こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

オールマイティ

2017年08月11日 00時52分48秒 | 文芸
多作で知られるのが、
石森章太郎(のちに石ノ森正太郎と改名)
今でもテレビドラマが製作される
「仮面ライダー」の原作者で有名だ。
SF漫画の大家なのは間違いないところだが、
叙事詩的な漫画や、少女漫画、
歴史漫画など
なんでも器用にこなされた天才だった。
その中で好きだったのが「009」
サイボーグの仲間たちが
力を合わせて
強敵を倒していくストーリーだった。
後半になると、
その強敵が神になってしまうという
奇想天外なストーリーに
夢中になったものだった。

その単行本の表紙が、
また傑作揃い。
見とれてしまうことがしょっちゅうだった。
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ひととき・その1

2017年08月10日 10時02分46秒 | 文芸
三時ころ、
ちょっと涼しさを感じたので、
ひさしぶりに
庭に出ました。

イベント続きで
ほったらかしていた庭を
歩きました。

新顔の花が迎えてくれます。
ブルベリーが実をつけていました。
熟したのを三個ほおばると、、
ジワーッと口中に広がる美味。

しかし、畑の中の草が、
花たちを凌駕する勢いで
丈を伸ばしています。

家にとって返して、
ジャージと長袖の作業服と
首に手拭いを巻き、長靴をはく。
もちろん軍手は忘れません。

再び畑に。
しゃがみこんで、
手当たり次第に草を引っこ抜きます。
この間の台風の影響で、
降った雨のおかげで、
面白いように抜けます。
うるさく飛んでくる虫を、
手で払いながら、
もう夢中です。
野菜たちが姿を現して、
ホッとしています。

もう止まりません。
B型いて座男の習性(?)がムクムク。
草刈り機を担いで、
庭と畑の小道を、
「バババ~ン!」と闊歩(?)します。

運がよかったんですね。
すこし曇り空で
暑さが揺るいでいました。
熱中症にならずに済みました。

しかし、
戦いの後の、
すっきりした戦場を眺めて、
なんとも幸せな気分になりました。
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ヒューマン

2017年08月10日 00時21分36秒 | 文芸
手塚治虫が描いたヒューマンドラマ。
奇病にかかり絶望に陥る青年医師が、
人々の偏見と差別に追われながら、
人の命と尊厳を取り戻していく
大河ドラマが「きりひと讃歌」。
愛する者の死、同じ奇病で死んでいく患者たち。
そして、医学界のボスの暗躍。
奇病の原因が感染症か放射能被害か?
医学界の功名争いなど、
あの白い巨塔の山崎豊子作品を
彷彿とさせる名作といえようか。
医学博士でもある手塚治虫の底知れぬ才能を
垣間見せられたのである。
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イベントロス

2017年08月09日 10時30分58秒 | 文芸
昨日は体中がギシギシと痛みました。
お化け屋敷の後遺症(?)です。(笑)
しかも台風が去った後の酷暑。
もうバテバテです。
家の外に出るのもおっくうで、
家でゴロゴロ。
何をする気にもならぬぐらい、
暑さだけが支配する家の中。
ガタガタなんとか動く扇風機だけをたよりに、
パソコンに向かっても、頭は空白のまま。
イベントロスっていうのかな。
昔から舞台や催しをやった後に、
必ず迎える現象です。

そういえば、
この11日に孫を連れて娘が里帰りすると、
妻が言っていたっけ。
もう認知症状態です。

しかし思い出すと、
じっとしていられないのが私。
娘の好物を考えて、
レシピを頭の中にひっぱりだしました。

キッチンに立つと、
不思議に暑さも気にならなくなります。
作り置きできる、
寒天コーヒーゼリーと牛乳ゼリーを仕上げて、
カレーを作ることにしました。
作っておけば、
冷たいままでも、
暑くしてもいけます。
なにせ娘の好物のひとつ。
作りがいがあるというものです。
まずはたっぷりの玉ねぎを、
いい飴色になるまで、
そこへ小麦粉とカレー粉を加えて炒め、
牛乳で少しづつ伸ばしていく。
慌てるとダマになって往生します。
じっくりじっくり……と!
隠し味にジャムとインスタントコーヒー。
ワインはきらしているのでカット。
考えてみれば、
かなりいい加減。(笑)
でもカレーはこれぐらいのほうが、
美味いものが仕上がる。

孫には何をご馳走してやるかな?
頭をひねって、
ひととき暑さを忘れた時間を手にしました。(笑)
そしてまた、
ナマケモノです……!
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ミニノベル・雨の贈り物(その1)

2017年05月14日 01時01分45秒 | 文芸
今回は
ちょっとお堅く
小説もどきで
お邪魔いたします。
なんと気の多き性格なんだ?
と自分でも感心してしまいますが、
空気の読めない
この一貫性のなさが
B型人間の長所であり
短所なのです。
(ちなみに
わたしの場合ですから、
悪しからず。笑)


こう雨がしつこく降り続くと、
やたら腰や足の関節が痛んで、
苛立ちが募る。
もうすぐ七十になる。
じわじわと年齢が
体を支配し始めている。
こんな時は
大人しく引っ込んでいるのが
最良の方法なのに、
じっとしているのは性分にあわない。
この雨の中、
仕事は無理だ。
屋内ならまだしも、
いま取りかかっている仕事は、
大屋根を上り下りしながらの作業が
中心だ。
いくら施主が急かしても、
危なくて手の付けようがない。
ひたすら我慢するだけだ。
大工殺すにゃ刃物は要らぬ。
雨の三日も降りゃいい」などと
都都逸に詠まれている。
大工じゃなくても
職人なら同じ穴の狢だろう。
四条幸吉は
建築板金の加工職人だった。
俗にブリキ屋さんと呼ぶ。
相当年季の入った
ひとり親方である。
若い頃に較べ
足腰は格段に衰えた。
年々酷くなる一方だ。
屋根の勾配を
持て余す場面も多くなった。
潮時かとも思ったりもするが、
引退の選択肢は
幸吉の頭にはない。
本人がその気にならない限り、
生涯現役を勤めようと、
誰にも
文句は言われる筋合いはない。
他人の思惑に拘束されない分、
気が楽な職人ではあるが、
幸吉の場合は
必ずしも職人気質だけが
そうさせているわけではない。
引退を歯牙にかけないのは、
息子への意地が
最大の理由だった。

「電機屋や水道屋なら
格好ええけど、
鉄板みたいな重たいもん担いで、
オッチラエッチラ屋根の上まで上げるん
ヒーヒー言うてまうわ。
夏場は焼けたトタン屋根の上で汗まみれ。
日に焼けて
顔も腕も真っ黒やないけ。
そんな
くそしんどい仕事、
好き好んでやってる親父の
気が知れへんわ。
俺は全然やる気あらへんからな。
期待せんとってくれ」
小学校の上級生になったころから
手伝わせた反動が
言わせたのは確かだった。
錻力屋の後を継げと言うのを、
きっぱりと拒絶して
家を出てしまった。
その息子に、
少々年を食らっても
錻力職人として
立派に通用するところを
見せつけてやりたかった。
幸吉が現役にこだわり
踏ん張っている原動力は、
そこにあった。
「お父さん、
お茶いれたで、
いっぷくしたらええが。
座敷のほうに用意したでな」
「ほうか。
ほな、よばれるとすっか」
四十年以上連れ添ってきた和子は、
いつもきめ細かく
配慮を欠かさない。
幸吉より三つ上の
姉さん女房だが、
丈夫で長持ちのタイプで、
理想的な職人の女房だった。
五つは若く見える。
それに
陽気で楽天的な性格は、
気難しい頑固な幸吉と
バランスが
上手に取れていた。
「よう降りよるなあ」
「ほんまや。
こない仕事でけんかったら、
干上がってまうがな」
「まあええやないの。
こないな時こそ、
のんびりと休ましてもろわな。
まだまだ気張って
仕事せなならんねから」
程好く色の出たほうじ茶を
幸吉に差し出した。
和子のいれるお茶は実にうまい。
幸吉はほうじ茶の香りに
相好を崩した。
お茶うけは
幸吉の大好物である栗饅頭が、
趣のある木皿に
形よく二個並んでいる。
「さっき吉成はんから
電話あったんや」
「なんて?」
「ほら見合い話やがな」
「あいつ、
まだ諦めんのかいな。
見合いさせたい当人が、
家に便りもよこさんで、
どこにおるやら
わからんちゅうのにのう」
「まあそない言わんと。
吉成はんも
よかれと思うて
くれてはるんやから」
「そないなこと、
よう分かっとるわい。
いつかて有難いこっちゃ
思てるがな」
幸吉は
ほうじ茶を一口
ゴクリとやると、
呆けたように天井を見あげた。               (続く)

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記憶の風景・新米(ニューフェイス)

2017年04月29日 00時18分09秒 | 文芸
「これ新しいやつかいな?」

常連さんに声をかけられた。頭が白く品のいい男性で、毎日おひとり様で来店される。刺身用に柵取りされたハマチがパックされたものを手にしている。連日の購入だ。店頭に商品が並び始める時間を見計らい姿を見せる。

「はい。今朝入荷したてのハマチを捌いたもんですわ。脂がのってて最高ですよ」

「それはええがな。ほならこれ貰うわ」

「毎度有難うございます。またよろしくお願いします」

 レジに向かう満足そうな男性に頭を下げた。

「もっと気さくにならんとあかんよ」

 振り返ると、商品棚の脇からニョキッと顔が覗いた。パートの先輩、Sさんだ。最初に配属された加工食品部門の実質的なリーダーである。小太りながら、きびきびと仕事をこなすベテランの女性だった。

「あのお客さん、いつもこの時間にハマチ買いに見えられるんよ。ほら、この向こうにあるやろ。内科の先生やねん」

「へえ、そうなんですか」

 道理で品性を身にまとった紳士だ。(自分とは住む世界が違うなあ)と、売る側と買う側の差以上の卑屈な思いに囚われる。

 ともあれ、このスーパーは客筋がいい。立地がよくて客の流れもスムーズだ。いいところに働き口が見つかったものだ。

 定年退職のあと通った西脇のハローワークで紹介された職場である。失業保険給付が切れるグッドタイミングだった。躊躇することなく決めた。

 フルタイムではなく四時間のパートである。

これまで調理師として厨房にこもる仕事が主だっただけに、販売は一種の憧れだった。

「ほなら加工食品を担当して貰いましょか」

 黒縁の眼鏡が似合う生真面目を絵に描いたタイプの副店長も気に入った。いい職場とは相性のいい上司が絶対条件でもある。

 指示された加工食品の部門が扱う商品は、菓子類から調味料に至るまで多岐に渡る。最も扱いやすい飲料を担当した。ペットボトルから缶飲料に紙容器と種類は多いが、ほかの加工食品に比べれば、そう大したことはない。新米にはもってこいの仕事だった。

 陳列の商品が欠品にならないように補充しながら在庫確認して、必要な数量を発注する。昔と違い誰でもできる簡単な作業だった。ハンドスキャナーに在庫数を入力すれば、本部に発注データーが直に届くシステムである。もちろん賞味期限の管理も重要な仕事だった。

「夏場はペットボトルがほっといても売れるやろ。欠品は絶対出さんように気をつけてな」

 Sさんは何度も繰り返した。スーパーの仕事が始まったのは六月半ば。ペットボトルがバカ売れする季節を既に迎えていた。
 高をくくってやり始めた飲料の商品管理だったが、少しでも暑くなると、茶飲料を中心に、連日補充にてんてこ舞いするほど売れた。   (続く)
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してやったり・その1

2017年04月08日 04時50分17秒 | 文芸
洗米タンクの洗浄にかかった。
人間が三人も入りそうな容量のタンクは
洗うのが大変だ。
弁当製造工場の一角を占める
炊飯機は大人しくなっている。
ベルトコンベアーでガス台の上に炊飯釜を送り、
ご飯を炊き上げる時間は、
ゴーゴーと動力音がうるさくてたまらないのが、
まるで嘘に思える静けさだった。

「どないや?」

タンクの上から声がかかった。
中に入ってごしごしと
ステンレスの壁をこすっている千原雄二は、
大儀そうに顔をねじ上げた。
作業を邪魔されるのは
たまったものじゃない。
窮屈な体勢をやっと確保できたのに、
またやり直しになる。
作業が終わるまで、
誰もかかわってほしくない。
その願いは叶わない。

頭上に年齢にそぐわぬ童顔があった。
同僚の貝塚だった。
ニヤニヤしている。

「会社に残らへんのかいな」

「もうええわ、こんなとこ」

 雄二は吐き出した。
これまで同僚の貝塚に
気を使ったことは一度もない。

「そやろな。
こんな会社じゃ残ってもしゃーないか」

「そういうこっちゃ」

「辞めてどないするんや?」

 貝塚の問いかけに、
笑顔を返した。

「どないもこないもあるかいな。
入院や」

貝塚は驚いている。
体の調子が悪いのを
おくびにも出さずにいた成果だった。

四か月前に受けた集団検診の結果が
要精密検査。
雄二はしばらく無視を決め込んだが、
定年退職の日が迫ると、
急に不安を覚えた。
急いでかかりつけの城谷医院に走ると、
大腸ポリープが見つかった。
それも一個ではない。
かなり大きいのもあるらしい。

「これは手術で切っといたほうがええやろ」
子供のころから世話になっている
老医師の言葉は重い。
老医師の勧めに従って、
大きな病院で手術を受けると決めた。
躊躇はなかった。
「まあ悪いもんやないやろが、
ひょっとすることがあるさかいにのう。
内視鏡手術やさかい
あっという間もなく終わりよる。
すぐ紹介状を書くさかいにな」

「お願いします、
先生」

老医師の言葉は気休めぐらいにはなる。
いつもそうだった。
老医師が「ガハハハ」と笑い飛ばす姿は
雄二に安堵を覚えさせた。

「内視鏡手術やります。
四日の入院手続きを
取って貰いましょうか」

紹介されたM病院の若い医師は、
型通りの検査をすると、
即断した。

「あ、あのう。
十二月初めに定年退職しますねん。
できたら、
そのあとでお願いしたいんです。
キリがええんで」

「分かりました。そないしましょうか」

スポーツ刈りが似合う医師は
テキパキしている。
体育会系なのかも知れない。

「城谷さん、
いつも大腸ポリープの内視鏡手術患者を
うちに回してくれはるんですわ。
少しはあちらでやって貰えたらええのにね」

抗議の口調だった。
雄二のかかりつけ医師に、
かなり不満があるようだ。
しかし老医師に
今以上の医療を求めても無理だろう。
雄二は
内心笑いを堪えるのに
必死だった。(続く)
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みちびかれて(後半)

2017年03月24日 01時44分00秒 | 文芸
「遠慮しないで、もっと大きな声を出したらいいよ。声が出なきゃ、舞台でセリフを言ってもお客さんに届かないからね」


 何度も何度も繰り返した。そう簡単に大声は出せるものでないのだと気付いた。意気込みが一挙にしぼむ初日だった。


 次の稽古日もOさんと二人きりの発声練習だった。


「疲れたら、甘いもんが一番だ」


 区切りのいいところで休憩した。Oさんはいつも饅頭や最中を用意している。無類の甘いもの好きだという。お茶を入れ甘いものを頬張ると、なぜか幸せな気分になれた。


「お芝居なんてのは、お客さんだけが楽しむものじゃないんだな。芝居する僕らが楽しんでいないと、お客さんだって絶対楽しくない」


 Oさんの持論が、なんとなく理解できた。


「ひとつ口上を読んでみようか」


 Oさんが持ち出したのは『外郎売』だった。


「拙者親方と申すは、お立会いのうちにご存知のお方もございましょうが……!」


「初めてなのに、うまいうまい」


 手放しでほめられると気恥ずかしかったが、一方で嬉しくてたまらなかった。調子に乗り読み続けると、自然に声は大きく弾み始めた。


「……外郎は、いらっしゃりませぬか!」


 パチパチとOさんは拍手した。最高に気分がよかった。達成感とは、こんな感じなのだろうか。ふとそんな思いが頭をかすめた。


 次の公演が決まった。戯曲は『寒鴨』『息子』の短編が二本。決まると、けいこ場が日増しににぎやかになった。初めて見る顔が次々と増えた。あの舞台でアンネを演じていた女性も現れた。可憐でしっかりしたアンネを思い出し、無遠慮に見つめてしまった。


「この間の公演を見て入団する気になったんだって。新しい仲間のSくんだ」


 O代表に紹介されて、晴れがましさを覚えた。最初こそ畑違いのところだと後悔したものの、もうその迷いは微塵もなかった。


「楽しいとこですね、ここは。ものすごい人見知りなんですが、頑張っています」


 にわか仕立ての標準語はぎごちなくなる。


「一緒やんか。俺も人見知りすんねん。仕事場で同僚と話しすんのも苦しいてどもならんかったんや。周りに煙たがられてばかりやで。それを、ここはすんなり受け入れてくれたわ」


 アンネの父親を演じたTだった。ガラス加工工場で働いている。芝居をやっているのがウソみたいに、方言丸出しである。


「こんな暗い性格治りますか?」


 Tはガハハハと笑った。


「O先生に任せたらべっちょないわな。俺を見たら分かるやろが」


「はい」


「Sくん。そないしゃっちょこばらんでええんやから。一つの舞台を作り上げる大事な仲間ばかりや。気―遣うたら仲間外れになるで」


 Oさんは、やはり穏やかな笑顔で話した。


 美容院勤め、郵便局員、商店員……多彩な顔ぶれだった。その誰もが、生き生きしていた。たぶん緊張しているのはわたしぐらいなものだった。(なにくそ!)と思うが、こればかりはままならない。


 けいこが始まると仲間たちの顔つきは一変した。なんとかくっついていかなければと焦り、自分を鼓舞した。


 戯曲による芝居づくりの前に、念入りに基本げいこを繰り返した。なかでも発声練習はかなり力が入っていた。


「舞台で声が出ないと芝居もなんもないわけや。ここにいるみんなには、誰もが舞台で思い切り叫べるようになって貰わないと」


 Oさんの指導は優しい外面と違って、かなりきついものだった。


「おあややははおやにおあやまりなさい、おあややははおやにおあやまりなさい……!」「ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ!」


「拙者親方と申すはお立会いのうちに……!」


 口下手も内気も関係ない。とにかく前へ声を飛ばす繰り返しだった。


 三か月後の『寒鴨』『息子』の公演舞台に、私は二つの役に抜擢されて登った。生まれ始めて多くの観客の前に立った、何とも言えないプレッシャーと興奮。両足ががくがくと震えた。


「とっつぁん。まだいるかい?」


 人前で発する第一声だった。『息子』で重要な役まわりである捕り手になりきってライトを浴びた。(生きててよかった!)共演する仲間たちも同じように顔を輝かせていた。


 四十五年続けたお芝居を引退して十数年経つ。日常の暮らしの中で大声を出す機会は殆どなくなった。ストレスはたまる一方である。


 しかし私にはそれを克服する強力な武器がある。腹の底から大声を出せばすべて解消だ。


「……この外郎のご評判ご存知ないとは、申されまいまいつぶり!」


 浴室に響く大声。(生きててよかった)そう知らしめてくれた大声が、実に心地よい。
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フゥ~!

2016年11月03日 10時06分46秒 | 文芸
[風邪ひくんは気がたるんどるからや。
気合い入れて風邪なんぞ吹き飛ばさんかい」」
子供のころ、父親は必ずそういった。
「気がゆるんでるんちゃうのん」
最近は妻の皮肉がきつい。

誰彼にいくら責められても、
風邪をひくのを
どうこうできる精神力の持ち主ではない。
持ち合わせていたら
今頃、長者番付に載ってますよね。それはないか。(馬鹿笑い)

といいながら、
闘病(?)4日目。
「咳よさらば!」と
なかなかいかないのがつらい。

いまは最低限のことをやるのが精いっぱい。

もう2度と風邪はひかないぞ!
と、風邪をひいて苦しむたびに誓うのですが、
へらへら根性の持ち主では
いかんともし難いのです。(フ~!)

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まだまだ

2016年11月02日 09時34分12秒 | 文芸
明け方まで咳が止まらない。
しんどいものです。

前回の風邪の症状の繰り返しです。
治ったかなと思ってから
いやになるほど続いた夜の咳が
思い出されます。

今日も無理はやめときます。


思い出のメモ・2


「餅でも食べるかいのう」

田舎に帰った息子に
好物を食べさせたい
母心だった。
いそいそと支度する母。

母は重そうに
ガラス容器を抱えてくる。

「すぐぜんざい作っちゃるから、
待っちょれ」

母は容器に手を突っ込む。
そして
つまみ出したのは丸餅。
水がしたたり落ちている。
そう!
餅は水につけ込んで
保存しているのだ。

正月が過ぎると、
残った餅は放っておくと
すぐアオカビがつく。
それを防ぐのに、
田舎では
味付けのりが入っていた
ガラス容器を使い、
水を満たし
餅を放り込んでおくのだ。

確かに理に適ったカビ対策である。
ところが
母の場合はいつも手遅れ。
すでにアオカビが
餅にくっついているのに気づいてから、
慌てて保存にかかる。
だからそれ以上は増えなくても、
元のカビはそのままだ。

「こんなもん削りゃベッチョないねん」

母は気にもしない。
すこしかび臭い餅のぜんざいや雑煮に
息子はもう慣れっこである。
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