はせがわクリニック奮闘記

糖質制限、湿潤療法で奮闘中です。
パーキンソン病にはグルタチオン点滴を
癌には高濃度ビタミンC点滴も施行中です。

ある一日

2012年06月19日 | 読書


作者、いしいしんじ氏は1966年生まれで、京都大学の仏文科卒業だそうです。
この作品は今年の2月に単行本として出版されたのですが、今月号の文藝春秋で、エッセイストの平松洋子氏が”傑作”だと筆頭にあげて絶賛していたので購入してみました。

主人公は40歳過ぎの夫婦で、舞台は10月の京都です。妻は臨月のお腹をかかえています。
この小説は死産の既往歴を持つ妻が、こんどこそは五体満足な子供を、自然分娩で出産したいと奮闘する物語です。

物語の前半部分は夫婦で健診のついでに京都を散策して松茸や鱧(はも)を買って帰り、美味しく料理して食べるというだけのストーリーです。
ところが、そこに、さまざまな色付け、膨らまし、妄想、生物学的な神秘などが、これでもか、これでもかというくらいに挿入されてきます。
うんざりさせられました。少しの面白さも感じられません。
たとえば、”ウナギの幼魚はオスもメスもない。成長していくうちオスかメスかなって、
けどまたどっちかからどっちかになったりして、全然安定してないのよ”(本文のまま、京都弁です)
”卵から孵ったら、透明な葉っぱみたいな レプトセファルス ていうものになるんやけど、しばらく成長してからでないと、
これがウナギになるかウツボになうんか、ウミヘビか、それともハモなんか、種の判定がつかへんのや”
衒学的小説というのでしょうか、昔読んだトーマス・マンの魔の山”を思い出しました。

136ページの中編小説ですが、中盤以降は50ページを費やして、延々と陣痛から出産までの”産みの苦しみ”を執拗に書き連ねていきます。
とにかく粘着質な性格なのでしょうが、しつこさ全開で、痛みの質と程度とその変遷を、ただただ時系列で追いかけて行きます。

私は人生で、読み始めた書物を、途中でギブアップしたことが有りません。必ず最後まで読み終えます。
その自慢を続けるだけのために、この作品を読了しました。