こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

福島行

2015年10月31日 00時22分35秒 | Weblog

まだ疲れが取れない。年を取ると、日をおいて疲れが現れる。
それでも、何日もごろごろしているわけにはいかない。
福島旅行の間にたまりにたまった原稿に
そ~っと手を伸ばす。
もちろん書く意欲は皆目ない。
原稿用紙を眺めてぼーっと時間がたつのに任せてしまう。

福島は、工業高校時代の修学旅行先だった。
仙台まで足をのばした記憶を思い起こす。
東北の秋は、ただただ美しかった。
そして、そこかしこを覆い尽くす清潔感に
感激感動は尽きなかった。
多感な時代に記憶に刻みこんだ東北だった。

記憶を辿るように、早朝の福島駅界隈を歩いた。
やはり、清潔感は健在だった。
それが嬉しくてたまらなかった。

たぶん、もう二度とは踏めない地だろう。
じっくりと楽しむことにした。
観光ポイントを回る時間よりも、
日常のふくしまを楽しむのだ。

過酷な運命に翻弄される福島を
メディアを通じて知り
心を痛めていただけに
この静かで爽やかな光景は
何物にも代えがたかった。

すぐに時間は過ぎた。
もうすぐ11時半。そろそろだ。

ようやくその気になって、表彰式の会場に足を向けた。

表彰式の前に、あの有名な林修先生の講演会が予定されている。
楽しみだ。
さあ、行こう!
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福島行

2015年10月30日 01時18分32秒 | Weblog
こんこんと眠ってしまった。夜行バスが三宮についたのは6時半。

すぐ加古川に向かうと、、ブツブツ言いながらも妻がお出迎え?そのまま帰宅してバタンキュー!

そりゃあしんどかったんだろうね、自分のことながら、もう若くないんだもんね。

26日、早朝6時50分ごろに北条町駅前から高速バスで出発し大阪梅田まで。梅田から東京まで、やはり高速バス。

とどめは福島まで夜間バスと、なんと17時間以上もバスに揺られての旅となってしまった。この12月に67歳になる身には、やはりきつかったようだ。福島の駅中のトイレに入ってのおしっこ。見てビックリ血尿に近い有り様。無理はよくないと実感したのだ。

とはいえ、バスを降りた後は歩け歩けであちこち巡ったのである。。

このたびの目的である福島の結婚式場ウェデイングエルティまで、おおよその目安をつけて歩きます。

ふくしま駅前で目立つのはイトーヨーカドウ…あとはホテルぐらい。でもいい雰囲気です。しかも天気は上場。寒いかなと要らぬ心配しての厚着だとじっとりと汗を感じる始末。

駅をまっすぐ7分ほど歩くと、あった!あった、ありました。ウェデイングエルティだ!

そこでUターン。なぜ?って、実感はまだ朝の7時になったばかり。表彰式と林修講演会の会場は12時なのだ。まだどこかしこも営業していないのだ。

時間つぶしは、とにかく歩き回るのが私のモットー。

付近の光景を存分に楽しめるし、いい運動になる。

てなわけで、続きはまた明日。今日はゆっくりお風呂に入って体を休めます。
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福島へ

2015年10月26日 01時50分47秒 | Weblog
26日早朝、福島県に出発だ。絵手紙の入選の表彰式が目的だが、実は前から行きたかった福島。
たぶんもう二度と踏めない地だと思うだけに、期待に胸をふくらませている。
東京経由で全行程高速バスを使う。かなり疲れるのは覚悟の上。
自分の目で福島の魅力といまを見聞できると思うとワクワクする。
ただしブログは4日ばかりお休みってことになる。
帰り着いたら、またとりとめもないブログを綴ってみたいと思うので、よろしくお願いします。
福島土産に東京、少しは話題もバラエティに富めるかも。
いま深夜2時、そろそろ明日の旅支度を始めるかな。
本当は若い時に、あちこち旅をしておきたかったなあと公開しているのだ。
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ありがとう

2015年10月25日 00時06分54秒 | Weblog
 ありがとう…そうお礼を言いたいのに、どうしても素直になれない。あなたのせい。結婚して三十四年、ズーッと甘やかしてきたでしょ。今更弱みを見せるなんて出来っこない。
 あの日、私は高校生、あなたはレストランのコックさん。十三違いの子どもと大人。あなたのアマ劇団メンバーに志願したのが出会いのきっかけ。高校演劇部で頑張っていた私、卒業後も芝居が続けたくてあなたに会った。
 うだつの上がらない容姿にガッカリしたけど、話しているうちにあなたの誠実さと情熱を感じた。入団を即決したのは、あなたの魅力に惹かれたから。いま正直に白状する。
 三年後喫茶店をオープンし、アマ劇団の運営とでフル活動のあなた。その姿にピンと来た。この人は私がいないと駄目だ。思い込んだら止まらない。無理矢理アルバイトに押しかけた。「ありがとう。助かるわ」と余計なお節介に笑顔を見せてくれた優しいあなた。
 近くにいて気付いた。あなたのスゴさ、そして誠実な生き方。私、恋したんだ。
芝居と仕事以外は不器用で、恋人もいないなんて可愛そう。また押しかけちゃった。今度はあなたの嫁さんになってあげるって。「オレなんか何の取り柄もないし、甲斐性なしのオッサンやで、やめとけよ」と本気にしない。でも子ども扱いされた悔しさから、無理矢理あなたが根負けするまでアタックし続けた。
 結婚してからも、あなたはいつも控え目で優しかった。私のワガママを全部受け止めてくれた。おかげで、結婚生活三十四年、子どもも四人授かってとても幸福だった。
 最近、定年退職したあなたの元気の無さが気になる。妻の私がワガママで高飛車だから、余計に参っているんだろうな。判ってるけど、私やっぱりあなたに甘えるしか出来ないの。
「オレ、結局何もしてやれなかったなあ」
 あなたの口癖。そうじゃない、あなたは私の大切な恩人。だから、お礼を言いたい。「ありがとう、幸福をくれたあなた。大好き!」
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秀作

2015年10月24日 00時44分37秒 | Weblog
 高齢者の仲間入りして以来、愛読し始めたのが、松岡圭祐の千里眼シリーズ。とにかく面白い。肩ひじ張らずに読めるのがいい。
若い美女がヒロインという魅力だけではない。スピード感あふれるストーリーに緻密な取材がなされた舞台背景の描写。これぞエンターテインメント小説の最高峰ではないか。
今回読んだのは『千里眼 美由紀の正体』(上・下)。ヒロインが暴走する遠因は、消された記憶の真相の中にある。彼女が大切にして来た思い出がすべて偽りだと言う。この設定ひとつとっても、読者をひきつける要素はたっぷり含まれている。
記憶を失った女性の事件に立ち会った臨床心理士岬美由紀。隠された真実を解明し、姑息に職務を悪用しおのれの欲望を満たした防衛省職員を徹底して断罪する。その怒りのすさまじさに、周囲は困惑する。心優しい正義感を持つヒロインの姿をよく知っているからだ。舞台は団地に、花火大会の会場へ、榛名山へと舞台は目まぐるしく展開する。
行き過ぎた正義感を法に裁かれようとするヒロインの窮地に、理解しあった旧知の仲間たち―臨床心理士の嵯峨、自衛隊のパイロットで元同僚の伊吹、ヒロインの正義感を信じてやまないベテラン刑事蒲生らが応援に駆け付ける。もう目は離せない。悪と正義の凄まじい闘いである。一気に読み進む。
確かに絵空事だが、時代を読み取り、法と正義の有り方はどうあるべきかをはっきりと読者に問い掛けてくれる。そこには弱者に対する愛情が忘れられず常に存在している。
事件がヒロインの手によって終着した後、法廷で裁かれるヒロイン。「たとえ相手が同情の余地のない犯罪者でも問答無用の暴力での断罪は許されない」裁判官の指摘がすべてを言い尽くしている。[司法に携わる人間としてあなたと同じ能力が備わっていたらと思わない日はありません」としめくくる裁判官。その人間味と仲間たちの喜びに胸が熱くなる。
この社会にまだまだ希望と夢は健在なり!生きる自信を与えてくれる秀作だった。





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いま思う

2015年10月23日 00時52分41秒 | Weblog
ふる里加西市に保存された戦争遺跡がある。生まれ育ち今も生活の場であるふる里に暮らして六十六年。その存在を全く知らずにいた。     だだっ広い鶉野飛行場跡は、明石の免許試験所へ自動車免許を飛び入り受験のため、みんなの練習場だった。 
そんな身近に接していたその広場が、あの戦争中、戦闘機紫電や紫電改のテスト飛行に使われていたことを知る由もなかった。
まして、その紫電改が練習飛行中に鉄道事故を誘引し何人もの死傷者が出た負の歴史など知る筈がない。当時軍部も事故を隠していたとか。戦争にまつわる暗雲は田舎も例外なく覆っていたのだ。
 昨年、地元の高校PTAによる『ふるさと講座』の一環に『鶉野飛行場戦争遺跡めぐりウォーキング』が企画された。当時ウォーキングにはまっていたせいで、戦争遺跡めぐりを意識は皆無することなく参加した。
ところがただのウォーキングではなかった。歩いたコースは鶉野飛行場の周囲に点在する防空壕、弾薬置き場、地下指揮所、対空砲銃座…と戦争の歴史を如実に見せつける遺跡群だった。目の前にすると、今も漂う迫りくる重圧感に驚かされた。
「みなさんは、この鶉野飛行場から九州の鹿屋特攻基地を経て戦地へ赴き二度と戻ることはなかった特攻機の若き飛行機乗りが、何人もいたことをご存じだったでしょうか?」
 スタッフの問いかけに、参加者の誰もが無言だった。特攻という言葉自体ピンと来ない。最近映画やドラマでお目にかかった絵空事でしか捉えていなかった。
それが、こんな平和でのんびりした田園都市の一角に存在する飛行場から多くの若者たちが命を的にした戦果を求めて飛び立ったのだと言う。ショックだった。
 特攻機を操縦した若い飛行兵たちが書き遺した遺書は地下指揮所跡の煉瓦壁に貼られてあった。父母や妻子ども、兄弟姉妹、友人恋人にあてた別れの手紙。十代から三十代前半の飛行兵たちの悲壮な決意と、肉親への尽きない愛情が吐露されている。国のために死を余儀なくされた彼らの心情はいかばかりだったのだろうか。とても推し量れない。戦争はいつも不条理極まる犠牲を強いるのが当然なのだ。
 私の叔父もビルマ戦線で戦死した。盆に墓参するたび、その無念さを垣間見る。墓地の入り口に並んで建立されだ、名誉(?)の戦死者を偲ぶ慰霊墓碑の中に、叔父の墓碑銘もある。立派な石柱に刻み込まれた叔父の名前と戦死した戦地名、戦死の日時、年齢が…二十三歳…いくらなんでも若過ぎる。
いつもお参りしながら、叔父の無念さに胸を熱くする。生きていればなにかを成し遂げられたはずである。その無限の可能性は有無をいわさず奪われた。理不尽極まる戦争に腹が立って仕方がない。
手を合わせながら叔父に訊いてみる。(将来何をしたかったの?誰か好きな女の人いたの?)でも、墓碑に眠る叔父は何も答えてくれない。
 特攻隊飛行士たちの遺書に釘付けになりながら、ハッと気づいた。彼らは叔父以上に無念だったに違いない。生きる意志を捨てさせられ、敵を道連れにして死ぬことを命令された片道飛行だったのだ。
生を微塵も考えてはならない、ただただ死ぬことを目的にした飛行命令の冷酷無比、それが戦争の正体である。叔父以上の過酷な懊悩のうの中運命を避ける道は閉ざされ行くしかなかった悲惨さ。それが戦争なのだ。
 平和な現代に生きる私たちは、ともすれば戦火に散った多くの犠牲者たちの無念さを忘れている。あの戦争悲劇の上に生かされていることを忘れてしまっては、次の世代に平和をつなぐ役割を担えない。
 先般、国会で安保法案が通過した。野党は『
戦争法案』と主張する。ともあれ決まるまでの過程に納得できかねるものはあるが、決まった今は、その運用を注意深く見守る必要がある。
危険な方向に国が舵を取らぬように、みんなの平和意識を確固たるものにしなければならない。それが平和を感受する私たちに課せられた役目なのだ。
 鶉野飛行場滑走路跡沿いに設けられた平和祈念の碑苑を前に頭を垂れながら、思うことはひとつ。先人の間違いを二度と繰り返さない。平和は傍観者が手にすることは絶対ない。微力でもひとりひとりが平和への道筋を迷うことなく突き進むことで必須なのだ。
 歩いて巡った『ふる里加西の戦争遺跡』は、私に戦争の愚かしさと冷酷さとを再確認させてくれた。それは平和を考える最高の動機となってくれたのである。誰もが戦争と平和を直視するに違いない戦争遺跡の保存と公開は、遺跡をもつわが故郷の責務だと確信する。
 
 
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図書室

2015年10月22日 01時40分35秒 | Weblog
 ネットで、学校の図書室が学校生活に馴染めない子どもの駆け込み寺になるという話題を拝見。思わず(そうだよ!)と共鳴した。
 実は私も小学校時代は図書室に入り浸っていた。休み時間になると級友たちが遊ぶのをしり目に図書室に一目散。本に齧りついた。
 気が弱く劣等感の塊りだった小学校時代、友達なんて出来る筈がない。運動神経もなく体育の実技では笑いの標的にされていた。まわりでわいわい遊び興じている教室で孤独な存在。そりゃあ悲しく嫌だった。
図書室に行くと気持ちは晴れた。興味を持って読める本がいっぱいの図書室。次々に読む本の世界が面白くて堪らない。そこに嘲笑もからかいもなく、自分らしさを保てた。
あの図書室がなかったら、大げさではなく私の今はなかったのは間違いない。
駆け込み寺になる図書室も駆け込む児童も、批判する声もあるようだが、当の本人の切実な心情を推し量れないからだろう。
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十五夜

2015年10月21日 01時42分59秒 | Weblog
「ウ~サギうさぎ、何見てはねる。十五夜お月さん見ては~ね~る~♪」
 秋の夜長、家族で夜空を見上げながら歌った。のんびりした時代。いまのように明りはなく墨を流したように真っ暗な夜だった。よけいに月や星の明かりが鮮やかに眺められた。あの美しさは忘れられない。
 月はいろいろ形を変えて、子どもだった私を喜ばせてくれた。満月になると、うっすらとカゲが浮かぶ。不思議でもう目が離せない。
「月にはウサギが住んでるんだぞ。満月になると、餅つきをやるんだ。ほら、ペッタンペッタンって」
 寡黙な父が優しい顔で教えてくれた。月を見上げる父は子どもに返っていた。大人も子供も豊かな自然が惜しげもなくくれたステキな風情を同じ目線で楽しんだよき昔。
 もうあの感動的な神秘は存在しない。味気ない現実を突きつけられるだけ。家族で夜空に浮かぶ月を見上げる機会は格段に減った。

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ジャズ喫茶

2015年10月20日 09時13分03秒 | 文芸
「あら。俊彦ちゃん、可愛い子、連れて来たのね」
「ジャズ愛好仲間の加茂寿々美さん。まだ短大生なんやねん」
「恋人?」
「バカ言わんといて、ママ。友達や、年の離れた友達なんや」
「あらら、ムキになってる。やっぱり怪しい」
「怪しくない。友達、ただの友達や!」
「そうなの。残念だ。お似合いやと思ったのに。でも、俊彦ちゃん、いい加減身を固めなさいよ。もう三十過ぎたんでしょ。うかうかしてたら、もう当たんないわよ」
「焦ったって、どうにもなりゃしないよー」
 くだらない話題で盛り上がった。
「マスター、焦ってるんやね」
 帰り道、何を思ったのか寿々美が茶化した。
「仕方ないさ。昔から女性との付き合いに縁がないんや。モテへんねん」
「うそー!マスターってイケてるのに」
「俺は初対面に弱いんや。特に女性を前にしたら何もいえなくなる、暗い性格なの。そんな俺でも適齢期やからな。そら若い嫁さんが欲しい!お見合いしたい!付き合いたい!」
 少し酒が入ったせいで、妙に饒舌になっている。
「わかった。わたしに任せといて」
 寿々美は自信満々に頷いた。
「あの子、マスターに一目惚れしたっていってたよ」
「ばかばかしい。大人をからかうんやないよ。もし本気になったら、どうすんや?」
「あら?本気になって貰わないと困るやん。独身のマスター、可愛そうやから、うちの友達と順番にお見合いさせてんじゃんか。マスター、あんなに見合いしたがってたから、これでも苦労してんのよ」
「あんな冗談、真に受けたのか」
「ひどい!冗談やったん?若い嫁さんが欲しい!女の子と付き合いたい!って言ってたよ」
 俊彦は照れ隠しに頭を掻いた。ひと回り以上も年の離れた女の子と、自分の結婚問題をまともに議論している。苦笑するしかない。(俺って子どもやなあ)とはいえ、いくら大人になろうとも、寿々美が紹介する三人の友達は、幼な過ぎたし俊彦の好みとは違う。
「もうええ。いくら紹介されても無駄、無駄!大体初対面に弱いのを、どないすんねん」
「初対面が駄目やったんや…なんか、ええ方法が…?うーん、ならうちはどない?」
 寿々美はあっさりいってのけた。俊彦は思わずドキッとした。顔を赤くしたのが分かった。(え?俺、どうしたんや?…まさか)。
「冗談、冗談や、いまのんは。あーあ、マスターったら赤くなってる。おかしいやん」
「バカ!からかうな、大人を」
 俊彦はムキになって抗議した。しかし、ムキになればなるほど、寿々美の存在が気になる。これはどうしたんだろう?
「また連れて来るよ。今度の友達、もっと性格いいから。マスターにピッタリや」
「もうええ!」
 強い口調になった。寿々美は驚いて目を丸くした。
「どうして?このチャンス逃したら生涯一人モンやんか」
「構わへん!」
 不機嫌をモロ出しする俊彦に、寿々美は面喰った。表情が曇った。
「ごめん!俺のためにいろいろしてくれてんのに、きつい事いうてしもて」
 俊彦は悔やんだ。大人げない自分の態度が寿々美を傷つけた。それだけではない。やけに胸が痛む。こんな経験は初めてだ。
「…悪いと思ってるんなら、明日呑みに連れて行ってよ」
「え?」
 思わず見直した寿々美の顔は、いつもの笑顔…いや、なんだか大人びている。
 翌夕。時間を見計らって店にあらわれた寿々美は、えらくめかし込んでいる。ちゃんと化粧まで整えて、普段は素面なのに。俊彦は見惚れた。胸が熱くなる。いかん!おいおい、どうしたんだ?
「…なんで…どういう風の吹き回しや?」
 狼狽を隠すために冗談口調となった。
「なによ。何がおかしいん?」
 寿々美はムキになった。あまり見つめると、こちらがおかしくなりそうだ。俊彦は無理に笑った。情けない、ぎごちなさを自覚する。
「あら、いらっしゃい!」
 女西郷隆盛が甲高い声で迎えてくれた。
「また二人なんだ」
 ママの言葉は意味深である。
「やっぱりお似合いよ、あなたたち」
「ママ。若い子を傷つけるようなこというたらあかん」
 俊彦はウィスキーのロックを口にした。
「あらそう。おかしいな、わたしの勘よく当たんのに」
「ママさん。…マスターって鈍感なの?」
 寿々美は直線的に訊いた。
「そんなことないわよ。ただ優しすぎんのよ。優しすぎる男は、いつだって優柔不断なの。そんな男には、あんたみたいな若い女の子が引っ張ったらコロリといっちゃうかもね」
 ママは寿々美に片目をつぶって見せる。寿々美の目が、いきなり線になった。
「ええのええの、俺は生涯一人で生きるんや!」
 顔を赤くした俊彦は天を仰いで宣言を繰り返した。相当酩酊している。
 ジャズの生演奏は目を閉じて感じる。薄暗いホールにアルトサックスが郷愁の音色で心を揺さぶる。魂を揺さぶるというべきか。
「私は初対面じゃないでしょ。沢尻さんの嫁さんになったげる。うちしかおらんやろ…」
 目を閉じた俊彦は、夢を見た。耳に心地よい寿々美のささやきが幸せを運んで来るー。

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ノベル・ジャズ喫茶

2015年10月19日 08時12分36秒 | Weblog


「彼女、どうだった?いい子でしょ」
 単刀直入である。加茂寿々美は、いつもそうだった。あっけらかんとした気性で、しょっちゅう戸惑う。
「…なにバカ言ってるんや、お前さんは」
 沢尻俊彦は口を尖らした。ひと回り以上も若い寿々美なのに、お互いタメ口を叩く間柄である。といって恋人ではない。
 寿々美は卒業を控えた私立短大生。俊彦は既に三十を越した喫茶店のマスター。普通なら接点のない二人を引き合わせたのは、共通する趣味だった。
 俊彦はあまり友人がいない。暇があっても誰彼と連れ立って何かを楽しむタイプではない。ひとり気の向いた場所を訪れてひとり淡々とと楽しむのだった。
 ジャズ喫茶『らいら』は、三年前何となく街中を散策していて行き当たった。以来常連の客となる。『らいら』の薄暗い客席でジャズに聞き入っている学生服の女の子はえらく目立った。高校生の寿々美だった。
「見ない顔だねえ」
 坊主頭で口ひげをたくわえた異様な風貌のオーナーがカウンターにいた。
「ジャズ喫茶は初めてなんやけど」
「それで、相席でええかな」
「はあ」
 見知らぬ人間と相席、断りたいところだが、新参者にはその権利はない。オーナーの特異な顔がそう語っていた。
 案内された席に、あの女子学生がいた。
「相席、してんか、寿々」
 オーナーは砕けた口調で声を掛けた。
「うちは、ええよ」
 彼女は笑っていた。反射的に俊彦はペコリと頭を下げた。
「えらい礼儀正しい人やね」
「はあ、それだけが取り柄ですねん」
 顔を上げると、幼い少女の笑顔が目に飛び込んだ。それが寿々美との初対面だった。
 二度目に『らいら』を覗いたときも彼女と相席で並んだ。初対面の緊張感は半減していて、それなりの会話が出来た。他人とそう簡単に打ち解ける性格じゃないのに、気さくな寿々美の対応で、俊彦はリラックスした。
 その後も俊彦が『らいら』に顔を出すと、いつも寿々美はその席にいた。一年も経つと、年の差など関係なくざっくばらんに話せるようになる。あえてひとりぼっちを選びたがる俊彦には珍しいことだった。
 三年後、俊彦が喫茶『七枚の画布(ななまいのきゃんばす)』をオープンさせると、寿々美はいの一番に常連客となった。
「沢尻さんみたいに生真面目で堅物じゃ、喫茶店のマスターになれないよ。もう心配で放っておけないから、うちがコーチしてあげる」
 短大生の寿々美は、えらくお節介焼きだった。困った時の彼女頼みという格好である。
 寿々美の意見を入れて、BGMはジャズに拘った。いい雰囲気が醸し出される。メニューも彼女の若い感性が生きる助言を取り入れた。パフェメニューは人気を呼んだ。
「マスター、口ひげが似合うわよ。少しは堅いイメージが柔らぐかもね」
「そうかな」
 かなり多く寿々美の意見を取り入れた。俊彦はひげのマスターに変身である。
 寿々美は時々短大の友達を連れて来店する。
「ななきゃん(七枚の画布)っていい感じのお店でしょ」
「うん。寿々美が話してた通りね。髭のマスターもスゴクかっこいいやん」
 カウンター越しに聞こえる彼女らの会話に結構気分をよくした。
「マスター。どっか行きつけのスナックない?」
「まあね」
「そこ、呑みに連れて行ってよ」
 隠れ家的に通っているスナックに寿々美を伴った。『女西郷隆盛』と客が呼ぶ容姿のママがひとりでやっている店である。                      (つづく)
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