こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

コラム・ビックリの「ミンミ、ミンミ」

2015年04月15日 00時27分01秒 | 文芸
コラム・ビックリの「ミンミ、ミンミ」

「ミンミ、ミンミ」
 自分の耳を疑った。それに目が丸くなった。じーっと観察した。
 目の前の、一歳を過ぎたばかりの次男は、耳に手をやって何回も繰り返した。間違いなく彼は“耳”と言っているのだ。予期していなかったぶん、かなり驚いた。
 これまで「マンマ」しか言えなかった次男の口から、次に出て来る言葉を心待ちにしていたのに、ちょっと意外な「ミンミ」だった。
「ウソよ。まだ耳なんて言えやしないわよ」
 最初は全く信じなかった妻。でも、耳たぶをつまんで、おもむろに「これ、なーに?」と聞くのに、次男がはっきりした口調で「ミンミ、ミンミ」。さすがに疑り深い妻も、信じざるを得なかった。
「でも、どうして耳なのかな?」
 妻のつぶやきに、ハッと思い当たった。
 この春、次男はハシカにかかり、高熱で苦しんだ末に中耳炎をやった。ハシカの前にも中耳炎で病院通いをしていたので、都合五週間も耳の治療を受けた格好だ。
 切開しての治療でずいぶん痛い目にあったのが、よほど印象に残ったのだろう。それで「ミンミ!」なのだ。
 理由が判り納得できると、妻とふたり、顔を見合わせて笑ってしまった。
「おい。痛かったのか?」
「ミンミ、ミンミ」
 セミの泣き声そっくりに、次男は言い続けた。
 さて、次の次に次男が口にする言葉はなんだろう?そして、その理由は?やっぱり痛い目にあわないと駄目かな?
 そんなこんなの想像は、目が回る忙しさの子育ての中で味わえる楽しみなのである。
(神戸べんりちょう・平成二年7月掲載)

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