こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ちょっと寄り道

2016年04月30日 01時17分32秒 | 文芸
29日(金・祝日)

伊丹へ表彰式に出向きました。

『第3回日本一短い自分史』公募の

秀作です。

同じ兵庫県下とあって

出席しました。

北条鉄道北条町駅を朝7時49分出発。

粟生駅から神戸電鉄に乗り換えです。

次に阪急電車で西宮北口まで

そこから各駅停車の阪急伊丹線で終点が阪急伊丹駅です。

いつもなら

何度となく迷う私にしては

えらくスムーズに行き着きました。

ところが

阪急伊丹駅を出てから、

さあ大変!

表彰式会場の

市立図書館「ことば蔵」への道が

皆目見当がつかない

根っからの方向音痴は

やはり健在でした。

途中何回も訪ねては……迷い?

迷いに迷い……

なんと10分内で行けるところを

1時間近くかけて歩き回る始末です。

もちろん

自覚があるから

ちゃんと2時間も余分に早い

伊丹入りを決行?してたのです。

いやはや

死ぬまで

この無駄な迷い道を

繰り返す運命にあるようです。

なんとかかんとか

たどり着いたはいいものの

その周囲は露店がズラリ!

子供たちを中心に

もうひとひと人!

町のフェイスティバル真っ最中でした。

また人込みも大の苦手

すぐ人に酔ってしまうのです。

なんとか

掻き分けて図書館の中に

とはいえ

まだ表彰式まで

1時間以上もある。

あたりを見回すと

もうびっくりです。

図書館とは思えない図書館が!

広いロビーに自由な空気が満ち満ちています。

すきですね、こいう空間は。

でも

時間は12時半。

お腹がグー!

食べ物の持ち合わせはない。

館内には飲み物の自動販売機はあありますが、

なにか食べた~い!

仕方なくワイワイガヤガヤの中に取って返しました

そしてやきそば(250円、安い!)

おやつに塩見饅頭を6個(600円が400円になっていました)をゲット!

これで腹を満たすには十分

後は這う這うの体で図書館に逃げ込みました。

ロビーは飲食が自由です。

これもビックリしました。

もしかしたら

フェィステイバルに便宜を図ってられるのかもしれませんが。



表彰式は無事に終わり

さあ帰ります。

とっとこ歩き出しました。

あれ?

この道、右かな左かな?

あ~~ばかばかしい話。

また迷ってしまいました。



なんとかたどり着いた阪急伊丹駅。

ちょっとゆっくり楽しみたいところだけど

もう迷うのはイヤ!

というわけで電車にのりこんだのでした。

はあ、お粗末な話でごめんなさいね。

以上、報告します。
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小説(1995年作品)帰って来たヒーロー・10

2016年04月29日 00時08分29秒 | 文芸
しかし、五年の隔たりによる距離感は埋まらない。共通する話題はすぐに出尽くした。あの浦島太郎の気分である。

 家にたどり着くと、深夜を過ぎていた。酔いが少し残っている。玄関は明るかった。引き戸に鍵はかかっていない。母のやり口だった。
「まあ遅かったのう。それで風呂にすっか?腹は減っとらんか?」
 玄関に入ると、母は今から飛び出してきた。昔からわが子のことになると、何をさておいても行動する。いまだ健在だった。
「風呂がええな。入ったら寝てまうかも知れへんけど」」
「ほうけ。疲れたんやな」
「そうでもないけど……」
「そうや。電話があったわ、東京から」
「へぇー。誰からやろ?」
東京から連絡が入るとは想定外である。東京の事情はきれいさっぱり片付けて来た。それをワザワザ連絡をくれる相手に思い当たらない。不思議でしかない。
湯につかりながら、頭を巡らせた。頃合いに沸かされた湯は、うっかりすると眠気を誘う。思案がその事態を防いでくれる。
「ぬるうないけ?もっと薪をくべたろか?」
 母はまだいた。追い炊きの必要はないと断ったのに、風呂の焚口で息子の役に立つべく頑張っている。有難いと思う。上京する前には思いもしなかった感謝の念だった。苦労したということか。人の思いやりを理解できる。ずいぶん成長している。誠は苦笑した。
「黒木さんて、向こうでお世話になった人か?」
 話したりないのだろう。母は饒舌だった。
「うん。俺の上司や。田舎もんの俺を、えろう可愛がってくれはってなあ。東京を出るまで、いろいろ助けて貰うた」
 黒木には感謝しても感謝したりない。落ち着いたらお礼の手紙を書くつもりでいる。
「ええ人に出会うて、東京も悪いばかりやなかったんやないけ」
「ああ、そうや」
「ほうや、忘れるとこやったがい。その黒木さんの電話なあ。あんたに伝えてほしいて……」
「どない言うてはった?」
「神戸の方の司厨士協会やらなんたらいうとこの、県支部のエライさんのう……」
 焦れったいが、母は頭をフル回転させて報告を試みているのは分かっている。湯に顔を半分沈めた。これで余計なことを言わなくて済む。母の報告をゆっくりと待つだけだ。
「えーと、そうや、渡辺さんやったかいのう。そのエライさんに、お前の仕事、頼んどいた、言うてはったなあ、黒木さん」
「わかった」
 黒木らしい配慮がありがたかった。明日起きたら早々に電話を入れてみよう。誠は湯の中で立ち上がった。熱くなっている。あれほど言ったのに、母は気を使って追い炊きをしたらしい。煮蛸になってしまう。

 雲ひとつない。祭りにふさわしい限りなく青い空だ。厳粛でいて賑やかしい一日が始まる。
 兄と入れ違いに風呂へ入った。身を清める意味がある。神前に奉納する豪華絢爛で荘厳な祭り屋台を担ぐ男衆の仲間入りをする。神様の前で身も心も清めて臨まなければならない。いつもの風呂とは意味合いが違う。湯につかっていると、自然と高ぶりを覚えた。
「おーい!誠、はよせーや。太鼓蔵に集まるんは、七時半や。遅れたら恥やぞ」
 六時前には起きて風呂に飛び込んだ兄は、すでに用意万端だ。これ以上待たせたら、風呂に踏み込んできかねない。素っ裸で引っ張り出されるのはご免だ。
「いま、あがるぞ!」
 誠は大声を上げた。すっかり忘れていた。ここ数年、小声で事足りる暮らしだった。仕事場で張り上げる声は、また別物なのだ。普段の生活で大声は禁物の都会にいたのだ。
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小説(1995年作品)帰って来たヒーロー・9

2016年04月28日 01時18分17秒 | 文芸
手に少し力を込めて押した。その体勢を保ったまま、首を捻じ曲げて頭上を見上げた。岩が揺れているかどうかを見極めるには、上空に突き出た松や椚(クヌギ)など雑木が四方に伸ばす枝葉の影が岩の肌に映した動きを見れば一目瞭然だ。無風で枝葉が揺れていれば、間違いなく岩自体の揺れだ。
「あれ?」
 そんな馬鹿な!誠の思いを裏切り、枝葉の影はそよとも動かない。心のうろたえは誤魔化しようがない。
(くそったれめ……!)
 誠は自分を呪った。俺にはもう素朴な善はないのか。そんなはずはない。東京生活の中でも、優しさと正義感を貫いたはずだ。そのおかげで、都落ちの憂き目にあっているのだ。
 気を取り直した。タロのひもを靴で踏みしめると、今度は両の手を思い切り強く突き出した。岩にグッと阻まれる。足を踏ん張り重心を落とした。気を集中させて岩をグイグイと押した。
『ゆるぎ岩』は一向に揺れなかった。びくともしない岩肌から、視線を頂きに移した。焦燥感がじわじわと襲う。
(村を思い出しもしなかった東京暮らしの俺は、愛惣尽かしされたんだ……?)
 無性に寂しい。ふるさとに拒絶されたのか?
 誠はタロのそばに座り込んだ。「クィーン」と顔を舐めてくるタロが救いだった。鼻面を片手で撫で、もう一方の手でおでこをコツンと叩いた。タロは気にもせず、誠の口を舐めるのに夢中だった。

 姫路に出ると、さっそく駅前にある電話ボックスのひとつに入った。
 諳んじている牧口かおりの電話番号をプッシュした。誠が学んだ調理学校の仲間だった。実はかなり親密な付き合いをした時もあった。結婚など毛頭頭にないフランクな関係だった。もちろんと言えば語弊はあるが、昔風の一線は越えている。ただ、誠が東京に出ると、待ってましたとばかり連絡は絶えた。「チーン」と電話はつながった。
「はい、牧口ですが」
 予想にない男性の声だ。一人住まいのはずのかおりの部屋に男性がいる!慌てて受話器をフックにかけた。彼女に今更俺の出番はないようだ。
 姫路魚町の一角に割烹をうたった小料理屋を友人が開いている。やはり調理師学校で共に学んだ塩崎だった。
 暖簾をくぐると、懐かしい顔が迎えてくれた。仕込みを若いスタッフにまかせた塩崎は、誠の相手を務めた。
「お前が飲みつぶれるまで付き合うたるわ」
 塩崎の顔は昔に戻っていた。久しぶりに気を許せる場面を得て、誠は旧友とスナックや居酒屋のハシゴを楽しんだ。
 
 
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小説(1995年作品)帰って来たヒーロー・8

2016年04月27日 00時07分04秒 | 文芸
いらだちを覚えたりすると、タロをおともに裏山へ逃避した記憶は鮮明だ。
 久しぶりに裏山に登ってみるか。思い立つと、誠はタロのひもを引っ張った。
「クィーン」
 こちらを見上げたタロは甘えるしぐさで、誠を誘う。
 裏山と言っても、なだらかな道が頂きまでちゃんとついている。今どきの山道はむき出しの石ころ道ではない。かなりな地点まで簡易舗装で歩きやすい。誰もが簡単でいて安全に山へ入れるのだ。時代なのだといえばそれまでだが、自然と触れ合う風情は今は昔となってしまった。
 山に入ると、あたりはまだ薄暗い。ただ早朝の山あいは、空気が澄んでいて気分は最高だ。東京では決して味わえない心地よさである。タロの足もやたら元気で、ついていくのがやっとだ。
 平坦な山道をため池に沿って歩いていくと、突き当りに赤い大鳥居が現れる。河上神社に連なる参道の入り口だ。大昔から勝負の神様として有名で、この片田舎に似つかわしくない風体の参拝者をよく見る。
 ご神体は巨大な岩。京都伏見稲荷神社のご神体である巨岩と並び、有名らしい。ふるさとでありながら、誠はこの間まで知らずにいた。
 立派なヒノキの古木が両脇に連なる参道は百メートルほど続く。いいロケーションなのか、映画の撮影が三度ほどあった。『天守物語』では、地区の人がエキストラに駆り出されて大騒ぎになったものだ。
 本殿はまだ先にある。誠は参道の横道を右へ折れた。けもの道に近い山道が急な勾配で山麓を登る。ひとりだと不安を覚える鬱蒼さだが、タロが傍にいれば心強い。
 少しなだらかな横道に突き当たる。どんどん進むと、中途に小さい祠が祭られてある。その前で湧き水が汲める。ご神水として昔から滾々と沸き続けている。下の病気や内臓の病に効くと俄然評判を呼んで、訪れる人が絶えなかったのは、誠が子供のころだった。いま目の前にある祠も泉も後輩しきっていた。昨今の台風や豪雨の影響を受けたのか、崩れかかっている。それを補修しようとする奇特な人もいないのだろう。
 思い出す。季節を迎えるとワラビやマツタケなど山菜取りに山を駆け巡った日を。この湧き水を手ですくって喉を潤した良き日を。重宝な湧き水がご神水になり祭られると、妙な違和感を覚え、気楽に飲めなくなった、あの日を。
  
 山あいにそれはあった。
 四メートルは優にある巨岩だった。河上神社のご神体ではない。つとに有名な『ゆるぎ岩』だ。地元では『ゆすり岩』ともいわれる。市の自然文化財に指定された名所である。派手な賑やかしい名所旧跡を期待する向きには、つまらない巨大な岩がふたつ並んで立つだけの、殺風景な光景があるだけだった。ただ岩の頂部に張られた注連縄が神秘性をもたらす。
 由来がある。法華山一乗寺を開いた法道仙人が、自ら呪文を唱え、この岩を押し揺るがされたそうだ。以来、善人が押せばユリ動くが、邪な心の持ち主なら、いくら強力をもってしても、びくともしないと言い伝えられてきた。
 近年、世の中が殺伐としてきたせいもあって、あちこちからかなりの人が『ゆるぎ岩』詣でをする姿が目立っている。
 誠は岩に向き合った。高校生になったころから疎遠になった岩肌が目の前にそびえ立つ。幼い誠が巨岩に圧倒された記憶は、待ってましたとばかり息を吹き返す。
「ほれほれ。揺れとる揺れとる。誠は優しいええ心の持ち主じゃからのう。将来、立派な人間になりよる。『ゆるぎ岩』が認めとるわい」
 おびえる幼子に手を添えて岩肌を押させた父は若かった。「ガハハハハハ」と豪快に笑った父が忘れられない。
「……立派な人…か?親父の期待に応えられなかったよな……。不肖の息子だもんな」
誠はそーっと『ゆるぎ岩』に触れた。手の裏にザラッと、遠い記憶につながる感触があった。
 
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ウォーキングルポ・加西フラワーセンターに・2

2016年04月26日 00時42分22秒 | 文芸
もくもくと歩いて、

おおよそ1時間だ。

見えた!

フラワーセンターの表門が見えた。

駐車場の脇にある門から入る。

駐車場は

三分の二ってところ。

売り物の

何万本のチューリップは

昨日の大雨で

シーズンを締めくくったようだ。



広い園内に

ピークを過ぎながらも

心をひきつける

色とりどりのチューリップが!



こいこい祭りをやっていた。

園内に鯉のぼりがあちこちに

風を受けて

楽しそうに踊っている。

チューリップに変わる主役として十分だ。



昼飯に用意しておいたおにぎりを

二個平らげると、

さあ、ゆっくり園内をそぞろ歩きしてみようか。



しかし

昼を過ぎた今

人が多くなった。

人波にもまれて歩くのは、

どうも苦手だ。

足を売店の方に向けた。

売店は新しくなっている。

二年前に来た時とは雲泥の変身だ。

明るく雰囲気は上品だ。

でも、

あいにくと懐は寂しい

見て楽しむしかなさそう。



すぐ

見るだけのショッピングは

飽きてしまった。

もう一度

園内に戻ろうと、

入り口に戻ると、

なんと!

「ここからは園内の再入場は出来ません!」

いやはや

世の中は甘くない。



外で待っているのも……というわけで

ここでウォーキングを離脱。

自分だけのウォーキングをスタートさせた。

フラワーセンターから北条鉄道北条町駅までテクテク。

やはり

ひとりで歩くのは大変だ。

イベントウォークで多くの仲間と歩くと楽しい

それが

ローンウルフは苦痛さえ感じる。

次回からは仲間と完歩を徹底しよう

そうしないと

きっと続かない予感がする。

結論は

人間一人じゃ何もできないってことだった。



帰宅して万歩計を確かめる。

27580歩……よく歩きました。

自分を褒めるかな。

怠けものを返上して充実した1日だったのは

確かな事実なのだから。
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ウォーキングルポ・加西フラワーセンターに

2016年04月25日 00時48分10秒 | 文芸
きょうは、ちょっと小説はお休み。



24日(日)

本年の加西風土記の里ウォーク2016が、

いよいよスタート!

その報告です。

第1回は県立フラワーセンター散策コース

10キロコースと一般向きである。

北条鉄道2つ目の駅、

播磨横田駅が集合場所。

スタート時間は10時半とちょっと遅め。

実は鉄道の到着時間に合わせるからなのだ。

北条鉄道はだいたい1時間に1本だから、

合わせるのは難しそうだ。

粟生駅で神戸電鉄とつながるから複雑だ。

阪神間の参加者は、

この乗り換えでやって来る。

神戸電鉄が、

加西くんだりのイベントを

共催している理由がそこにある。



ともあれ、田舎ののんびりした小駅に

驚く数の客が下車するのである。

兵庫県でも有名なフラワーセンターに

無料で入園できるというのが売り文句。

そりゃ現金なもので

普段のイベントの二倍以上の集客となる。

いつもは1両の列車が、

この日ばかりは2両連結と特別に運行されるのだ。

臨時の運賃受取場まで設定んぐされ、

北条鉄道の制服がよく似合う

女性乗務員が2人も詰めている。

北条鉄道は路線維持のために懸命なのである。

市民としては

頑張れ頑張れ!とエールを惜しまない。



さて、今日の参加者は

聞いてびっくり!2百数十名というではないか。

フラワーセンターのネームバリューはさすがだ。



車が行きかう道もコースにある。

ずらーっと2列で並んで歩く光景は

簡単を覚えすらする。



参加者の数が多すぎてスケジュールは適宜変更。

スタートするのも25分遅れ。

そりゃ仕方がない。

小さな田舎の駅にトイレはかたちばかり。

列車が付いた早々から、

トイレ前に数珠つなぎ。

女性陣は大変である。

まあ、時間通りなんて所詮無理だった。



続きは明日にしましょう。

私もトイレに行かなきゃ始まりません。

年を取ると、

そんなもんなんですわ。はい!
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小説(1995年作品)帰って来たヒーロー・7

2016年04月24日 00時10分19秒 | 文芸
 担ぎ手にしても、要となるべき青年は、時代の風潮に違わず、祭りのために仕事を犠牲にするのを嫌う。もちろん村から出て戻らない若者が増加の一途も、担ぎ手の不足につながっている。
すでに引退している中高齢者を担ぎ出さざるを得なくなった。祭りの高齢化は、もはや止めようがない。そんな状況だから、誠のような若いUターン組は大歓迎される。
「お前の祭り襦袢、ちゃんとしまっといたからのう。いつでも間に合うわ」
 母もすっかりその気になって、口を出した。
「そない用意が出来とんやったら、やるっきゃないやないか」
「そうや。もう逃げられんぞ。覚悟決めんかい」
 兄にハッパをかけられた弟の取るべき道は、ひとつしかない。
「よっしゃ!いっちょうやったるか。久しぶりやで、はや緊張してまうわ」
「その意気や。誠、その意気やで。さすが、わしの弟じゃい!」
 兄は喜色満面で立ち上がった。高揚した笑いが自然に生まれた。誠もつられて笑った。心の底から笑うのはいつ以来だろう。実に気分がいい。
 翌朝、誠はかなり早く目覚めた。仕事をしていれば、今日のシフトは早番のはずだ。まだ職場のリズムが抜け切れていないのを思い知る。早番の日は朝五時前に起床、手際よく身支度を済ませても三十分はかかる。下北沢から新宿まで小田急を利用して十数分。職場に入るのは六時前後になった。
 そんな習慣に慣れ切った意識から解放されない限り、東京暮らしで累積されたストレスの一層は無理である。
 もう一度布団にもぐり込む気にもなれず、誠はのろのろしたしぐさで着替えた。時計を見直すと、まだ五時をちょっと過ぎたところだった。
(歩いてみるか……!)
 思い立つと誠はシャキッと背を伸ばした。
 実家はかなり広い。家屋の端っこにあるのが納屋。昔は牛を飼っていた場所だが、今は農機具置き場だ。その入り口に犬小屋がある。兄の手作りだった。そこに住むのは、雑種犬タロである。もう十年飼われていて、誠の愛犬と言っていい。
「おい、タロ。ちょっと付き合え」 
 タロは大喜びで尻尾を夢中で振っている。可愛い奴だと思う。首輪につながるひもを外して、左手にくるくると巻いた。しつけなど無縁に育ったタロは、散歩の途中、いきなり走り出したりするから油断できない。
こうしておけば安心だ。
 早朝の空気は気持ちいい。タロと走っていると、五年前の記憶が昨日のように蘇る。

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小説(1995年作品)帰って来たヒーロー・6

2016年04月23日 00時40分52秒 | 文芸
「ほうか。ええ経験したみたいやな。それ聞いたらひと安心や。お前、知っとうか?」
 龍は顔も上げずに訊いた。
「なにを?」
「八坂裕子って女の子、覚えとるか?」
「ああ、俺の同級や。みんなの憧れやったなあ」
 頭が良くて美人、クラスの男だけでなく先輩や後輩の男連中からも羨望の目で見つめられていた。同性の人気もあって、いつも級長や副級長に選ばれていたのを、よく覚えている。誠にとっても憧れの君だったのだ。
「その子なあ、先月死んだらしいぞ」
「え?」
 思いもかけない知らせだった。
「あの子も東京へ出とったそうやないか。
 そういえば、裕子は東京の有名女子大に進んでいると噂で聞いていた。その彼女が死んだ!東京で!どうして死ぬ羽目に陥ったのか?先月と言えば、誠も東京にいた。
「またなんぜ死んだんやろ。病気かなんかか?」
「へえ、お前知らんのか。あの事件、こっちの新聞には、そろ大けな記事になっとったわ」
 事件?新聞に大きく掲載された。それを誠は知らなかった。東京は広い。新聞の販売エリアが違えば、少々の事件などお目にかからなくて普通だった。
 裕子は、埼玉のラブホテルで変死体になっていた。あられもない姿で発見され、殺人事件として扱われたという。犯人が捕まったという報道はその後ないままらしい。
 あの憧れの君、清純そのものの八坂裕子が殺される。その舞台がラブホテル……とても信じる気にはなれない。しかし、それは現実そのものだった。
「田舎もんが東京へ行ったかて、ロクな目に合いよらん。憧れとったらえんや、東京っちゅうとこはのう」
 龍は悟りきった顔で締めくくった。東京どころか、神戸や大阪へもほとんど行く機会のない兄の世界は、この田舎が唯一無二の存在なのである。
 龍は熱く煮えて湯気が立つ肉を頬張った。
兄は逞しく、この田舎に根を張って生きている。頭が自然と下がる。兄の主張に反論する気は微塵も頭をもたげなかった。
「マコちゃん。あんた、ええとこに戻って来たわ」
 義姉の真由美が、追加の野菜と肉の皿を運んできた。彼女は誠のいい理解者だった。誠の東京行きを、家族が渋るのを一蹴して、背中を押してくれたのである。
「ええとこて?」
「あんた、もう忘れてしもうたんかいな。祭りよ、祭り」
「おう!それや、祭りやがな」
「そうか……祭りか……!」
 誠はやっと気づいた、秋祭りの時期なのに。自分の身辺整理に振り回されて、すっかりふるさとの一大イベントを失念していた。東京の水に中途半端な染まり方をしている氷見誠が、まだここにいた。
「来週に入ったら早々や。おい、誠。今年は俺と一緒に屋台を担ごうや。うん、そうや、そないしょ!」
 嬉しさを吐露した兄は、ビールのコップを突き上げた。誠と違い大の祭り好きである。これまで一度も、いや父の忌中で抜けざるを得なかった折はさておいて、秋祭りの参加は欠かさなかったのが自慢だった。子供の時は太鼓を打ち鳴らす乗り子を務め、中学に進んだらもう男衆の仲間入りをした。一人前に豪壮な祭り屋台を担ぐ一団の中にいた。青年団では祭り組織のリーダーに推され、村では別格の扱いを受けている。
 秋祭りは、十月十日の体育の日に行われる。あと一週間あるかないかだ。昔から受け継いできた伝統の祭りは、宵宮と本宮の二日間、氏子である四っつの村を上げて盛大に行われた。それが社会情勢と合わなくなり、第一土曜日と日曜日になり、今は体育の日一日となった。
 秋祭りの期間、小学校は特別に休みとなった。それを日祭日に振り分けて、授業への影響を避けるようになった。伝統を守れるじだいではなくなったのだ。
 近年は乗り子も担ぐ男衆も頭数は激減の一方だ。男の子だけに限られていた乗り子も、女の子を代役にしろという声も上がっている。幸か不幸か実現に至っていないが、男の子の確保はますます困難を極めている。学校に塾、クラブ活動に稽古事を優先して、夜間に二週間ばかり行われる太鼓打ちの稽古に顔が揃わないのだから何をかいわんやである。





 
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小説(1995年作品)帰って来たヒーロー・5

2016年04月22日 00時29分02秒 | 文芸
風呂はいい塩梅に沸いていた。東京では銭湯通いで、落ち着いて風呂に浸かれなかった。忘れもしない家庭用の湯船に湯があふれんばかりに満たされている。こぼすのはもったいない。そろそろと湯に体を沈ませた。首まで浸かると、快感がkら蛇十二走る。

「どないや湯加減は?」

 焚き口に母がいる。安心感がある。

「いや、よう沸いてるわ」

「ほうけ……?」

 ははの声が途切れた。

 誠は静かに湯の中で首を伸ばすと、窓の隙間から覗いた。案の定、母は感極まって肩を小刻みに震わせている。昔から湿っぽいところがある母だった。しかし、今は心底ありがたいと思った。

「……泣くなよ、母ちゃん」

 心に吐き出した言葉は母に伝わったらしい。むくりと挙げた母の顔は、満面の笑みが広がっている。涙の跡が、くっきりと残っている。

「そない言うたかて、お前、五年も帰って来なんだんやぞ。連絡もよこしくさらんと、薄情な子やで。どいだけ心配しよったか……」

「わかっとる」

「それが、こないして無事に戻って来よったんや。喜ばん親がどこにおる?お母ちゃんはもう嬉しいてたまらんがな」

「わかっとるゆうとるやろ。しつこいんや、母ちゃんは」

 ぴしゃりと窓の隙間を閉じた。いくら母の思いに感謝しようとも、素直に礼を言うのは照れくさい。ズブっと顔を半分湯に沈めた。

「ありがとう」

 湯がゴボゴボと鳴った。

 次男坊の帰郷を歓迎する氷見家のすき焼き宴会は、かなり盛り上がった。

 ますます生前の父に似て来た兄は、よく食べよく飲んだ。名前は龍。弟の誠と対極的に名付けられたのだ。名は体を表すというが、氷見の兄弟は真逆だった。誠は考え知らずの行動が先に立つタイプで、兄は物静かで何事にも慎重に対処する、時々焦れったくなるタイプなのだ。家を守る跡継ぎに向いた性格といっていい。

「誠、もう東京は行かへんねんやろな?」

「ああ、こりたわ。ええ年のもんはあわん。若い奴の天下に媚びるしかあらへん。そら生きづらいで。おまけに田舎もんにはきつうて住みにくいとこや。山家のサルは、サル山で威張っといたらええ」

 誠は本当にそう思う。だから饒舌になる。

 借りていたアパートは下北沢にあった。一歩外へ出ると、若者が闊歩する町だった。二十代後半の誠には同化するどころか、息苦しさが先行した。仕事にかけた夢が、都から逃げ出したくなる誠の気力を唯一支えたといっていい。
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小説(1995年作品)帰って来たヒーロー・4

2016年04月21日 00時38分24秒 | 文芸
「待っとったんかい、お前」
 東京で暮らしていてもわすれたことのない、懐かしい母の声だった。慌てて顔を上げた誠は、えらく膨らんだスーパーの袋を両手にぶらさげた母と真面に向き合った。
「なんや、買い物やったんか。また仕事が忙しいんやなと思うてたぜ」
「アホいいな。お前が帰ってくるっちゅうのに、暢気に仕事しとられんやろが。五年ぶりやで」
 それにしては、仕事以上に暢気な買い物に行っているんだよな。母らしい理屈だ。文句を言っても始まらない。何にしても母の笑顔が目の前にある。それで充分だった。
「ほうけ。こんな道楽息子に気ィー使うてくれてんやなあ。感謝せなあかんのう」
 完全に地の言葉になっている。気づいた誠は苦笑した。ふるさとに戻った。その実感が心地よい。東京で周囲と合わせるために無理に使っていた標準語。ここでは全く必要ないのだ。
「お前、ちょっと見ん間に、頭薄うなったんちゃうか?」
 母の感慨深げな言葉に、思わずのけぞりかけた。常識的に「お前、苦労したんやなあ。えろう痩せてからに」ぐらい言うべきだろう。頭は触れるべきじゃない。
 実は亡くなった父、額から後頭部にかけて見事な禿げっぷりだった。遺伝していれば、そろそろ禿げていい年齢かもしれない。誠はふいに手を頭にやった。その手が止まった。
「それはないやろ、母ちゃん。他にもっと言い方あるやろが。大事な大事な息子が、久しぶりに帰って来たんやないかいな」
 口を尖らせて誠は抗議した。胸の内は母との再会に感激で涙している。それを悟られまいと、言葉を冗談に紛らせたのだ。
「さあ、はよ家に入って休みィーな。長旅で疲れとるやろ。ああ、風呂、沸かしといたさかいな。ひとまず汗を流し。今夜は、お前の好きなすき焼きしたるで、楽しみにしとき」
 母はスーパーの袋を高々と掲げて見せた。




 
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