「時代遅れ」とネットで騒ぎに
県選管の委託で製作している社会福祉法人がその理由を明かした
選挙公報、なぜカセットテープ? ツイートが話題に
「平成も終わろうとしているのに何故カセットテープ?」。27日投開票の山梨県知事選をめぐり、視覚障害者の男性がツイッターに投稿した内容が話題を呼んでいる。選挙のお知らせが郵送されてきたが、再生する機器がないのだという。誰が送ったのだろうか。
知事選が告示された8日後の18日に投稿された。送られてきたカセットテープの中身を聞くことができない――。「時代の流れに置いてかれている感......」「横浜市はCDですよ」と反応が相次ぎ、23日までにリツイート(転載)は5千回を超え、まとめ記事は約8万7千回も閲覧された。
県選挙管理委員会によると、カセットテープは候補者の政策を紹介する音声版「選挙公報」。県選管が視覚障害者を支援する社会福祉法人「山梨ライトハウス」(甲府市)に委託して製作、郵送している。「デイジー」と呼ばれる視覚障害者用のCDと点字の冊子もあり、山梨ライトハウスに登録している人に送られる。今回はテープは約120人、CDと点字冊子はそれぞれ約200人に届けられた。
なぜカセットテープなのか。山梨ライトハウスの岡田千代子さんは「高齢の視覚障害者も多く、操作に慣れたカセットの再生機器でないと聞くことができない人もいます」と説明する。
理由はほかにもあるという。視覚障害者向けのCD再生機器は数万円と高価。1級、2級の身体障害者手帳を持っていれば自治体の補助があるが、3級以上はないという。岡田さんは「音声はCDだけや、点字冊子だけの自治体もある。その点で山梨県は親切。すべての人を置き去りにしません」と話す。
■要望あればCD・点字冊子も
国政選挙では全国で、社会福祉法人「日本盲人福祉委員会」が2007年の参院選から政見の音声を配り始めた。当初はカセットテープ版のみだったが、17年の衆院選で初めてCD版の配布数が上回った。
山梨県知事選で音声版が配られるのは3回目。始まったのは前々回の11年からと比較的新しい取り組みだ。それまでは点字冊子だけを発送していたが、病気で視力を失うなどした中途視覚障害者は点字を読むことが難しく、音声版を送り始めたという。
音声は全体で20分弱。「山梨県愛盲時報号外(やまなしけんあいもうじほうごうがい)」という言葉から始まり、届け出順に候補者4人の政策を淡々と読み上げる。新聞折り込みで届く選挙公報と内容は同じだ。
漢字の読みや図を読む順番は候補者の要望通りにする。「郷土は『きょうど』か『ふるさと』かなど細かく決める」と岡田さん。「今年は統一地方選、参院選と続き、忙しくなりそう」と話す。
投稿者は山梨県内の男性(39)。山梨ライトハウスはカセットテープの利用者として把握しており、男性には選挙のたびにカセットテープが届いていた。初めて何げなくツイッターに投稿したところ、反響が大きく驚いているという。「せっかくボランティアの人に録音してもらっているので、媒体を変えてもらおうと思います」。
要望があればカセットテープからCDに変更したり、新たに音声版の選挙公報を送ってもらったりできる。問い合わせは山梨ライトハウス(055・222・3502)へ。(野口憲太)
(朝日新聞デジタル 2019年01月24日 )