横須賀うわまち病院心臓血管外科

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Redo MICS-CABG②:RCA領域への再血行再建

2021-07-31 04:58:46 | 虚血性心疾患
 Redo CABG(再CABG=冠動脈バイパス術後の狭心症再発に対する再CABG)を右冠動脈に血行再建必要な患者さんについて、今日の症例ですが、他の施設の症例について電話で相談されました。画像などを拝見した訳ではないので、最適な手術方法がどういったものなのか、正確には返答できませんでしたが、実行可能なアプローチを採用するということが重要なのは間違いなく、開存する既存のクラフトを損傷しないアプローチがやはり最重要です。

 もし、ターゲットの右冠動脈がCTO(完全閉塞)で還流域の広い血管ならin situ(中枢吻合が不要)で使用出来る右胃大網動脈は最適なクラフト(バイパスに使用する血管)です。お電話ではあまり良く考えず、横隔膜越しの難しい吻合しか想定しませんでしたが、もし、#2(右冠動脈本幹で右房壁に沿って走行する部分)へ吻合でいいのなら、当施設なら第5肋間の小開腹で右開胸し、右胃大網動脈を右胸腔内に誘導し、心臓を剥離することなくバイパス出来るこのアプローチを採用します。もし、4AV(房室枝:回旋枝領域に近い部位)への吻合なら第5か第6の左開胸でアプローチします。いずれも、側方開胸なら、視野が悪い場合、肋骨弓を切って創を大きくすれば簡単に末梢吻合が可能になります。4PD(後下行枝:心臓可壁の中心部)に吻合の場合は横隔膜越しに吻合することは難しい場合が多いのですが、最初に覗いてみて難しければ肋骨弓を切って左開胸に創を延長すれば露出、吻合が簡単になります。正中アプローチよりは遥かに安全で合理的なアプローチです。右胃大網動脈が使えない場合は#2への吻合なら右内胸動脈を右小開胸で採取して使うというオプションがあるのと、長く採取した大伏在静脈を左右どちらかの腋窩動脈に中枢吻合して側方開胸から行うのがベストな方法です。

 側方アプローチ、開腹アプローチが困難な場合は、正中アプローチしか選択肢はなく、この場合は人工心肺を装着して、オンポンプビーティングで、ボリュームを引いて再開胸することが、心臓が虚脱された状態で剥離することが出来るので、グラフト損傷を避ける最良の方法です。もし正中アプローチとする場合でもRGEAが使えれば、上行大動脈を触る必要がないので、それが最良のグラフトとなります。
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ナディア?、ナディール?、ネイディア?、ネイダー? → Nadir

2021-07-31 04:46:03 | 心臓病の治療
大動脈弁輪の左室側に近い、大動脈側から見て一番落ち込んだ深い部分をNadirと呼びますが、これは英和辞典で検索すると、発音記号(néidər | -diə)と近い日本語はネイダー、もしくはネイディアと発音するそうです。Native English Speakerに発音を確認したいところですが、英語での大動脈弁置換のレクチャーや発表で、ナディールという発音でしゃべっている外人を何人か聞いたことがあります。実際はどうなのでしょうか、ご存じの方、教えてほしいです。
 → 留学経験のある大学で准教授をしているドクターが当院に見学にいらした際に聞いてみたところ、ネイディアではないか、との話でした。当院ではネイダーと呼ぶことにします。

 さて、このNadir、日本人のお医者さんたちは、ナディール、もしくはナディアと呼んでいる人が多いのですが、ナディアというと、アニメ「不思議の海のナディア」とか、トヨタの車種「ナディア」を思い浮かべます。そこで、日本語で言うナディアという言葉をネット検索してみたところ、ナディアのスペルはNadiaで、これはロシア語の「希望(надежда)」(ナディージタ)を語源とするそうで、ロシアでは女性の名前として一般的だそうです。希望、という名前、日本ではさしずめ、「のぞみ」さん、という感じでしょうか。
 一方、大動脈弁置換で出てくるNadirはスペルも違っていますが、こちらを英和辞典で調べると、意味は、「どん底」(人生の)です。画像検索するとイカ墨パスタを頬張るグロテスクなロックバンドが出てきました(https://vk.gy/images/10911-flyer.png)。

 人生のどん底と希望、まったく意味が正反対になってしまうので、少なくともナディアとは呼ばずにやはり、ネイダー、もしくはネイディアと呼ぶのが正当でしょうか。

 ちなみに天文学では、Nadirは天底という言葉があり、天頂(Zenith)の反対語だそうです。Zenithといえば、そういう名前のステントグラフトがありますね。


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Redo MICS-CABG①

2021-07-31 04:37:24 | 虚血性心疾患
 Redo CABG(再CABG)は冠動脈バイパス術後のグラフト(バイパス血管)閉塞や新規病変のために狭心症再発や新たな心筋梗塞の危険のある患者さんに検討しなければならない難易度のきわめて高い手術です。もしRedo CABGをする必要なくカテーテル治療で血行再建できるのであれば、通常間違いなくカテーテル治療を選択するでしょう。しかしながら、カテーテル治療できないしょうれいであれば、このRedo CABGを検討せざるを得ない症例も存在します。
 CABG術後に再開胸して心臓手術を行う際は、開存するバイパス血管(グラフト)の損傷の危険性があり、この損傷は致命的なダメージにありうるため、いかにグラフト損傷を避けるかということが課題になります。本年1月29日のブログに記載した内容:https://blog.goo.ne.jp/gregoirechick/e/6a1ee9fc4ff0c6d783268642178db6bb
では、CABG術後のCABG以外の再手術(CABG以外)の話を記載しましたが、再CABGはさらに難易度が高くなる可能性があります。

 Redo CABGにおいても既存の開存するグラフトを損傷しないで吻合することは最重要で、次に再バイパスにはどのグラフトを採用するか、中枢吻合をどうするか、という問題があります。

 先日、当院で経験した症例では、20年前に他の施設で2本の大伏在静脈を使用して、上行大動脈から右冠動脈#3、および左前下行枝#7に血行再建されてあり、その後の狭心症再発症例で、対角枝と回旋枝#14-1(PL-1:Posterolateral branch)が責任血管である症例に対して、左第5肋間アプローチでこの2か所に再バイパス追加し狭心症を治療した経験があります。80代なかばの患者さんでしたので、小開胸アプローチで手術することで回復が非常に早く術後1週間で退院可能となりました。この場合のグラフトは左内胸動脈と下肢の大伏在静脈を使用し、左内胸動脈はIn situグラフト(中枢側はもともと鎖骨下動脈につながっているので中枢即吻合不要)で、大伏在静脈は長めに採取して左腋窩動脈に吻合して第2肋間から胸腔内に誘導しました。長めに採取することで心臓の可壁までカバー可能でした。対角枝、回旋枝領域のRedo CABGには左開胸アプローチが非常に有用で、特に中枢側吻合を上行大動脈にする必要がないことでグラフト損傷のリスクをゼロにすることが可能です。
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