急性大動脈解離の緊急手術において、横須賀市立うわまち病院では救命を優先するために、過大侵襲は行わず出来るだけ短時間に手術が終わるような工夫を最大限行っています。これは大動脈解離を発生させる原因となった最初の大動脈内膜の裂け目(エントリー)を切除する範囲で人工血管置換することで、置換範囲を最小限にすることでもあります。横須賀市立うわまち病院を含む自治医大さいたま医療センター心臓血管外科のグループでは一貫してそうした手術方針を行うことで、国内でもトップクラスの救命率を保ってきました。すなわち、エントリー切除が出来るならば弓部分枝を再建せずに上行大動脈置換で手術を終える、ということです。当グループでは約8割の患者さんで、急性大動脈解離に対する術式を上行大動脈置換術としています。昔は上行大動脈置換術と言っても5時間以上を要するのが普通でしたが、最近では人工血管の進歩、ノウハウの蓄積などで、平均の手術時間は3時間ちょっととなり、昔の半分で済む、ちょっとした手術といえるようになってきました。
施設によっては特に若い患者さんには全例、弓部大動脈置換術を行う、という積極的に拡大手術を行うところもあります。結果的に救命率には有意差はない、ということで、後々の憂いをなくすことに重きをおいて弓部置換を行っているところもあります。これだと、やはり5時間くらいは速くてもかかってしまいますし、今週の緊急手術は7時間弱かかり、翌日のスタッフへのダメージが大きいものとなります。
出来るだけ上行大動脈置換の術式を採用して、3時間で手術を終え、早くあがりたい、こんな風な心理で緊急手術に臨むことが多いのですが、エントリーが弓部にあったりして、弓部置換を行わざるを得ない症例もあります。こうした症例の多くは最近は遠位側の真腔にFrozen Elepahnt trunk(オープンステント)を入れることが多くなっています。
オープンステントを入れる際のサイジング、これはステントが入るDistal Endの真腔の長径のサイズを選択しています。長さは基本的に60mmと短くすることで、対麻痺のリスクを少しでも少なくしたいと考えています。最近は60mmの長さでは、角度的にオープンステントが内膜を押して新たなエントリーを作ってしまうSINE(サイン = Stentgraft Induced New Entry)という現象が起こるリスクがあるので、90mmを採用するところもある、と聞いていますが、やはり少しでも短い方が気持ち的に安心です。
ステントグラフトの内径に関しては、他に、短径と長径の平均の1割増し、だとか、トレースした内膜の円周を3で割ったもの、などを採用する施設もあるようですが、結果的にはほぼ同じ数値になるそうで、最もシンプルな長径とすることで、緊急手術中の無駄な混乱を防ぐ目的ともしています。