秋鹿なぎさ公園にて
緑の芝生、日よけのタープ、白いガーデンテーブル、その上にセッティングされた色とりどりのトロピカルドリンク、金串に刺された肉の数々、楽しげな語らい、しっぽを振る犬。
アメリカンドリームならぬ、まさにジャパニーズドリームといえる光景である。
真夏の午後であった。
そしてこのパーティーは、ドリームどころか悪夢のような真夏の午後となってしまう。
タープも白いテーブルも新品、燃料のチャコールとかいう豆炭みたいなものは封を切ったばかりだし、主役の鉄製のバーベキューセットは新品特有の熱の匂いを漂わせていた。
なぜかテントまで張られ、飯盒、軍手、水筒、防水付き懐中電灯、サバイバルナイフなどの小道具が雰囲気を盛り上げてるようだ。
楽しげなバーベキューパーティーであると同時に災害緊急避難用品展示会場である、という錯覚にとらわれる。
とにもかくにもパーティーは開始された
開始と同時に様々な難関が待ち受けていたことを人々は知るのであった。
考えてみれば当たり前の話だが、真夏の午後の太陽は暑い。
木陰といえども大量の豆炭をカンカン焚きにするのだ。
暑くないわけがない。
缶ビールは瞬時にして生ぬるくなった。
やぶ蚊の大群の襲来も覚悟しなければならない。
直ちに蚊取り線香、防虫スプレーで応戦しても、こんなことでひるむようなやぶ蚊ではない。
これまた当たり前の話だが、火の上で肉を焼けば煙が出る。
日頃煙とは疎遠な生活を送っている人は、その対応に慣れず逃げまどい物陰で涙を拭くのであった。
豆炭は火力の調整ができないから、微妙な焼き加減は到底望めない。
どうしても生か、焼き過ぎか、どちらか一方を選べ、ということになってしまう。
人間は「暑い」と不機嫌になるものである。
「かゆい」に対しても心穏やかではいられない。
「けむい」も言うまでもなく不快である。
「まずい」は当然腹立たしい。
暑い、かゆい、けむい、まずい、の4大不快要素がいっぺんに襲ってきたのだ。
これで楽しかったらおかしい。
炎天と猛火で子供はぐずり、親はたしなめ、犬はあえぎ、ビールはぬるむ。
背中には汗、足には蚊、目には煙、口には焦げ肉、いいことなど一つもない。
会場から潮が引くように会話が減っていき、ゆがて絶滅していくのであった。