老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

545;「近いんだ・・・・」

2017-11-15 18:06:34 | 老い楽の詩
「近いんだ・・・・」 

95歳の爺様「近いんだ・・・・」
91歳の婆様「オシッコのことかい」
爺様    「近いんだ・・・・」
婆様    「家が近かいの?」
爺様    「俺はもう長くはない」
婆様    「それで近いのかい」
爺様    「後は頼むね」

爺様は家に帰れば妻はいるのだが
デイサービスの婆様に意気投合
老い楽の恋を楽しんでいる?

544;鼻くそ

2017-11-15 11:45:01 | 読む 聞く 見る
『ひまわり』(原題: I Girasoli )H27,11,14 BS3 で鑑賞
戦争は残酷、悲惨である。戦争によって引き裂かれた男と女の愛の物語。
ひまわり畑の下には数えきれないほど 無名戦士の遺体が眠っている。

 鼻くそ

食道癌で亡くなった作家 高見順の詩集『死の淵より』のなかに
面白い詩「執着」があった。

 
執着

ハナクソを丸めていると
なかなかこれが捨てられぬ
なんとなく取っておいた手紙のように
このつまらぬものが
生への執着のように捨てがたい


子どものころ
授業中
人差し指で
鼻ほじりをした
人差し指に着いた大きな鼻くそを
親指と人差し指で丸め
「丸薬」になったところで
指で飛ばした
先生に怒られ
黒板消しの裏側で頭を叩かれた
(鼻糞丸めは卒業し、いまは品行方正、本当です!)

鼻糞を食べたら
「塩辛い味がした」と
悪友が隣で囁いていた


市会議員を3期も務めた男性老人は
いつも鼻ほじりをしている
指についた鼻くそを椅子や車のシートになすりつける
暇さえあれば鼻ほじりをしているので
在宅訪問のとき
妻に伺ったところ
脳梗塞になる前から鼻くそ丸めを楽しんでいた
ベッドを見てみると
数えきれないほど鼻くそが仲良く転がっていた

543;上手な介護サービスの活用処方 第43話「認定調査の項目」 〔40〕 「介護に抵抗」

2017-11-15 08:33:25 | 上手な介護サービスの活用処方
上手な介護サービスの活用処方 第43話「認定調査の項目」 〔40             
               4-7 介護に抵抗 (有無)

1.ない
2.ときどきある
3.ある

・介助のあらゆる場面で、介護者の手を払ったり介護を拒否することが、
ほぼ毎日ある。他の介護者が話しかけ、気持ちを落ち着かせねがら介助を
行っており、介護の手間となっている。

・単に言っても従わない場合は含まない。


実際に認定調査を行うが、「ない」方の方が多い。
・上記の通り、「トイレやふろ場に行くよう」声掛けしても、従わずにいる場合は、「ない」になる。
・トイレに連れて行き、「紙パンツを下げますよう」と声かけしながら介助を行うと、紙パンツに手をかけ抵抗する場合は
 「ある」また「ときどきある」を選択している
声かけ等により行動を促しても、本人自ら行動できないよう拒否してしまう態度が、
 あるかないかで判断する。

542;老いたヒトデ

2017-11-15 00:27:55 | 文学からみた介護

 高見順 「老いたヒトデ」(『死の淵より』講談社文庫)


  老いたヒトデ
            高見順

踏みつぶすのも気持が悪い
海へ投げかえそうとおっしゃる
その慈悲深い侮蔑がたまらない
一時は海の星と謳うたわれたあたしだ

ハマグリを食い荒す憎い奴と
あなた方から嫌われ
食用にもならぬとうとまれたあたしが
今は憎まれも怨まれもしない

あたしも福徳円満
性格も丸くなって
すっかりカドが取れ
星形の五本の腕もボロボロだ

だのにうっかりアミにひっかかった
しまったと思ったが
いや待て これでいいのだ
このほうがいいと思い直したところだ

年老いて
歯がかけて好きな貝も食えず
重油くさい海藻などしゃぶって
生き恥をさらしていた

炎天の砂浜で
のたうち廻る苦しみのなかで
往年の栄光を思い出しながら
あたしはあたしの瀕死を迎えたい

宝石のような星が
夜空に輝いていたのも昔のことだ
今は白いシラミのような星が
きたない空にとっついている

海の星の尊厳も昔のことだ
海にかえさないでくれ
老いたヒトデに
泥まみれの死を与えてほしい


文庫本『死の淵より』のなかでラストに掲載されている詩である
28年前に「老いたヒトデ」を読み、寝たきり老人や認知症老人のことが頭に浮かんだ


長くなるかもしれませんが
最後までお付き合いいただければ幸いである


真夏の海水に裸足で入ったとき
裸足(あし)にヒトデが触れようものなら
若い娘は大変!

「踏みつぶすのも気持ちが悪い」と蔑まれるほど
人間様に嫌われてしまう老いたヒトデ
老いた人も同じく疎まれ嫌われている

「一時は海の星と謳われたあたしだ」
老いたヒトデもかつては海のスターと謳われていた

人間は、「ハマグリを食い荒らす憎い奴」とヒトデを嫌い
更に「食用にもならぬ」と蔑んでいた
ヒトデは呟く「海を荒らし、汚くしているのは人間である」

老いた人のなかには「福徳円満」な人もおり
穏やかな気持ちで老後を過ごされている人もいる
齢を重ね(嵩ね)るにつれ
「腕も足も体もボロボロ」になり転んだこともあった 
物忘れも目立ち ひどくなると自分が誰だかわからなくなる

食事中うっかり誤嚥してしまった
むせや咳がひどく発熱もでてきた
「しまったと思ったが」
入院せずこのまま死んでしまった方がいいと
思ったこともあった

年老いて
歯はなく好きな食べ物も食えず
自分の手で食べることもできず
全粥、超キザミを食べさせてもらい
「生き恥をさらしていた」

炎天の真夏
喉が渇き水を欲しても
水を飲むことがわからぬあたし
せん妄になり熱発しても気づく人は多くはなかった

過去においてあたしにも
「往年の栄光」があり
夜空の星のように輝いて時代もあった
結婚したとき
子どもが生れたとき
仕事で輝いていたこともあった
いまは死を待つだけの老いた身となり
尿で沁みついたベッドに臥せている

昔は不便だったが暮らしやすかった
「海にかえさないでくれ」という老いたヒトデの叫びは
老いた人にとっては「もう生かさないでくれ」と
こだまとなって返ってくる
延命治療は望まないけれど
死に際のとき
傍らに居て手を握ってくれるだけでいい