こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ゆるぎ岩・その2

2016年01月24日 00時22分25秒 | 文芸
「ゆれてるよ、

ゆれてる…お父さん!

ゆれてるよ」

 リューゴは,

もう夢中で歓声を上げています。

 お父さんはリューゴを振り返ると、

ニヤリと笑いました。

「お父さん、

今度はリューゴの番だよ。

ちゃんと約束してたんだからね」

「ああ」

 お父さんは,

大きく頷きました。

 そうなんです。

お父さんは,

去年の夏に約束してくれたのです。

「リューゴが一年生になったら、

『ゆるぎ岩』を思いっきり押させてやるぞ!

でも、

ちゃんといい子にならないと、

この岩は絶対に揺れてくれないからな。

よーく覚えておけよ、

忘れないように」

 だから、

リューゴは一生懸命に優しいいい子になろうと,

頑張って来たのです。

「この『ゆるぎ岩』には、

お父さんがまだ子どもだったころよりズーッとズーッと,

昔から不思議な言い伝えがあるんだ」

 約束をした日、

お父さんは,

こう話しだしました。

リューゴはお父さんの目を見つめて、

真剣に聞きました。

「もう何千年も昔のことだ。

とても偉いお坊さんがこの村にやって来たんだ。

空海ってお坊さんだけどな、

この村にとても不思議な力で、

すごい奇跡をいろいろ与えてくれたんだ」

「へえ、

不思議な力?

奇跡って?

どんな?」

 リューゴは目を真ん丸に見開いて、

お父さんをジーッと見つめたまま尋ねました。 

 お父さんは嬉しそうに説明してくれました。

「お坊さんは村の人たちにこう言ったんだ。

この岩は、

いい心の持ち主ならば、

ちょっと押すだけで揺れるが、

悪い心の持ち主は、

どんなに力をこめて押そうとも、

決して揺れない。

びくともしないだろうってね」

「フーン。

不思議な力なんだ」

「そうなんだ。

だから、

村の人たちはいつ押しても、

岩がちゃんと揺れてくれるように、

いつも心がきれいで優しくいられたんだってさ。

おしまい」

 お父さんの話は、

リューゴの心の中にしっかりと残りました。

それで、

いつも優しくきれいな心でいようと、

努力をしてきたのです。

だから『ゆるぎ岩』は揺れてくれるはずです。

 でも、

実はリューゴには不安もあります。

だって、

お母さんのお手伝いをしなかったり、

駄々をこねて困らせてみたりと、

悪い子の時の方が多かった気がします。

(もしも『ゆるぎ岩』が揺れなかったら、

どうしよう?)

 リューゴは、

小さな胸をドキドキさせました。



                            (つづく)

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