20年前の店、居酒屋風に
なんか食べようかなってときに、不思議に注文してしまうのがトンカツである。ハンバーグの子ども、エビフライの女性に較べて、トンカツは男の食い物を代表していると言っていい。
20代のころ、アパートに一人住まいだったわたしは、3食のうち一触は必ずと言っていいほどトンカツを食べていた。おいしくて栄養があって安いのがうってつけだった。
それにアパートから50メートルほどのところに、トンカツ専門店があったせいだろう。この店はとにかくトンカツだけで、予定量が出れば終わりと言う風変わりな店だったが、それだけに出来は他店では味わえないものだった。
ちょっといい顔をしたおじいさんが夫婦だけでやっていたが、いつ行っても満員で並んで待った。手際のいい主人の年季たっぷりの調理ぶりを見ながら待ったものだった。
あれから20年余り、思いついて足を運んでみると居酒屋になっていた。昔のあの味がしのばれて、しばらく立ち尽くした。
(讀賣・1990・6・3掲載)
なんか食べようかなってときに、不思議に注文してしまうのがトンカツである。ハンバーグの子ども、エビフライの女性に較べて、トンカツは男の食い物を代表していると言っていい。
20代のころ、アパートに一人住まいだったわたしは、3食のうち一触は必ずと言っていいほどトンカツを食べていた。おいしくて栄養があって安いのがうってつけだった。
それにアパートから50メートルほどのところに、トンカツ専門店があったせいだろう。この店はとにかくトンカツだけで、予定量が出れば終わりと言う風変わりな店だったが、それだけに出来は他店では味わえないものだった。
ちょっといい顔をしたおじいさんが夫婦だけでやっていたが、いつ行っても満員で並んで待った。手際のいい主人の年季たっぷりの調理ぶりを見ながら待ったものだった。
あれから20年余り、思いついて足を運んでみると居酒屋になっていた。昔のあの味がしのばれて、しばらく立ち尽くした。
(讀賣・1990・6・3掲載)
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