横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

心臓血管外科・ICUチームのトレードマーク?

2019-06-18 06:32:04 | 日記


ICUスタッフの一人が作ってくれたマーク、とても上手にできていると思います。特に作者は著作権は主張しないので自由に使ってくださいとの、許可を頂いていますので、時々使わせてもらおうかと思います。
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腋窩動脈の露出、テーピング、人工血管吻合のコツ

2019-06-17 21:46:57 | その他



腋窩動脈を心臓血管外科で使用するのは
①腋窩ー大腿動脈バイパス術や鎖骨間バイパス、頸動脈へのバイパス(多くは胸部大動脈ステント時)
②人工血管縫着やカニュレーションによる人工心肺の送血部位の確立
③オープンステント留置術など、弓部大動脈置換術の際に、左鎖骨化動脈を再建せずにへ腋窩動脈にバイパスする場合
④インペラ(5l用)挿入やIABP挿入のための人工血管縫着
など

この腋窩動脈を迅速かつ損傷や出血なく露出することは、心臓血管外科医にとって必須の手技であり、また、実は腕の見せ所でもあります。というのも、この血管の露出を系統だって確実に確保できる心臓血管外科医が今まで見てきてきわめて少ない、という事実があります。横須賀市立うわまち病院を含む自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科の医局では筆者の露出方法を直接教えた医師は比較的スムースに露出できる「はず」ですが、実は、教えたつもりでも実際に一人でやってみるとなかなか難しいときもあるのも事実です。しかしながら教えながら露出させると、常に極めて短時間に露出できるので、この方法をスタンダードにするべき、と考えます。筆者の通常の皮膚切開から腋窩動脈テーピングまでの平均タイムは7-8分です。10分以上かかる場合は少ないですが、稀に視野確保に難渋したり、静脈等から出血させた場合はありえます。また、他の用途でハーモニックスカルペル(ハサミ型のもの)を使う場合は、筋肉の処理にこれを使用すると出血が少なくさらに速くなります。

 皮膚切開は鎖骨の下にある大胸筋を、上腕骨頭の内側で、術者の親指で背側に押して最も深く凹むポイントに胸肩峰動脈の分岐があるので、このポイント中心に皮膚切開をおきます。
 皮膚切開ののち、大胸筋の筋膜がある表面までは何もないので一気に電気メスで到達させ、Splitしやすい位置で大胸筋の筋線維を分けていきます。このとき、Splitする位置は、視野の真ん中よりも尾側から始めるのがコツで、これはSplitする方向として、自然に頭側に向かうような解剖学的な特徴があるためです。
 大胸筋を全層Splitしてその下にある脂肪のある層に到達したら、視野の範囲でそのフロアをできるだけ大きく露出するように剥離して開創器をかけ、Fieldを作ります。このとき、このFloorには小胸筋が見えるはずです。この小胸筋の内側縁を電気メスで周囲の脂肪組織から分けていき、小胸筋の背側を剥離するような操作を行うことが一つの重要なコツです。より小胸筋の背側のFloorを露出することがコツである、といってもいいと思います。視野を広げるために、小胸筋を視野の真ん中で離断すると、より見やすくなります(離断した術後の影響は知りませんが、若干パンチ力が落ちたりするのでしょうか?)。
 小胸筋の内側縁のラインの頭側の脂肪組織の中に、胸肩峰動脈があり、これを見つけて絹糸などでテーピングするとゴールは直前です。この胸肩峰動脈が腋窩動脈から分岐しているため、これをガイドに腋窩動脈に到達します。要は、この胸肩峰動脈をいかに速く捕まえるか、にかかっています。ここまで来たら腋窩動脈のテーピングは目と鼻の先ですが、コツとしては腋窩動脈にできるだけ肉薄して、動脈周囲の繊維組織をハサミで切りながら、動脈壁を露出するように剥離して、動脈に出来るだけ近い位置でテーピングすることです。周囲組織を含んでテーピングすると、露出が難しくなります。
 腋窩動脈の小さい枝は、出来だけ結紮やクリップをかけて(ハーモニックの場合はこれによる処理も可能)切離すると、腋窩動脈の可動性が改善して、より見やすく、また操作しやすくなります。特に背側に向かって分岐する枝の処理が重要です。乱暴にテーピングしようとすると、容易に解離するので丁寧な操作が重要です。静脈は極力切離などしないことが出血を防止するコツであり、通常は静脈の処理は全く不要です。
 人工血管の吻合は、5-0PPP1針連続縫合で行います。テーピングしたり、遮断して、腋窩動脈が前面に浮き上がるので、吻合の時は比較的浅くなっており、運針にコツは特に必要ありません。コツとしては、腋窩動脈は脆弱で針孔からの出血がしやすいため、針をこじるような動作は極力控えるべきです。この針孔出血を止血のため、あらかじめ小さいプレジェットを付けた5-0PPP糸(針はBB19mm弱弯(3/8周))を5針ほど作って用意しておきます。だいたい5針くらいまでの止血追加針で止血が得られます。特に人工心肺の送血圧がかかると針孔からの出血が起きやすくなるため確実に止血・補強しておくことが重要で、特に動脈切開線のHeelとToeにあたる部分は脆弱で、出血しやすくなるため、吻合時に出血していなくても、プレジェット付きの糸でマットレス縫合を追加して補強しておくべきです。

 最後に腋窩動脈露出の皮膚切開部分が感染などのトラブルを起こすことは、ほぼ皆無で、どんなに雑に皮膚縫合してもかならず綺麗に治ります。なので、迅速かつ簡便に皮膚閉鎖することを優先した閉創でいいと思います。
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心臓胸部大血管領域の再手術のコツ

2019-06-17 00:55:04 | 心臓病の治療
 心臓血管外科領域における再手術について、6月14日に神奈川心臓血管外科研究会において、熊本大学の福井教授からご講演を賜り、拝聴いたしました。福井教授は前任地である榊原記念病院において、非常に緻密でスピーディーな手術で定評があり、胸腹部大動脈置換術という心臓血管外科におけるもっとも大きな手術を驚くほどのスピードで終わらせる、という評判を聞いております。実際に福井先生の手術を目にした、手術が速いという評判のかつての榊原の同僚が「胸腹部置換を本当に三時間で終わらせて、レベルが違う!」と驚いておりました。
 その福井教授、筆者と医師同学年の心臓血管外科医の中で間違いなく最も腕のいい外科医の一人であり、非常に興味深く拝聴しました。

 心臓血管外科の再手術で多いのはやはり生体弁移植患者の生体弁機能不全や弁周囲逆流、人工弁感染、僧帽弁形成術後の再発などの弁膜症手術です。副損傷なく丁寧に再開胸し、適切なアプローチをする、これにつきます。
 一方、胸部大血管手術後の再手術は、拡張した大動脈が胸骨に癒着していることもおおく、剥離の途中で大動脈を損傷して大出血するリスクの高い症例が多いのが事実です。現に大動脈損傷を起こし、大出血している患者には人工心肺で冷却して、循環停止した状態で胸骨を正中切開して視野を確保し、いち早く損傷した大動脈を広げて、内部から頸部分枝に脳分離送血を開始する、という手技が必要です。福井教授の提示した症例でも、循環停止として、胸骨切開を完成させ脳分離を開始するまで実に3分と、驚くべきスピードでした。
 冠動脈バイパス術に関しては、初回手術の時に、若い患者さんの場合は再手術も考慮して、フラフトの走行を工夫している、とのことでした。
 いくつかのコツが語られた非常に勉強になる講演で、共感する部分がたくさんある内容でしたので、多くの共感するコメントがフロアからありました。

 再手術にならないような初回手術がベストなことは間違いありませんが、外科医としては、再手術をきっちりこなすことで循環器内科医からの信頼も初めて得られるのであり、低侵襲手術のこの時代だからこそ重要な課題である、と、座長をしておられた、横浜市大の増田教授からの締めくくりの一言は非常に重い言葉だと思われました。
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弁輪部膿瘍を形成した僧帽弁後尖側感染性心内膜炎に対する術後の左室仮性瘤

2019-06-15 23:36:04 | 弁膜症
 僧帽弁後尖側に弁輪部膿瘍を形成した感染性心内膜炎の手術は非常に困難な手術の一つです。膿瘍腔を心膜ストリップなどで閉鎖して、それを仮想の弁輪として糸かけをして人工弁を縫着するのが一般的と思いますが、この膿瘍腔の閉鎖が不十分であったり、心膜での補強が不十分であると、その外側にむかって組織が崩壊して、術後に左室仮性瘤を形成することがあります。
 仮性瘤の外側には丈夫な心膜があり、術後に強固に癒着してしまえば、心膜を突き破って破裂することはないので、急性期を乗り切って感染が制御されれば、仮性瘤が残存しても、安定した状態をキープできることもあります。筆者の経験した症例でも大きな左室仮性瘤を形成したまま10年以上安定して経過観察している若年の症例もあります。仮性瘤の修復手術を検討したこともありましたが、特に今、何も悪さをしていないし今後破裂する可能性もないため、定期的な瘤のサイズ観察をし、外来でワーファリン管理のみ行っています。この症例は、初回手術時に左室後壁がぜい弱で、しかも膨隆しているように見えたため、念のためタコシールを2枚貼付して手術を終えた症例でしたが、術後の仮性瘤を形成してこのタコシールによって破裂が予防されたまま固定化したと考えられます。

 また、今回の筆者が座長をした感染性心内膜炎のセッションでは、同様の僧帽弁後尖側の弁輪部膿瘍に対して膿瘍腔閉鎖ののち、人工弁置換を行い、術後に左室仮性瘤を形成した症例に対して、再手術を行い、人工弁を外して左室の内側から牛心膜パッチで瘤の入り口を閉鎖して治癒せしめた症例報告がありました。非常に難易度の高い手術で、素晴らしい成績だと感心しましたが、フロアからは、外側からアプローチして、瘤を切除、閉鎖することも可能である、というご意見も頂きました。外側からアプローチした方が視野が悪くて難易度の高い手術ではないか、と思います。

 また僧帽弁後尖側の弁輪部膿瘍の近くには、左冠動脈の回旋枝があり、この周辺から糸かけをして冠動脈閉鎖からLOSに陥った症例を他の術者の症例でみたことがありますので、回旋枝の存在を忘れることなく手術手技を行うことが肝要と思われます。
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第180回 日本胸部外科学会関東甲信越地方会

2019-06-14 05:38:20 | 心臓病の治療
 胸部外科学会の第180回関東甲信越地方会が都内で6月8日開催されました。
 横須賀市立うわまち病院からは2演題を発表しました。

① 左肺上葉切除後で高度の胸郭変形を伴う遠位弓部大動脈嚢状瘤に対し、ALPSアプローチで瘤切除+パッチ閉鎖術を行った1症例報告
 これは80代の男性の嚢状大動脈瘤に対して、左肺上葉切除後のため弓部大動脈全体が左肺尖部に偏移して癒着、固定化された症例に対して、瘤の部分切除、パッチ閉鎖した症例の手術中の工夫について発表したものです。ALPSアプローチは、Antero-Lateral Thoracotomy + Partial Sternotomyの頭文字をとった開胸方法で、これにより正中切開と側方開胸の両方のメリットを享受でき、術後の胸郭固定も安定していることが特徴のアプローチ方法です。肺尖部に固定化された今回の症例では、このアプローチ方法でしか、治療不可能であり、また大動脈全体が胸壁に固定され受動できないため、視野的にパッチ閉鎖しか方法がなかった症例です。術後経過良好で退院され、その後の再発も現時点ではありません。
 発表においては、胸骨正中切開で通常の弓部大動脈置換のつもりでアプローチしたらどうか、という質問があったようですが、今回は左肺の胸郭形成後、左肺上葉切除後であり、その肺がなくなったスペースに弓部大動脈が異常に偏移し、しかも強固に癒着して受動できないため、胸骨正中切開ではアプローチ不能と判断し、左前側方開胸か、それに胸骨部分切開を組み合わせたALPSアプローチかで悩んだ症例でした。最終的には弓部大動脈置換を行うのに有利なALPSアプローチを選択しましたが、結果的に瘤切除+パッチ閉鎖となったことを考えると、左第3肋間での前側方開胸のアプローチが最も低侵襲だったとも思われます。その胸腔側に弓部全体が落ち込んで肺尖部に癒着したようなわかりやすい画像を提示できればもっとわかりやすかったと思います。

② 永久気管瘻のある左主幹部狭窄を含む不安定狭心症に対して左開胸アプローチで冠動脈バイパス術を行った1症例報告
 永久気管瘻がある場合は、通常のアプローチ方法である胸骨正中切開を行うと癒着した永久気管瘻が裂ける、また縦隔炎を発生するリスクがありますが、左開胸(第5肋間)を採用することでこれを予防できます。最近のMICS-CABGのアプローチでは、これが可能で、9cmほどの皮膚切開から、専用の開胸器、牽引システムを使用して左内胸動脈を剥離し、心拍動下に冠動脈の再建のための血管吻合を行います。今回の症例は、前下行枝、回旋枝、後下行枝と3枝の血行再建を行いましたが、回旋枝(側壁)、後下行枝(下壁)の視野不良の為、第5肋間の小開胸を延長して、肋骨弓を離断することで、創部を拡大し、心臓全体を観察できるように術野を露出し、容易にオフポンプCABGを実施することができた症例の報告。術後経過良好で、左開胸手術が回復が特に速いため、7日目に退院できました。

③ 筆者は、弁膜症のセッションの座長を依頼されました。
 この弁膜症のセッションは感染性心内膜円の症例報告をあつめたセッションで、術式の工夫など非常に参考になる外科医の腕の見せ所を勉強するいい機会になりました。議論が尽きないような、特殊な治療症例ばかりであっという間に時間が過ぎましたが、フロアからも活発な討論があり、盛り上がったセッションだったと思います。
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内シャントチューブに関するシンポジウム = 冠動脈外科学会

2019-06-13 02:45:54 | 虚血性心疾患


 人工心肺を使用しない心拍動下冠動脈バイパス術 = オフポンプCABG(通称 OPCAB)では、心拍動下に冠動脈を切開して吻合する際に、出血に対していくつかの工夫をして実際の吻合を行っています。
 この工夫とは
① 内シャントチューブを挿入
② 炭酸ガスを吹きかけて血液を飛ばす
③ 中枢側をスネア(閉鎖) = クリップで閉鎖、または、リトラクトテープなどの牽引糸をかけて牽引
などをいいます。

 来月行われる冠動脈外科学会(金沢市)では、そのうちの、内シャントチューブに対してのシンポジウムが行われるようで、筆者はその中の指定縁者を頼まれています。
 実際には国内では4社の製品があるらしく、横須賀市立うわまち病院では、そのうちで内部にスプリングが入った構造の製品を全症例に使用しています。この製品に関して国内で三番目に多く使用しているからという理由で当施設が指定縁者に選ばれたようです。内シャントチューブは、施設によっては全く使用しないところも最近は多いようですが、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科医局のグループでは一貫して、前下行枝の吻合の際は、原則使用しています。その他の部位の吻合の際には、中枢側の遮断のみを行うことが多いのですが、噴出する出血を減少させて視野を確保する目的で使用することがあります。

 この内シャントチューブ、内部に血流が通るようにチューブ状の構造をしていて、吻合中の末梢への血流を少しでも確保して、吻合中の血行動態を安定させ、また切開口から噴き出す血液を減少させて、吻合の視野を確保する目的で使用します。より大きな口径のチューブの方が末梢への血流がより確保されますが、大きい口径のものは、実際の血管の内面との隙間がなくなり、血液の漏れがなくなる一方、その間隙に縫合針を挿入して吻合する操作に邪魔になります。かといって、実際の内径よりもかなり小さい口径のものを挿入すれば、吻合はやりやすくなる一方、隙間から噴出する血液が多くなり、視野が悪くなり、出血量が多いと輸血が必要になったり、凝固因子や血小板が失われて止血困難に陥るリスクも増えます。
 内シャントチューブのほぼ中央部には、糸が結び付けられていて、その末梢にタグが装着されています。これによって、内シャントチューブが誤って血管内に入ったり術野などに落下して見失うリスクがなくなります。また、このタグおよび糸を牽引することにより吻合中の微妙な視野や針を刺入する冠動脈壁を調整することが可能です。

 製品の特長として、万が一、血管吻合の際にこの内シャントチューブに針糸が貫通してしまったまま吻合してしまっても、8-0ポリプロピレンの糸よりも弱いため、糸を牽引する、もしくは内シャントチューブを牽引すると、内シャントチューブの方が裂けて、糸は切れずに除去することが可能です。

 かなり冠動脈の吻合に関するニッチな部分のディスカッションが行われることになると思いますが、冠動脈外科学会ならではのいかにも専門性の高い、マニアックなシンポジウムになりそうです。

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側側吻合ならどこから見ても狭窄には見えない。

2019-06-13 02:40:37 | 虚血性心疾患



冠動脈バイパス術で実際の外見は足首がくびれてブーツ型に見える吻合が、術後の造影で角度によっては、狭窄に見えてしまう現象は循環器内科の受けが悪いという結果になりかねません。こうした結果を防ぐ確実な方法は、最初から吻合の形態を側側吻合にしてしまうことです。側側吻合にしたあと、残った先端にはクリップをかけて閉鎖することで、そうした狭窄に見える現象を防ぐことができます。
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見栄えの良い冠動脈バイパス術の吻合形態にするには

2019-06-13 02:34:46 | 虚血性心疾患



冠動脈バイパスの術後造影は心臓外科医の腕の見せ所です。この術後造影で、循環器内科を唸らせるにはやはり、出来映えよいフンゴウ形態が最も重要です。一方、残念ながら、出来映えの悪いフンゴウとは、閉塞ではないにしても、フンゴウ部が狭窄してるように見えてしまうものです。こうならないためにはどうするか、なぜ狭窄しているようにみえるのか、詳細な分析が必要です。一般に吻合部の狭窄がないことを見るには、流量とその時の波形を数値化したPI(Pulsulty Index)が指標になり、流量>20ml/分、PI<5が一つの基準と言われています。しかし、こうした数値が良くても、術後の造影で見る角度によっては狭窄に見えてしまうことがあります(A')。一般にはAのような造影、実際にはBのような形態が理想で、Cobra Head Shapeとも言われます。A'のような、実際の吻合の形態ではB'のように、ブーツのような形態になっていると考えられます。B'のような形態になる原因として、B"のように、ブーツにおける足首の前関節部分にかかる糸が両外側方向に牽引して緊張するような位置および角度になっていることが考えられます。この現象を防ぐためには、Yのような位置関係にあるNative血管にある糸の位置をXのようにすることで防止できます。現実的には、気持ち的に糸の運針を、Graftを相対的に歩んで、Nativeを小さくとる、という風にする必要があります。また、この位置のNative側の糸の支出点が切開線から遠すぎても同様の狭窄形態になる可能性があります。また、特に周囲組織の多い静脈では、一見Cobra Headになっているように見えても、内部では狭窄のような形態をしていることがあります。ITAでも同様ですが、これを防ぐには、吻合後の圧をかけた形態のまま、外膜を少し剥離すると圧迫が解除されてCobra Headに直ることがあります。


こうした不安を感じなくていいのは、側側フンゴウにすることも一つの方法です。また、1本の糸で一周する連続縫合が関与している面もあるため、複数の本数の糸で、単結節縫合とすることも一案です。
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急性大動脈解離におけるオープンステントのサイジング = 真腔の長径

2019-06-12 05:01:17 | 大動脈疾患


急性大動脈解離の緊急手術において、横須賀市立うわまち病院では救命を優先するために、過大侵襲は行わず出来るだけ短時間に手術が終わるような工夫を最大限行っています。これは大動脈解離を発生させる原因となった最初の大動脈内膜の裂け目(エントリー)を切除する範囲で人工血管置換することで、置換範囲を最小限にすることでもあります。横須賀市立うわまち病院を含む自治医大さいたま医療センター心臓血管外科のグループでは一貫してそうした手術方針を行うことで、国内でもトップクラスの救命率を保ってきました。すなわち、エントリー切除が出来るならば弓部分枝を再建せずに上行大動脈置換で手術を終える、ということです。当グループでは約8割の患者さんで、急性大動脈解離に対する術式を上行大動脈置換術としています。昔は上行大動脈置換術と言っても5時間以上を要するのが普通でしたが、最近では人工血管の進歩、ノウハウの蓄積などで、平均の手術時間は3時間ちょっととなり、昔の半分で済む、ちょっとした手術といえるようになってきました。

施設によっては特に若い患者さんには全例、弓部大動脈置換術を行う、という積極的に拡大手術を行うところもあります。結果的に救命率には有意差はない、ということで、後々の憂いをなくすことに重きをおいて弓部置換を行っているところもあります。これだと、やはり5時間くらいは速くてもかかってしまいますし、今週の緊急手術は7時間弱かかり、翌日のスタッフへのダメージが大きいものとなります。

出来るだけ上行大動脈置換の術式を採用して、3時間で手術を終え、早くあがりたい、こんな風な心理で緊急手術に臨むことが多いのですが、エントリーが弓部にあったりして、弓部置換を行わざるを得ない症例もあります。こうした症例の多くは最近は遠位側の真腔にFrozen Elepahnt trunk(オープンステント)を入れることが多くなっています。
オープンステントを入れる際のサイジング、これはステントが入るDistal Endの真腔の長径のサイズを選択しています。長さは基本的に60mmと短くすることで、対麻痺のリスクを少しでも少なくしたいと考えています。最近は60mmの長さでは、角度的にオープンステントが内膜を押して新たなエントリーを作ってしまうSINE(サイン = Stentgraft Induced New Entry)という現象が起こるリスクがあるので、90mmを採用するところもある、と聞いていますが、やはり少しでも短い方が気持ち的に安心です。
ステントグラフトの内径に関しては、他に、短径と長径の平均の1割増し、だとか、トレースした内膜の円周を3で割ったもの、などを採用する施設もあるようですが、結果的にはほぼ同じ数値になるそうで、最もシンプルな長径とすることで、緊急手術中の無駄な混乱を防ぐ目的ともしています。
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かならず朝は来る!

2019-06-12 04:34:19 | 心臓病の治療
 とかく夜間に緊急手術をしていることが多い心臓血管外科では、特に朝3~4時くらいが一番つらい時間帯です。この時間帯の多くは、手術の内容としては、止血の時間帯が多く、一連の手術操作が終わり、出血がなかなか止まらずに圧迫などして時間が経過している時間帯、そんなイメージが心臓血管外科の夜間の緊急手術です。

 こんな時、自分たちを奮い立たせる、というか、頑張るためのフレーズ = 「必ず朝は来る!」です。

この内容のフレーズで同等のものとして
「開けない夜はない」
「やまない雨はない」

などもあります。これは手術の止血に限らず、つらい時期があっても、その時期を耐え忍べば、かならずその時間帯は過ぎ去って、いい兆しが見えたり、解決に向かうものだ、ということを信じて耐え忍ぶんだ、という信念をもった合言葉でもあります。

最近、後輩が現在のつらい状況について相談にきましたが、話を聞いていると、まさに今の状況はこれに少し似ています。今まで頑張って発展のために尽くしてきて、実績という形でその成果も見られるにも関わらず、他のことで足元を容易に救われてしまい、日常の仕事も継続できなくなることの危機に陥ってしまうことがあります。つらいときがあってもすぐに投げ出さずに、嵐が去るのをじっと耐え忍ぶことも時には必要です。その耐え忍ぶ時期も、有効に時間を使うことができればさらにいいとは思います。そんな感じのアドバイスをしたつもりです。

しかしながら、現実は非常に厳しい、どこにリスクが潜んでいるかわからない、こんな世の中では、まず、初めから足元をすくわれるような状況に陥らないことが重要です。
また、移動などに関しても、次に移動するするステップにはリスクがつきものです。移動先が盤石な体制なら問題ないですが、移動先が突然なくなったり、移動するつもりが受け入れられず、また移動する前の部署にも戻れない、いわゆる梯子を外された状況に人生陥るリスクというものが人生には存在します。

最近、こうした家族も路頭に迷うかもしれない、仕事を失い行き先もない、こうした状況になりかかってからの相談を受けることが今年になってから数件、立て続けに起きてしまい、早急に受け入れてくれる移動先を紹介したり、また移動を思いとどめるようにアドバイスしたり、これから移動先を知人に相談する予定の人もいます。立場上、危機に陥っている人に相談をうける年齢になったということかもしれませんが、常々思うのは、自分がそうなったときにどこに避難するか、誰を頼るか、仕事を失ってもしばらくは耐えていけるかどうか、など危機管理について具体的に考え、備えをしておくということが重要なのだと思います。備えあれば憂いなし、これはそういう危機管理意識があれば、初めから危機に陥る前に自然と予防され危機自体に陥ることはない、ということでもあると思います。

また、組織の中で、複数の部署で火の手があがり、人員の制限もあって、消火すること自体が困難な状況に陥った場合、この場合は健常な部署に影響が来ないように、この場合も、新たな火の手が上がらないようにじっと耐えることが重要と思います。
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横須賀ならではではありますが

2019-06-11 07:41:47 | その他


横須賀は陸上、海上自衛隊、およびアメリカ海軍の基地があるので、軍関係者の患者さんも少なくないので、制服や迷彩服を着ている人が院内をうろうろしている光景をよく見かけますが、職員にも家族が軍関係という人も少なくありません。

職場の関係者から、海上自衛隊の護衛艦の体験乗船に招待頂きました。横須賀基地所属の護衛艦だけあって、隊員の人たちにうわまち病院から来た、と紹介されて回り、つきっきりで艦内を案内して頂きました。

普段乗船する機会のある観光船とは違って、出港や帰港の際の手順は儀式的なものも含め、かなり見応えがありました。乗員がチームとなってその役割につとめる姿は、手術室の中のそれぞれの役割をするチーム医療のような光景でした。

一つ印象に残ったのは、現代の戦争とは、艦艇どおしが大砲を撃ち合ったり銃撃戦をするような想定をしておらず、レーダーやソナー、無線での情報などを駆使して敵の艦艇が見えない打ちから、ミサイルなどのいわゆる飛び道具だけで戦闘する、というものだそうです。なので、海上保安庁のように、相手の船に飛び乗って銃撃戦の末に制圧するようなことはあまりない、ということです。なので船の周囲には身を隠すような、防御となるようなものがあまりなく、ロープを張っているのみです(海上保安庁の船は全周、金属の壁に取り囲まれて、伏せると銃撃から身を守ることが出来ます。

また、アスロックミサイルはアメリカ製、速射砲はイタリア製だそうで、兵壮に関しては日本製のものは少なく輸入品が多いのだそうです。対艦ミサイルは合計6発ですが、再装填するには基地に戻る必要があるそうで、また、アスロックや対空ミサイルは再装填が出来るようになっています。

医務室も拝見させて頂きましたが、そこにおいてある本はメンタルヘルスの本が多かったのが印象的でした。
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さいたま赤十字病院心臓血管外科 創立30年

2019-06-09 08:13:51 | 心臓病の治療
 自治医科大学附属さいたま医療センター(旧大宮医療センター)設立30年が経過し、記念誌が最近発刊されましたが、同時に今年は同じさいたま市にあるさいたま赤十字病院(旧大宮赤十字病院)の心臓血管外科も設立後30年、また循環器科開設35年ということで、昨日記念の祝賀会が開催されました。
 大宮地区から現在の新都心駅に直結するロケーションになってから、ますます手術件数、救急件数など増加していて、勢いある施設の活気を感じました。
 現在は横須賀市立うわまち病院心臓血管外科と同じく、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科医局からの派遣施設となっており、部長は、筆者と同じく自治医科大学卒業の数少ない現役の心臓血管外科医の一人です(知る限り、現在自治医科大学卒業の心臓血管外科専門医・指導医は筆者とこの森田医師とあわせて4名しかおりません)。
 
 埼玉医大からの派遣医師で10年以上運営されておりましたが、そのお手伝いで医師派遣が10年以上前に始まり、10年ほど前から部長以下、自治医大さいたま医療センターのチーム派遣となっています。年間50件ほどの心臓胸部大血管手術が実施されてきましたが、現在の部長になってから非常に苦労して手術枠を獲得し、一昨年前にようやく100例を超えるようになり、今年は200例を超えるようになっています。ロケーション、実践している先進的手術などもあり、今後も中核的な施設として症例数を増加させていくことが期待されます。

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膜様部欠損による心室中隔欠損症に対する右小開胸根治手術

2019-06-08 00:33:22 | 心臓病の治療
 横須賀市立うわまち病院では、可能な症例はすべて小開胸(側方開胸)での低侵襲手術を標準としています。

 心室中隔欠損のうち、三尖弁中隔尖直下のいわゆる膜様部欠損の症例はで、右房切開からのアプローチで閉鎖可能である為、右小開胸手術で対応可能です。心膜を右側胸壁に向かって複数の糸で牽引することにより、開胸創に近づき、皮膚切開を若干正中寄りにすることで、胸骨正中切開でのアプローチと同等の視野を得ることができます。
 三尖弁は僧帽弁に比較して、体の右側にあるとはいっても、胸骨と椎体とを結んだ正中のラインよりも若干左側にあることが多い為(写真)、胸骨―椎体間距離が小さい患者さんの場合には、視野が悪いことがあります。三尖弁輪に人工弁輪を縫着するように糸をかけて、この糸を牽引した上にさらにRetractorをかけることで右室内の視野が改善します。しかし、写真のように、胸骨―椎体間距離が小さいと、心室中隔は意外に体の前方にある為、Retractorで上方に牽引しても胸骨が邪魔して持ち上がらず、視野が不良な症例もあります。また胸壁からの距離が15cm近くになる症例もあるので、縫合糸の結紮にはKnot Pussureが必要です。

 正中切開の症例も同じですが、中隔欠損の位置が、三尖弁中隔尖の裏側に隠れている場合は、中隔尖の腱索に糸をかけて中隔尖を牽引して視野を確保したり、場合によっては中隔尖を弁輪中央部のみを切開して切り離して、その裏にある欠損孔の操作が必要な場合があります。中隔尖を切開した場合は、欠損孔閉鎖が終わってから弁輪に連続縫合で再縫合して修復します。

 中隔欠損孔は、流速の速い血流が常に通過しているために、繊維性の組織が、まるでトンネルのように覆っている場合が少なくありません。この組織はしっかりしている為、この組織を使って閉鎖可能な場合は、単純閉鎖で対応可能ですが、この繊維性組織がなく、心筋が露出している場合は、直接閉鎖では縫合糸で組織をカッティングしたり、寄せられた組織の中に伝導路が通過していたりすると術後の房室ブロックの原因となります。こうした症例は組織への緊張を分散させるために、やはり、パッチ閉鎖が望ましいです。

 パッチ閉鎖の場合は、自己心膜、牛心膜、ダクロンフェルトなどを使用します。パッチ閉鎖の方が、組織にかかる緊張が小さい為、組織のカッティングによる再発の可能性が少なくなります。

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冠動脈バイパスの出来映えよいフンゴウにするには

2019-06-06 23:41:03 | 虚血性心疾患
冠動脈バイパスの術後造影は心臓外科医の腕の見せ所です。この術後造影で、循環器内科を唸らせるにはやはり、出来映えよいフンゴウ形態が最も重要です。一方、残念ながら、出来映えの悪いフンゴウとは、閉塞ではないにしても、フンゴウ部が狭窄してるように見えてしまうものです。こうならないためにはどうするか、なぜ狭窄しているようにみえるのか、詳細な分析が必要です。一般に吻合部の狭窄がないことを見るには、流量とその時の波形を数値化したPI(Pulsulty Index)が指標になり、流量>20ml/分、PI<5が一つの基準と言われています。しかし、こうした数値が良くても、術後の造影で見る角度によっては狭窄に見えてしまうことがあります(A')。一般にはAのような造影、実際にはBのような形態が理想で、Cobra Head Shapeとも言われます。A'のような、実際の吻合の形態ではB'のように、ブーツのような形態になっていると考えられます。B'のような形態になる原因として、B"のように、ブーツにおける足首の前関節部分にかかる糸が両外側方向に牽引して緊張するような位置および角度になっていることが考えられます。この現象を防ぐためには、Yのような位置関係にあるNative血管にある糸の位置をXのようにすることで防止できます。現実的には、気持ち的に糸の運針を、Graftを相対的に歩んで、Nativeを小さくとる、という風にする必要があります。また、この位置のNative側の糸の支出点が切開線から遠すぎても同様の狭窄形態になる可能性があります。また、特に周囲組織の多い静脈では、一見Cobra Headになっているように見えても、内部では狭窄のような形態をしていることがあります。ITAでも同様ですが、これを防ぐには、吻合後の圧をかけた形態のまま、外膜を少し剥離すると圧迫が解除されてCobra Headに直ることがあります。


こうした不安を感じなくていいのは、側側フンゴウにすることも一つの方法です。また、1本の糸で一周する連続縫合が関与している面もあるため、複数の本数の糸で、単結節縫合とすることも一案です。

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Trans-abdominal MID-CAB(低侵襲冠動脈バイパス術の応用編)

2019-06-05 21:57:15 | 心臓病の治療
 開腹による人工心肺非使用冠動脈バイパス術では、開腹の視野から右胃大網動脈(RGEA = Right Gastro-Epiploic Artery)を採取し、横隔膜に穴をあけて、下から心臓を見上げるような視野で、心臓下壁にある後下行枝を露出し、心拍動下に吻合するというのが、Trans-abdominal MID-CABです。
 確実に成功する症例を選択して実施する必要がある、という意味で、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、
① 右冠動脈が閉塞(CTO)している症例
② 4PD 4AVと広い還流域がある
③ 吻合する4PDが太くて立派

 こうした症例はRGEAの長期開存が期待できるうえに短期成績も良好である為、使用に積極的に採用していますが、もし1枝の再建のために胸骨正中切開するのには過大な侵襲になるため、やはり開腹のみの血行再建が理想的です。

 応用編としては、腹部大動脈瘤の手術との同時手術です。
 二つの手術を一回に行うような手順になりますが、それぞれ2時間ちょっとの手術ですので、本日も5時間以内での手術となりました、
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