横須賀総合医療センター心臓血管外科

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大動脈瘤手術における人工血管の切り方・3DCTで出来映えのよい大動脈瘤手術

2019-02-27 19:38:34 | 心臓病の治療
 意外に誰も教えてくれない手術のテクニックとして、大動脈瘤手術において人工血管の吻合の形態についてはほとんど誰も細かいことを言っているのを聞いたことがありません。
 しかしながらその切り方、吻合の仕方によって出来映え、最終的にはその後の予後も関係してくると思います。

 出来映えの悪い血管吻合は、吻合した患者さん側の血管壁に無用なストレスがかかって、仮性動脈瘤を形成したり、残存部分が拡大して再手術が必要になったりする可能性があります。特に大動脈解離において、時々他の執刀医が手術した患者さんのCTなどを見ることがあるのですが、出来映えが悪いと思われるものが散見されます。以前は筆者が執刀した症例では、同様の出来映えの悪い症例が初期のころはありますが、手術のクオリティを追求するようになってから、この10年間ほど、出来映え良く、それだけでなく、結果が良い形態を目指して改善を重ねてきました。
 
 特に差を感じるのは、急性大動脈解離において上行大動脈置換術や弓部大動脈置換術において、その中枢側の吻合形態によって、その後の予後が変わってくると実感することです。

出来映えの悪い症例では、

① 小弯側と大弯側の比率が悪く、多いのは大弯側が小さく小弯側が相対的に距離が長いために、大弯側の中枢側吻合の患者血管壁に無用なストレスがかかり、術中の出血や、術後の仮性動脈瘤、将来的なバルサルバ洞の拡大が来る症例。また、残念なのは特に人工血管の小弯側に皺が寄ってしまう、または屈曲してしまう症例。こうした屈曲が溶血や局所的な血栓形成の原因となることがあります。

② 人工血管の長さが適切な長さよりも短いために中枢側、末梢側ともに吻合部にストレスがかかり、人工血管の中枢、末梢ともに拡大傾向を示す症例。これが進行すると、人工血管を圧迫して、更に人工血管が短くなり、屈曲してしまう症例も中には散見されます。これも吻合部の仮性瘤の原因になると思われます。

③ 人工血管の切断面を、昔S字状にはさみで切って吻合するように指導されたことがあったのですが、これだと中間の直線部分の角度、位置によって吻合の形態が規定され、Sの形態にする意味が全くないにも関わらず、Sにしてしまったが故に上記①②の弱点を露呈してしまっている症例

 昔はそんなこと、考えたこともなく、また教わったこともなく手術をしていましたが、上記の欠点を克服するために現在行っている工夫は

① 大弯側が小弯側に比較して短くならないように、人工血管を切離する角度を基本45度にしてまっすぐ切ること。切ったあとの角度が45度になるように、また少し外に膨らむような弧を描くように、決して内側に弧を描くことのないような切離面となるように注意してはさみで切っています。急いで不注意に切ってしまうと、内側に弧を描くように切ってしまったり、角度がより鈍角になってしまうことがあります。

この原則から外れたために、術中の出血が多くなったり、術後の形態が悪くなったり、また遠隔期に吻合部のトラブルの原因となったりすることがあるため、現在では確信をもって後輩医師に指導しています。
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