こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

恩師の死・その1

2016年04月02日 01時00分58秒 | 文芸
「Y先生が亡くなりはったよ」
 知らせを受けて驚いた。いつも飄々と、それでいて頑固な先生の顔が思い浮かんだ。
 H高校で数学を担当、クラブ活動の演劇部顧問で、かなり熱が入った指導で生徒を引っ張り、県大会入賞の常連校に育て上げていた。
 私は教え子ではなく、一応、先生の仲間だった。姫路市内で伝統と実績を持つマチュア劇団が接点である。創立メンバーであるY先生は政策と演出を一手に引き受けていた。
「君、何をやるの?」
 入団初日にY先生はぶっきらぼうに訊いた。
 答えられなかった。舞台の上で役を演じるのが、当時私が思っていた演劇だった。姫路に来る前にいた加古川のアマ劇団は、ただ芝居が好き、舞台に立ちたいという動機だけでよかった。そこで「うまいやないか」と甘やかされてスター扱いされてきた。よく考えてみれば、メンバー数が少ないので、祭り上げれていたに過ぎなかった。すっかりいい気になって鼻高々だった。
「いちおう役者を……」
「役者なんて、誰でもできるんだよ」
 Y先生はぼそっと言いきった。眼鏡越しに冷ややかなY先生の目があった。私のささやかなプライドを傷つけるには十分だった。
 レストランに勤めていると、なかなか時間通り練習に行けない。それでも、休むことなく練習に通った。基本練習でも、ほかのメンバーが褒めてくれるほど乗りに乗った。
「それじゃ、次の公演作品のキャストを決めるから」
 待ちかねた日だった。メインの役が回ってくると当然のように思っていた。それが、セリフが殆どないその他大勢。ショックだった。
 公演に向けた練習が始まると、気持ちは滅入るばかりだった。
(なぜ?ぼくが……)
 天狗の花はものの見事にへし折れた。暗い気持ちが続いた。練習も面白くない。二言三言しかないセリフのために練習に通うのが馬鹿らしいとさえ思えた。


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