横須賀うわまち病院心臓血管外科

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神奈川心臓血管外科研究会「低侵襲手術」

2018-11-20 06:14:23 | 心臓病の治療
 神奈川県内の心臓血管外科の研究会が今月30日、横浜で行われます。4大学を中心に県内の主な心臓血管外科施設からの発表演題と、今年は、東京ベイ医療センターの田畑実部長から完全内視鏡下弁膜症手術についての講演がありました。今年の演題募集のテーマは「低侵襲手術」ということで、7施設からの発表がありますが、今回は5演題がステントグラフトやTAVIに関する発表で、小開胸の弁膜症手術に関係する発表するのは2演題だけでした。低侵襲手術といえば、大動脈ステントグラフト手術、TAVI、Mitraclipなどカテーテル治療や、人工心肺非使用の冠動脈バイパス術などの他に、小切開の心臓手術など対象になります。

 横須賀市立うわまち病院からは、低侵襲手術全般に関して、弁膜症手術、冠動脈バイパス術、心臓腫瘍、血栓除去や左心耳閉鎖など対応する低侵襲手術の紹介を行ました。手術動画を短く編集してプレゼンテーションしましたが、幅広く心臓手術についてMICSを適用しているので、反響が大きかったですが、とくに大動脈弁置換のステーンヘンジテクニックによる小開胸手術や、左小開胸の人工心肺非使用冠動脈バイパス手術は、県内では他施設で行っているところがまだあまりない為、反響が大きかったように感じました。
 発表への質問として、ストーンヘンジテクニックの大動脈弁置換術において心筋保護液が注入しにくくなることはないか(冠動脈が変形して灌流不全にならないのか)というご質問を頂きましたが、現在までの経験ではまだ発生しておらず、おそらく視野としても正中切開に非常に近いので心配ないであろうと、回答しました。また、左開胸だけで冠動脈バイパスすべて可能か、というご質問に対して、かなりの部分が可能であるが、確実に成功する症例を選んで行っている旨、返答しました。また、新しい治療に積極的に挑戦している、感染のリスクが少ないので、今後症例が増えていくであろう、などというコメントを頂きました。

 東京ベイ市川浦安医療センター心臓血管外科部長の田畑実先生のMICSに関するレクチャーでは、完全鏡視下手術に向けてステップアップしていく指南的な内容でかなり刺激を受けました。田畑先生は、横須賀市立うわまち病院と同じ地域医療振興協会のグループ病院であり、当心臓血管外科グループの自治医大さいたま医療センターでMICSを開始する際にも最初にご指導いただいた先生です。また、地域医療振興協会のグループ施設の中で唯一TAVIの認定施設で、またTAVIのプロクターをしている、低侵襲治療の先駆者的存在であります。また、この業界きっての、かなりのイケメンドクターです。

 他施設からの発表としては
①外傷による大動脈損傷に対する胸部大動脈ステントグラフト留置術:湘南鎌倉総合病院
②右鎖骨下動脈起始異常(Kommerell憩室)を伴う胸部大動脈瘤に対し胸部ステントグラフト内挿術を行った1例
③TAVI(経腋窩動脈カテーテル大動脈弁留置術)における局所麻酔手術(神経ブロックによる腋窩動脈人工血管縫着による手技操作と鎮静による治療)
④僧帽弁前尖に対するLoundry Rope Procedureによる人工腱索縫着(僧帽弁形成術)

この中で、Loundry Rope Procedureは、人工腱索の長さを弁輪の高さに合わせることを目的とした長さ調節方法で、多く行われている、必要な人工腱索の長さを計測して、それにあわせたループを作成して縫着する個別測定の方法に比較して、決まった僧帽弁輪の高さに合わせるため、個別の人工腱索の長さ調整が不要という意味で、簡便確実な方法といえます。この応用として、横須賀市立うわまち病院で多く採用している(神奈川県内で最も多く使用し、おそくら国内の使用件数が上位に入る)人工弁輪(MEMO 3D)において、このLoundry Ropeにかわる基準となる糸が最初から人工弁輪に装着されており、後尖側の高さに人工腱索の長さを合わせる方法と同じコンセプトです。僧帽弁形成は、術者によっていろいろ好みがあり、どの方法がベスト、とは決められませんが、結果的に逆流が制御されて、それが長期間長持ちするのであれば、どの方法でもいいと思います。講演された田畑実先生も、講演の中で、自分の得意な、慣れた方法で行うのが一番で、特にMICS(小開胸手術)においては、短時間でシンプルな方法で行う事がベストである、と話されておりました。

 今回のテーマでは、県内で実施されている低侵襲心臓手術として、TAVI、ステントグラフト、小開胸の弁膜症手術や冠動脈バイパス術など、低侵襲手術全般について網羅されたような内容でそれぞれの施設から発表があり、それぞれの得意分野はあるとしても、全体を一つのチーム、施設として考えると、神奈川県は総合的にレベルの高い心臓手術を提供している地域と結論できると思います。今回の当番幹事は横浜市立大学の益田教授でしたが、非常にタイムリーなトピックを選択し、非常にまとまった有意義な研究会となりました。神奈川県内の4つの医科大学に加えて、自治医科大学付属さいたま医療センターの関連・元関連である、横須賀市立うわまち病院、横浜市立みなと赤十字病院、湘南鎌倉総合病院が演題を提出し、5大学病院連携の会のような感じでもある、と思いました。
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