生産年齢人口の減少に直面する日本。必要な人手を確保するには、外国人の受け入れだけでなく眠っている労働力をいかに掘り起こせるかが重要になっている。活用が急がれるのが、女性とともに障害者だ。行政機関での水増しが問題となったが、農業では貴重な担い手となってきている。
埼玉県戸田市の倉庫街。ある倉庫の扉を開けると屋内農園が広がっていた。ペパーミントやパクチーなどが電灯の光を浴びて鮮やかな黄緑色の葉を広げている。丹精込めて栽培するのは、発達障害や知的障害を持つ人たちだ。対人の仕事は苦手とされる。だがこの仕事は「せかされることなく、自分のペースで働けて楽しい」。鬱病の28歳女性は満足そうに話す。
屋内農園型障害者雇用サービス「IBUKI」を運営するのは、障害者雇用支援のスタートライン(東京・三鷹)。同社は障害者向けのサテライトオフィスなどを手掛けてきた。屋内農園は17年から始め、現在は横浜市や東京・足立など4施設で150人程度が働く。
農園はブースに分かれており、それぞれ企業や団体に貸し出している。働く障害者も各企業の所属だ。IT(情報技術)関連、食品販売など幅広い企業が農業による障害者雇用に取り組む。スタートラインは農園の貸し出しのほか、雇用主に代わって障害者に農業の技術指導をする。
3人の障害者を雇用する聖路加国際大学は「障害を持つスタッフがやりたいことをできる環境づくりをサポートしてもらっている」と評価する。
スタートラインが障害者による農園を始めたのは、発達や知的の障害を持っていても苗を育て、収穫してパッケージする、といった農作業に携わることができるためだ。農業に携わる人が減る中で農作業の人手を確保する一方、障害者は働き口を得られる。農業と福祉の連携は「ウインウイン」の関係を構築できる。
海を見下ろす高台に野菜畑が広がる神奈川県の三浦半島でも、農福連携が進む。海のそばにある石井農園(三浦市)の作業場では、ゆでタマゴのように真っ白なカブが次々積み上げられていく。
作業しているのは人材派遣大手、パーソルホールディングス(HD)の子会社で障害者を雇用するパーソルサンクス(東京・中野)の従業員や指導員らだ。収穫したカブをスーパーなどに出荷するため、土を落としてきれいにし、大きさで選別して大きな葉を切って整える作業をする。
三浦半島では農家の高齢化や農地の集約による大規模化で、深刻な人手不足に悩んできた。手を差し伸べたのがパーソルサンクス。18年10月に同県横須賀市に拠点を設け、障害者による農業補助を始めた。
「パーソルサンクスには予定を伝えておけば、確実に労働力をそろえてくれる」。石井農園の石井亮代表は喜ぶ。
「障害があっても個人の得意分野を生かした働き方がある」(パーソルサンクスの岩崎諭史氏)。30年近い実績がある同社は蓄積したノウハウを生かし、障害者が適した仕事に就けるようにしている。現在働くのは5人だが、20年には30人に増やす計画だ。
障害者も障害の程度・状況や特性に配慮すれば、大きな労働力となる。その力を引き出し戦力にできるかは、各企業の取り組みにかかっている。
2019年1月18日 日本経済新聞