして、市は10年以降、市内の福祉施設利用者らが制作した絵画や造形作品などを紹介する「いわみざわハート&アート展」を毎年開催。当初は福祉施策の一環だったが、作品の芸術性を評価する機運も高まり、近年は地域の文化芸術振興の意味合いも強い。松野哲市長は「アール・ブリュットへの関心が高まることで、障害の有無にかかわらず創作活動を楽しめ個性が発揮できる地域づくりにつながる」と語る。

 市は市役所本庁舎やいわみざわ健康ひろばでアール・ブリュット作品を常設展示している。今後は中心市街地の店舗などと連携し、市民が気軽に作品に触れられる機会を増やすという。(中沢弘一)

<ことば>アール・ブリュット 既存の美術教育を受けていない人たちが生み出す独創的な作品群を指す。フランスの画家ジャン・デュビュッフェが提唱したもので、フランス語で「加工されていない生(き)の芸術」の意。日本では障害者の作品を紹介することが多いが、海外では障害の有無にかかわらずに用いられる。

■岩見沢出身の渡辺芳樹・元駐スウェーデン大使 単独・常設の美術館整備を

 岩見沢市出身で、福祉政策に詳しい元駐スウェーデン大使の渡辺芳樹さん(65)にアール・ブリュットの魅力や、岩見沢で発信を続けることの意義などについて聞いた。(聞き手・中沢弘一)

 私なりの言葉の印象を言えば、障害などによる生きづらさとしての「凹」を埋めて必要な支援と可能性を付与することがノーマライゼーション。アール・ブリュットの考え方は、それより先に進み、障害があっても、「凸」と突出する個性と能力の社会的評価を求めるものだと思います。

 現代美術の中で優れているものは確かにありますが、多くの場合、作為性が目立つ。対するアール・ブリュットは「無作為の芸術」。芸術の元祖というか、手を加えなくても光輝く原石のようなものです。

 岩見沢は数年前からアール・ブリュット作品の発信に取り組んでいます。全国に岩見沢の名前が知られるきっかけになり得るもので、まちづくりのテーマの一つとして活用してもいい。

 2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、国内での文化事業はこれからぐっと盛り上がるだろし、障害者芸術の分野は中心的な役割と言っていい。岩見沢では16年以降、アール・ブリュット関連のイベントを3年連続で開き、昨年は元フランス首相のジャンマルク・エロー氏が講演するなど、道内の拠点と認知されつつある。あとは中身を充実させていくだけです。

 その一つが、アール・ブリュット作品を展示する単独かつ常設の美術館の整備。日本のアール・ブリュット作品に対する海外の評価は高く、実現すれば海外でも大きな話題になります。現在、世界的に知られているのは、滋賀県近江八幡市にある「ボーダレス・アートミュージアムNO―MA(ノマ)」くらい。岩見沢に新しい拠点ができれば、海外の作品を集めた「岩見沢発」の巡回展もできるし、関連する国際的な事業ができるかもしれません。

01/02   北海道新聞


大人の発達障害 生きづらくとも生きていくすべはある

2019年01月03日 17時40分50秒 | 障害者の自立

 大人の「発達障害」に対する関心が高まっている。NHKで特集が組まれるなど、ここ数年で、関連の情報も増えている。ライターの姫野桂氏も、世に発達障害とは何かを知らしめてきた一人だ。昨年8月に刊行された『私たちは生きづらさを抱えている』(イースト・プレス)で、発達障害の当事者22人のリアルな声を伝えた。そして12月に刊行された新刊『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)では、発達障害という「診断」は下されていないものの、「傾向」のある人々の悩みや対策を聞いている。自らも発達障害であることをカミングアウトしている姫野さんに、“生きづらさ”を抱えながら生きるすべを聞いた。

◆“抽選式”の病院も 専門外来に受診希望者が殺到

──“発達障害ブーム”と一部では言われるほど、発達障害に対する関心が高まっています。どのような背景があるとお考えですか?

姫野:これまで発達障害は子どもの障害だとか、病気であって治るものだとか、間違った知識を持っている人が少なくありませんでした。それはひとえに、情報がなかったからです。ここ数年で正しい情報が増えることによって、自分も発達障害かもしれない、と感じる人が増えたのだと思います。実際、専門外来には受診希望者が殺到していて、“抽選式”にしている病院もあると聞きます。

 とはいえ、情報や理解はまだ十分ではないと感じています。理想としては、当事者である、なしにかかわらず、誰しもに発達障害に関しての基礎的知識を持ってもらいたい。そうすれば、職場でもどこでも、皆が生きやすくなると思うんです。知識があると想像ができ、想像ができると、配慮につながります。

──発達障害の認知が高まった理由の一つに、発達障害であることを公表する著名人が増えてきたこともあると思います。モデルで俳優の栗原類さんや、「SEKAI NO OWARI」の深瀬慧さんなど。こういう状況についてはどう捉えていらっしゃいますか?

姫野:影響力のある方の発信によって、認知や理解が広がるのはとてもいいことだと思っています。一方で、発達障害=天才、とか、特別の才能がある人、といったイメージがあまりにも流布すると危険だとは思っています。

──新刊の中でも、発達障害=すごい人、という安易な認識には警鐘をならしていらっしゃいます。

姫野:発達障害の当事者の多くは社会的に困難を抱えていて、困っているからこそ、病院に行くわけです。そうした人たちの声や、特別秀でたものを持たない当時者もいることを、伝えていきたいと思っています。と同時に、たとえ天才でなくても、より適した仕事というのはあると思うんですね。私の場合は、会社員は全く向いていませんでしたが、ライターは続いています。

◆自分が何者かわからない、という苦しみ

──ここで改めて発達障害を説明しますと、生まれつきの脳の特性で、できることとできないことの能力に差が生じ、日常生活や仕事に困難をきたす障害です。大きく3つの種類がありますが【※】、障害の程度や出方は人それぞれだと、著書の中で書かれています。そこが、当事者にとっても、サポートする側にとっても、難しい点だと思いました。

姫野:一人ひとり違う特性を持っているので、サポート体制についても、一律にこうするのがよい、とは言えません。ADHDでも、ぼーっとしていて不注意の多い人もいれば、早口で喋りまくるような多動・衝動性の強い人もいます。一見すれば真逆の特性を持っているので、ADHDの人にはこういう仕事が向いている、とは言えないんです。

 それだけに、まず、本人の自己理解が大切になってきます。自分は何が得意で、何が苦手なのか。自分自身が認識することで、周囲に助けを求めたり、対策が立てられるようになります。

【※発達障害には大きく3種類ある。ADHD:不注意が多かったり、多動・衝動性が強い。
ASD:コミュニケーション方法が独特だったり、特定分野へのこだわりが強い。LD:知的発達に遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算が困難】

──となると、新刊の中で姫野さんが取材された、傾向はあるけれど診断はされていない人(=グレーゾーン)は、非常に難しい状況にあると考えられます。

姫野:はい。グレーゾーンの方の中には、自分が何者かわからないから、人にも説明できないという困難を抱えている人がいます。診断が下されていないことで、できないことが多いことを、障害のせいではなく、自分の努力が足りないからと考えてしまいがちです。

 一方で、グレーゾーンの方の悩みも多様です。診断がほしいのにもらえず、病院を何件もわたり歩いたという方もいました。診断は病院に依るところが大きく、グレーゾーンの方にとって負担になる場合があるのです。反対に、診断はいらない、グレーゾーンのままでいいと考えている人もいますし、「二次障害」に苦しんでいる方もいます。

──二次障害とは、発達障害の特性ゆえの人間関係や仕事におけるストレスで、うつ病や睡眠障害などが起きること。こちらのほうが深刻な場合があると、本にも書かれています。

姫野:グレーゾーンの方って、頑張れば、健常者のように振る舞うことができる人が少なくないんです。そのぶん、頑張りすぎて疲れ、二次障害を起こすケースがあるんですね。発達障害の診断を受けるどうかについては、人それぞれ考え方がありますから、必ずしも医療機関を受診すべきだと私は思わないのですが、二次障害のある方は、すぐに病院に行ってほしいと思っています。

◆「生きづらさ」を感じない人の生き方とは?

──インタビューを読むと、苦手な分野を補うために、いかに頑張っているか、よくわかります。「忘れ物が多い」「マルチタスクが苦手」「電話が苦手」「片付けられない」などに、どう対処しているのか。本に紹介されている「ライフハック(仕事術)」は、誰が読んでも、参考になるところがあると思いました。

姫野:皆さん、苦手分野を克服するために色んな工夫をされています。一方で、当時者やグレーゾーンの方の中には、できないことに悩んでしまって、工夫をすればいいんだという考えに行き着いていない方もいるんです。そういう方の参考になればいいなと思って、新刊で紹介しました。

──発達障害や発達障害の傾向のある女性は、母親とうまくいっていないケースが多い、という指摘も印象的でした。

姫野:子供の頃からできないことが多いので、母親が過保護・過干渉になりがちなんです。その結果、距離が近すぎて、とくに同性同士の母・娘はうまくいかなくなるケースが多いようです。私自身も、大学生で一人暮らしをするまで、母との関係はよくありませんでした。同居している方は大変だろうと思いますが、様々な事情で皆が一人暮らしをできるわけではありませんから、難しい問題です。

──姫野さんの本からは様々な「生きづらさ」を知るともに、「生きづらさ」はなくならなくても、生きていくすべはある、と気づかされます。

姫野:ある時、「生きづらさ」ってなんですか? と言われたことがあるんです。発達障害の当事者ではない人に言われたのですが、生きづらさを感じたことがない人がいるのだと、驚きました。そういう人の話を聞いていると、苦手なことやイヤなことがないのではなく、それらを上手く回避して生きているんですね。対して発達障害や傾向のある人は、真正面からぶつかっていって、粉砕しがち。真面目な頑張り屋さんが多いのだとわかりました。

 苦手なことは克服しなければいけない、逆境には立ち向かわなければいけない、私もそうやって生きてきましたが、その考えこそが、自分の首をしめていたことにようやく気付いたんです。できないことはできないと言う、同時に、できることを探す。自分の偏りを見つめて、人の手を借りる。簡単なことではないですが、色んな方の声を通じて、そうしたことを伝えていけたらと思っています。

◆姫野桂/ひめの・けい
1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)


社会にも責任の一端 他者の苦しみに想像力を~連載「孤立する家族」1

2019年01月03日 16時36分24秒 | 障害者の自立

~連載「孤立する家族」1・徳島・小松島市の嘱託殺人(上)

 親が子を、子が親を殺害する事件が徳島県内で相次いでいる。裁判記録などから事件の背景を探ると、障害のある子どもの介護・看病疲れや将来への不安を抱えながらも、相談相手がおらず社会から手を差し伸べられることもない「孤立した家族」の存在が浮かび上がってくる。家族に何が起きているのかを考える。

       × × × × 

 「母として、最後にしてあげられることだ」。1月31日朝、小松島市の民家。この家に住む母親(68)は自分に言い聞かせながら長女=当時(39)=の首にひもを巻き、両手に力を込めて引っ張った。約18年間、精神障害を抱える長女のケアを懸命に続けた末の決断だった。

 長女は21歳ごろに強迫性障害と診断され、ほとんど外出しなくなった。自分の意思に反して過剰な心配が執拗(しつよう)に浮かび、その不安から逃れるために同じ行為を繰り返してしまう疾患だ。「不潔さ」に恐怖を感じ、トイレの後は3時間も手を洗い続けた。他人はおろか父親さえも「汚い」と寄せ付けず、母が唯一、近づくことを許された家族だった。

 長女は「お母さん、そばにいて話を聞いて」と甘えた。昼夜関係なく4時間でも5時間でも付き合う母。家事以外の時間は長女の世話に費やし、徳島地裁であった公判では「つらいと思わなかった」と振り返った。

 事件の4年ほど前、長女が子宮内のポリープ切除手術を受け、状況が悪化した。免疫力が低下し、微熱や下痢、じんましんなどの症状を訴えるようになり、その影響からか精神状態はさらに不安定になった。

 機嫌がいい時は母に甘えてくるものの、悪ければ何かに取りつかれたようだった。夜中に呼び付けては「謝れ。頭を下げろ」と3、4時間怒鳴り散らした。母は真冬でも床の上に正座し、頭を下げ続けた。

 家事を手伝ってくれていた夫はその頃、単身赴任で県外にいた。疲労がたまり、車の運転中に事故を起こしたこともあった。

 心身とも限界に達したが、「心が折れていたわけではない。娘の世話から解放されたいと思ったことは一度もない」と裁判官に向かってきっぱりと話した。

 流産などを経験し、結婚7年目に3度目の妊娠で授かった一人娘。子育ての苦労と喜びを教えてくれた大切な存在だった。殺害を懇願されなければ、この先もずっと一緒にいるつもりだった。

 「引きこもっていたって、生きていてくれさえすれば良かった。おいしい物を食べさせて、ずっと守ってあげようと思っていた」。証言台で、絞り出すようにまな娘への思いを打ち明けた。

 〈小松島市の嘱託殺人事件〉小松島市の民家で、母親が精神障害を患う長女に頼まれ、バスローブのひもで首を絞めて殺害。母親は犯行後に自身で腹や首を切って自殺を図ったが一命を取り留め、殺人容疑で逮捕された。3カ月間の鑑定留置を経て嘱託殺人罪で起訴。徳島地裁は9月末、「精神的、肉体的に疲弊し、著しく追い詰められた状態だった」として懲役2年6月、執行猶予4年の判決を言い渡した。
 

12/28      徳島新聞


大人の発達障害 生きづらくとも生きていくすべはある

2019年01月03日 15時56分30秒 | 障害者の自立

 大人の「発達障害」に対する関心が高まっている。NHKで特集が組まれるなど、ここ数年で、関連の情報も増えている。ライターの姫野桂氏も、世に発達障害とは何かを知らしめてきた一人だ。昨年8月に刊行された『私たちは生きづらさを抱えている』(イースト・プレス)で、発達障害の当事者22人のリアルな声を伝えた。そして12月に刊行された新刊『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)では、発達障害という「診断」は下されていないものの、「傾向」のある人々の悩みや対策を聞いている。自らも発達障害であることをカミングアウトしている姫野さんに、“生きづらさ”を抱えながら生きるすべを聞いた。
(前・後編でお届けします)

 * * *

◆“抽選式”の病院も 専門外来に受診希望者が殺到

──“発達障害ブーム”と一部では言われるほど、発達障害に対する関心が高まっています。どのような背景があるとお考えですか?

姫野:これまで発達障害は子どもの障害だとか、病気であって治るものだとか、間違った知識を持っている人が少なくありませんでした。それはひとえに、情報がなかったからです。ここ数年で正しい情報が増えることによって、自分も発達障害かもしれない、と感じる人が増えたのだと思います。実際、専門外来には受診希望者が殺到していて、“抽選式”にしている病院もあると聞きます。

 とはいえ、情報や理解はまだ十分ではないと感じています。理想としては、当事者である、なしにかかわらず、誰しもに発達障害に関しての基礎的知識を持ってもらいたい。そうすれば、職場でもどこでも、皆が生きやすくなると思うんです。知識があると想像ができ、想像ができると、配慮につながります。

──発達障害の認知が高まった理由の一つに、発達障害であることを公表する著名人が増えてきたこともあると思います。モデルで俳優の栗原類さんや、「SEKAI NO OWARI」の深瀬慧さんなど。こういう状況についてはどう捉えていらっしゃいますか?

姫野:影響力のある方の発信によって、認知や理解が広がるのはとてもいいことだと思っています。一方で、発達障害=天才、とか、特別の才能がある人、といったイメージがあまりにも流布すると危険だとは思っています。

──新刊の中でも、発達障害=すごい人、という安易な認識には警鐘をならしていらっしゃいます。

姫野:発達障害の当事者の多くは社会的に困難を抱えていて、困っているからこそ、病院に行くわけです。そうした人たちの声や、特別秀でたものを持たない当時者もいることを、伝えていきたいと思っています。と同時に、たとえ天才でなくても、より適した仕事というのはあると思うんですね。私の場合は、会社員は全く向いていませんでしたが、ライターは続いています。

◆自分が何者かわからない、という苦しみ

──ここで改めて発達障害を説明しますと、生まれつきの脳の特性で、できることとできないことの能力に差が生じ、日常生活や仕事に困難をきたす障害です。大きく3つの種類がありますが【※】、障害の程度や出方は人それぞれだと、著書の中で書かれています。そこが、当事者にとっても、サポートする側にとっても、難しい点だと思いました。

姫野:一人ひとり違う特性を持っているので、サポート体制についても、一律にこうするのがよい、とは言えません。ADHDでも、ぼーっとしていて不注意の多い人もいれば、早口で喋りまくるような多動・衝動性の強い人もいます。一見すれば真逆の特性を持っているので、ADHDの人にはこういう仕事が向いている、とは言えないんです。

 それだけに、まず、本人の自己理解が大切になってきます。自分は何が得意で、何が苦手なのか。自分自身が認識することで、周囲に助けを求めたり、対策が立てられるようになります。

【※発達障害には大きく3種類ある。ADHD:不注意が多かったり、多動・衝動性が強い。
ASD:コミュニケーション方法が独特だったり、特定分野へのこだわりが強い。LD:知的発達に遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算が困難】

──となると、新刊の中で姫野さんが取材された、傾向はあるけれど診断はされていない人(=グレーゾーン)は、非常に難しい状況にあると考えられます。

姫野:はい。グレーゾーンの方の中には、自分が何者かわからないから、人にも説明できないという困難を抱えている人がいます。診断が下されていないことで、できないことが多いことを、障害のせいではなく、自分の努力が足りないからと考えてしまいがちです。

 一方で、グレーゾーンの方の悩みも多様です。診断がほしいのにもらえず、病院を何件もわたり歩いたという方もいました。診断は病院に依るところが大きく、グレーゾーンの方にとって負担になる場合があるのです。反対に、診断はいらない、グレーゾーンのままでいいと考えている人もいますし、「二次障害」に苦しんでいる方もいます。

──二次障害とは、発達障害の特性ゆえの人間関係や仕事におけるストレスで、うつ病や睡眠障害などが起きること。こちらのほうが深刻な場合があると、本にも書かれています。

姫野:グレーゾーンの方って、頑張れば、健常者のように振る舞うことができる人が少なくないんです。そのぶん、頑張りすぎて疲れ、二次障害を起こすケースがあるんですね。発達障害の診断を受けるどうかについては、人それぞれ考え方がありますから、必ずしも医療機関を受診すべきだと私は思わないのですが、二次障害のある方は、すぐに病院に行ってほしいと思っています。

◆「生きづらさ」を感じない人の生き方とは?

──インタビューを読むと、苦手な分野を補うために、いかに頑張っているか、よくわかります。「忘れ物が多い」「マルチタスクが苦手」「電話が苦手」「片付けられない」などに、どう対処しているのか。本に紹介されている「ライフハック(仕事術)」は、誰が読んでも、参考になるところがあると思いました。

姫野:皆さん、苦手分野を克服するために色んな工夫をされています。一方で、当時者やグレーゾーンの方の中には、できないことに悩んでしまって、工夫をすればいいんだという考えに行き着いていない方もいるんです。そういう方の参考になればいいなと思って、新刊で紹介しました。

──発達障害や発達障害の傾向のある女性は、母親とうまくいっていないケースが多い、という指摘も印象的でした。

姫野:子供の頃からできないことが多いので、母親が過保護・過干渉になりがちなんです。その結果、距離が近すぎて、とくに同性同士の母・娘はうまくいかなくなるケースが多いようです。私自身も、大学生で一人暮らしをするまで、母との関係はよくありませんでした。同居している方は大変だろうと思いますが、様々な事情で皆が一人暮らしをできるわけではありませんから、難しい問題です。

──姫野さんの本からは様々な「生きづらさ」を知るともに、「生きづらさ」はなくならなくても、生きていくすべはある、と気づかされます。

姫野:ある時、「生きづらさ」ってなんですか? と言われたことがあるんです。発達障害の当事者ではない人に言われたのですが、生きづらさを感じたことがない人がいるのだと、驚きました。そういう人の話を聞いていると、苦手なことやイヤなことがないのではなく、それらを上手く回避して生きているんですね。対して発達障害や傾向のある人は、真正面からぶつかっていって、粉砕しがち。真面目な頑張り屋さんが多いのだとわかりました。

 苦手なことは克服しなければいけない、逆境には立ち向かわなければいけない、私もそうやって生きてきましたが、その考えこそが、自分の首をしめていたことにようやく気付いたんです。できないことはできないと言う、同時に、できることを探す。自分の偏りを見つめて、人の手を借りる。簡単なことではないですが、色んな方の声を通じて、そうしたことを伝えていけたらと思っています。

◆姫野桂/ひめの・けい
1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)『発達障害グレーゾーン』

大人の発達障害 生きづらくとも生きていくすべはある

大人の発達障害 生きづらくとも生きていくすべはある

世は「発達障害ブーム」だが、理解や認知は十分ではないと姫野桂氏は語る

(扶桑社新書)      2019年01月02日      NEWSポストセブン


大人の発達障害 生きづらくとも生きていくすべはある

2019年01月03日 15時00分10秒 | 障害者の自立

 大人の「発達障害」に対する関心が高まっている。NHKで特集が組まれるなど、ここ数年で、関連の情報も増えている。ライターの姫野桂氏も、世に発達障害とは何かを知らしめてきた一人だ。昨年8月に刊行された『私たちは生きづらさを抱えている』(イースト・プレス)で、発達障害の当事者22人のリアルな声を伝えた。そして12月に刊行された新刊『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)では、発達障害という「診断」は下されていないものの、「傾向」のある人々の悩みや対策を聞いている。自らも発達障害であることをカミングアウトしている姫野さんに、“生きづらさ”を抱えながら生きるすべを聞いた。
(前・後編でお届けします)

 * * *

◆“抽選式”の病院も 専門外来に受診希望者が殺到

──“発達障害ブーム”と一部では言われるほど、発達障害に対する関心が高まっています。どのような背景があるとお考えですか?

姫野:これまで発達障害は子どもの障害だとか、病気であって治るものだとか、間違った知識を持っている人が少なくありませんでした。それはひとえに、情報がなかったからです。ここ数年で正しい情報が増えることによって、自分も発達障害かもしれない、と感じる人が増えたのだと思います。実際、専門外来には受診希望者が殺到していて、“抽選式”にしている病院もあると聞きます。

 とはいえ、情報や理解はまだ十分ではないと感じています。理想としては、当事者である、なしにかかわらず、誰しもに発達障害に関しての基礎的知識を持ってもらいたい。そうすれば、職場でもどこでも、皆が生きやすくなると思うんです。知識があると想像ができ、想像ができると、配慮につながります。

──発達障害の認知が高まった理由の一つに、発達障害であることを公表する著名人が増えてきたこともあると思います。モデルで俳優の栗原類さんや、「SEKAI NO OWARI」の深瀬慧さんなど。こういう状況についてはどう捉えていらっしゃいますか?

姫野:影響力のある方の発信によって、認知や理解が広がるのはとてもいいことだと思っています。一方で、発達障害=天才、とか、特別の才能がある人、といったイメージがあまりにも流布すると危険だとは思っています。

──新刊の中でも、発達障害=すごい人、という安易な認識には警鐘をならしていらっしゃいます。

姫野:発達障害の当事者の多くは社会的に困難を抱えていて、困っているからこそ、病院に行くわけです。そうした人たちの声や、特別秀でたものを持たない当時者もいることを、伝えていきたいと思っています。と同時に、たとえ天才でなくても、より適した仕事というのはあると思うんですね。私の場合は、会社員は全く向いていませんでしたが、ライターは続いています。

◆自分が何者かわからない、という苦しみ

──ここで改めて発達障害を説明しますと、生まれつきの脳の特性で、できることとできないことの能力に差が生じ、日常生活や仕事に困難をきたす障害です。大きく3つの種類がありますが【※】、障害の程度や出方は人それぞれだと、著書の中で書かれています。そこが、当事者にとっても、サポートする側にとっても、難しい点だと思いました。

姫野:一人ひとり違う特性を持っているので、サポート体制についても、一律にこうするのがよい、とは言えません。ADHDでも、ぼーっとしていて不注意の多い人もいれば、早口で喋りまくるような多動・衝動性の強い人もいます。一見すれば真逆の特性を持っているので、ADHDの人にはこういう仕事が向いている、とは言えないんです。

 それだけに、まず、本人の自己理解が大切になってきます。自分は何が得意で、何が苦手なのか。自分自身が認識することで、周囲に助けを求めたり、対策が立てられるようになります。

【※発達障害には大きく3種類ある。ADHD:不注意が多かったり、多動・衝動性が強い。
ASD:コミュニケーション方法が独特だったり、特定分野へのこだわりが強い。LD:知的発達に遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算が困難】

──となると、新刊の中で姫野さんが取材された、傾向はあるけれど診断はされていない人(=グレーゾーン)は、非常に難しい状況にあると考えられます。

姫野:はい。グレーゾーンの方の中には、自分が何者かわからないから、人にも説明できないという困難を抱えている人がいます。診断が下されていないことで、できないことが多いことを、障害のせいではなく、自分の努力が足りないからと考えてしまいがちです。

 一方で、グレーゾーンの方の悩みも多様です。診断がほしいのにもらえず、病院を何件もわたり歩いたという方もいました。診断は病院に依るところが大きく、グレーゾーンの方にとって負担になる場合があるのです。反対に、診断はいらない、グレーゾーンのままでいいと考えている人もいますし、「二次障害」に苦しんでいる方もいます。

──二次障害とは、発達障害の特性ゆえの人間関係や仕事におけるストレスで、うつ病や睡眠障害などが起きること。こちらのほうが深刻な場合があると、本にも書かれています。

姫野:グレーゾーンの方って、頑張れば、健常者のように振る舞うことができる人が少なくないんです。そのぶん、頑張りすぎて疲れ、二次障害を起こすケースがあるんですね。発達障害の診断を受けるどうかについては、人それぞれ考え方がありますから、必ずしも医療機関を受診すべきだと私は思わないのですが、二次障害のある方は、すぐに病院に行ってほしいと思っています。

◆「生きづらさ」を感じない人の生き方とは?

──インタビューを読むと、苦手な分野を補うために、いかに頑張っているか、よくわかります。「忘れ物が多い」「マルチタスクが苦手」「電話が苦手」「片付けられない」などに、どう対処しているのか。本に紹介されている「ライフハック(仕事術)」は、誰が読んでも、参考になるところがあると思いました。

姫野:皆さん、苦手分野を克服するために色んな工夫をされています。一方で、当時者やグレーゾーンの方の中には、できないことに悩んでしまって、工夫をすればいいんだという考えに行き着いていない方もいるんです。そういう方の参考になればいいなと思って、新刊で紹介しました。

──発達障害や発達障害の傾向のある女性は、母親とうまくいっていないケースが多い、という指摘も印象的でした。

姫野:子供の頃からできないことが多いので、母親が過保護・過干渉になりがちなんです。その結果、距離が近すぎて、とくに同性同士の母・娘はうまくいかなくなるケースが多いようです。私自身も、大学生で一人暮らしをするまで、母との関係はよくありませんでした。同居している方は大変だろうと思いますが、様々な事情で皆が一人暮らしをできるわけではありませんから、難しい問題です。

──姫野さんの本からは様々な「生きづらさ」を知るともに、「生きづらさ」はなくならなくても、生きていくすべはある、と気づかされます。

姫野:ある時、「生きづらさ」ってなんですか? と言われたことがあるんです。発達障害の当事者ではない人に言われたのですが、生きづらさを感じたことがない人がいるのだと、驚きました。そういう人の話を聞いていると、苦手なことやイヤなことがないのではなく、それらを上手く回避して生きているんですね。対して発達障害や傾向のある人は、真正面からぶつかっていって、粉砕しがち。真面目な頑張り屋さんが多いのだとわかりました。

 苦手なことは克服しなければいけない、逆境には立ち向かわなければいけない、私もそうやって生きてきましたが、その考えこそが、自分の首をしめていたことにようやく気付いたんです。できないことはできないと言う、同時に、できることを探す。自分の偏りを見つめて、人の手を借りる。簡単なことではないですが、色んな方の声を通じて、そうしたことを伝えていけたらと思っています。

◆姫野桂/ひめの・けい
1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)『発達障害グレーゾーン』

(扶桑社新書)2019年01月02日        NEWSポストセブン