「あれ?」
違和感に気づき
舌で歯をまさぐった。
この感触は前に体験している。
(あっ)
食べているものに
異物がいきなり紛れ込んだ。
慌てて流し台に移動し、
シンクに吐き出した。
思った通りだった。
咀嚼中の食べ物の中に、
それは顔を覗かせていた。
銀色が黒ずんでいる。
歯のかぶせ物だった。
「きょうはどうしましたか?」
聞きなれた声を背後に思わず
「またお世話になります。
どうも年がら年中通ってますね」
自虐的な台詞になっていた。
照れ笑いで誤魔化す自分がいやになる。
「よくお顔を拝見します」
歯科医師は
如才なく返してくれた。
銀冠が外れたわけではなく、
歯は折れていた。
数年前に
神経を抜いた歯だった。
「入歯を支えていた歯ですね。
抜かずに根本は残して、
入歯はそのまま使いましょうか」
ホッとした。
入歯を作り直すと、
また高くつく。
そのまま使えるなら、
出費に悩む必要はなくなる。
先月別の入歯を補修したばかり、
悪い連鎖は断ち切りたいと、
いつも切実に思う。
それでも
わが愛しき歯は
断末魔への道を
ひたすら突っ走っているのだ。
違和感に気づき
舌で歯をまさぐった。
この感触は前に体験している。
(あっ)
食べているものに
異物がいきなり紛れ込んだ。
慌てて流し台に移動し、
シンクに吐き出した。
思った通りだった。
咀嚼中の食べ物の中に、
それは顔を覗かせていた。
銀色が黒ずんでいる。
歯のかぶせ物だった。
「きょうはどうしましたか?」
聞きなれた声を背後に思わず
「またお世話になります。
どうも年がら年中通ってますね」
自虐的な台詞になっていた。
照れ笑いで誤魔化す自分がいやになる。
「よくお顔を拝見します」
歯科医師は
如才なく返してくれた。
銀冠が外れたわけではなく、
歯は折れていた。
数年前に
神経を抜いた歯だった。
「入歯を支えていた歯ですね。
抜かずに根本は残して、
入歯はそのまま使いましょうか」
ホッとした。
入歯を作り直すと、
また高くつく。
そのまま使えるなら、
出費に悩む必要はなくなる。
先月別の入歯を補修したばかり、
悪い連鎖は断ち切りたいと、
いつも切実に思う。
それでも
わが愛しき歯は
断末魔への道を
ひたすら突っ走っているのだ。