こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

父が悩める季節

2014年12月08日 00時04分57秒 | おれ流文芸
娘の結婚式が近づいている。
子どもは4人。男女二人づつと、我ながら上手に産み分けたものだ。時流なのか、いつまでも結婚を口にしない彼らだった。息子らに限っていえば、「結婚はしない。自由がなくなる」と言ってのける始末。(わが家系も、私で終わるなあ)と感傷的になった矢先、30になった長女が、やっと、その気になった。
考えてみれば、父親の私も三十三歳になるまで、結婚の可能性は微塵もなかった。それが、十三歳も若い相手が現れた。もう結婚まで猪突猛進だ。三か月後に結婚式を挙げた。実はできちゃった婚。それがなければ、今ごろ独身貴族を気取ったままだろう。
妻の妊娠に気づいた義母が、私に会いに来た。顔も知らなかった彼女の出現に、いささか驚いた。実の母親ではなく、継母であるのも、初めて知った。彼女は、自分の親について、詳しく口にしなかった。
「父親が娘の様子がおかしいって気付いたの。一人娘だから、いくら嫌われようと、いつも優しい目で見守っているんですよ。無口で不器用な父親だから。でも、娘が妊娠していることはピンと来たみたいなの。ちょっと堅苦しいとこがあるの、あの子の父親は。だから、きちんとしてほしくって……!」
 いいきっかけだった。言われるまでもなく、結婚の許しを得るために、挨拶に行かなければと考えていた。私は常識人なのだ。妻と付き合う前に、「結婚する気がなければ、付き合わないから……!」
 と彼女の意思を確認した。当時、短大に入学したばかりの妻。五年前から、同じ趣味のグループで頑張っていた。年の差もあって、異性関係には繋がらずにいた。それでも、お互いの性格や人間性、相性はよく分かった。結果的に、相手に結婚の意思が確認できれば、後は本能に任せて、なるようになるだけだった。
 だが、いざ結婚になると、それなりの手順を踏む必要がある。彼女の継母の訪問は、思い切りがつかないでいた私の背を強く推してくれた。
 漁師をしている義父は、いかつい顔で私を迎えた。思わずビクついたが、私の覚悟は揺らがなかった。
「娘さんと結婚する許可を、お父さんに、お願いに上がりました」
 義父はいかつい顔を崩さない。
(これは無理かな……?)
 と弱気に。すると、いきなり鼻先に酒を満たしたグラスが差し出された。
「頂きます!」
 と反射的に受け取ったグラスの酒を一気に呷った酷い緊張もあって、思い切りむせた。慌てて妻が解放した。もう夫婦そのものの姿を義父母に見せつける形になった。
 結局、義父は一言も話さなかった。
「あの人は、あなたが気に入ったみたいよ。二人で早く結婚の話を進めてくださいな」
 義母の笑顔に義父がダブって見えた。
 さて、私は長女の相手を、どう迎えたらいいのか?義父が見せた、不器用で寡黙を通した歓迎を真似てみるか。いやいや、私と義父は違う。人の好さだけは義父の何倍も勝っている自信がある。顔もいかつさはない。よし!
 その日が、もう目の前に迫っている。


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