ナメコの味噌汁が、湯気を上げながら目の前に出てくると、誰もが緊張して身構える。
日本にはこうして身構えるアフアフ物がいくつかある。
ナメコの味噌汁を代表として、鍋焼きうどん、焼きたてのギョーザ、カレーうどんなどなどがそれにあたる。
そうか四品か、などと安心していると鴨南蛮が五番手として控えているから油断がならない。
口の中を熱いヌメるものが通過し、なすすべもなく、ただひたすらアフアフこらえ、アフアフに耐え、目を白黒させたあの時の味噌汁。
ナメコの味噌汁ごとぎで目を白黒させているところを人に見られてはいけない職業の人、たとえば銀行の頭取であってもあのアフアフをこらえることはできない。
鍋焼きうどんの場合は、それほど熱くないカマボコなどをかじって冷めるのを待つ。
ギョーザは比較的冷めるのが早いから、酢と醤油とラー油をゆっくり混ぜ合わせたりしてるうちに冷める。
カレーうどんも鴨南蛮も、麺を箸で引き上げてフーフーすればいい。
ではナメコの味噌汁の場合はどうか。
箸で引き上げてフーフーしようとしても、ツルリと滑り落ちる。
必ず滑り落ちる。
そこでフーフーを諦めて、汁のほうからいくことにする。
ナメコの味噌汁の椀を手前に傾け、汁だけをすすろうとする。
汁だけをすすりこむことに成功した。
と安心していると、ご存知の通り、ナメコはヌメることを得意としている。
押し寄せてくるナメコや豆腐を箸で制止しても、必ずや一個のナメコが制止をかいくぐって口の中へ入り込む。
制止しきってと思ったところに、居るはずもない熱い熱いナメコが舌の上にのったとたん、たとえ銀行の頭取でもアフアフする。
少し冷めた当家のナメコの味噌汁鍋仕立て
また今日もつまらぬ話であった。
スマンスマン。