横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

癌関連凝固障害・静脈血栓症

2018-10-17 23:03:33 | 心臓病の治療
 癌細胞が賛成するいろいろなサイトカインや蛋白などによって、凝固活性が上昇し、血栓ができやすくなる状態ができるそうです。
 一般に癌患者さんの死因の半数以上は癌そのものが進展したことによる腫瘍死ですが、死因の第2位は静脈血栓に起因する凝固異常(9%)だそうです。また、逆に静脈血栓症をみたとき、それをきっかけに癌が見つかる可能性も、静脈血栓症がない人に比べて有意に高いそうです。静脈血栓症を前触れなく発症した時は悪性腫瘍がないか、検索する必要があるそうです。
 癌患者は静脈血栓症を発症しやすい為、また、癌の治療行為そのものが静脈血栓症を起こしやすい状態を作るため、癌患者さんには抗凝固療法による静脈血栓症予防が重要と言われています。
 海外では低分子ヘパリンの皮下注が有効と、ガイドラインでも推奨されていますが、日本国内においては、静脈血栓予防に低分子ヘパリンは保険適応となっていないため、ワーファリンやXa阻害剤(DOAC)の考慮が必要となります。また、抗凝固療法中の出血イベントも癌患者では有意に高い為、その管理には慎重さが必要となります。

 心臓血管外科医は癌患者の治療に直接かかわることは少ないのですが、静脈血栓症を診療することは少なくありません。最近はXa阻害剤の普及により一般内科の医師も診療する機会が増えていると思います。血栓症の陰には悪性疾患が潜んでいないか、その考えで診療にあたる必要があります。
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腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤の人工血管置換術のアプローチ:後腹膜アプローチ

2018-10-17 06:08:08 | 心臓病の治療
 腹部大動脈瘤、腸骨動脈瘤の人工血管置換術のアプローチには、通常の腹部正中切開によるアプローチと、腹部斜切開から後腹膜経由で到達するアプローチの二種類があります。
 腹部正中切開のメリットは視野がよいこと。腹部大動脈瘤の手術では最も多く用いられるアプローチ。視野が良好です。非常に低い頻度ですが、癒着による腸閉塞が起こる危険があります。また腸管の蠕動抑制により食事の開始を遅らせる必要があります。術後の呼吸抑制による肺炎のリスクも若干ながらあります。術中の不感蒸泄もあります。
 一方、後腹膜アプローチでは開腹しない=腸管を露出させない、ことにより開腹のデメリットがありません。食事も術直後から開始でき、呼吸障害や腸閉塞のリスクもありません。斜切開だけでなく、正中切開から後腹膜アプローチに到達する方法もあります。デメリットはより腎動脈に近い操作が必要な時には視野が不良であること、対側の内外腸骨動脈には到達が困難であることです。一方片側の腸骨動脈領域には到達が症例によっては腹部正中切開よりも良好です。
 どのアプローチがベターかは、患者さんの病変によって違うので症例ごとに検討しますが、一般に腸骨動脈瘤が後腹膜アプローチの対象になることが多いです。
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