大リーグで活躍した“ゴジラ”こと松井秀喜外野手が,とうとうユニフォームを脱ぐときがやって来ました。20年プレーして,38歳での引退です。近年は,左手首の骨折のために「思うように結果が出せず」,たいへん苦しい日々を送っていただけに,松井選手本人としては納得のゆく決断だったでしょう。
わたしは,松井選手の活躍をこころから願い,応援してきたファンのひとりです。彼の,パワー溢れる打撃ぶりが魅力だったのは当たり前として,夢を追い野球道を究めようとする彼の追求姿勢に好感が持てたからです。
天才的なパワーヒッターであったでしょうが,それに甘んじるようなこころの隙間が見えず,壁を乗り越えようと常に自己練磨を心がけ,努力の人であろうと自らを鍛えてとおした姿勢が光っています。商業主義にはまった印象を微塵も感じさせない姿は清々しいものでした。
著書『不動心』で,父から贈られたことばについて語られています。「努力できることが才能である」。それが,自分が「何をやってもすぐに修得できるという天才型では」ないという自省心と結び付いて,成長を後押ししたのです。
そうはいっても,彼には並外れた素質があったことでしょう。その天性に溺れることなく,“努力”を最高の目標として掲げた価値観は多くの人々の共感を得たにちがいありません。贈った父親のまなざし,受けとめた子の芯の確かさ。可能性が開花した裏で,日々流す汗を疎かにしなかったという実話が光ります。
現職時代に,卒業式の式辞で何度か,松井選手の努力を紹介して卒業生にお祝いのことばを贈りました。それだけの刺激を,わたしにも与えてくれた選手でした。
多くの人々に夢と感動を与え続けた彼の汗に,今,こころから拍手を贈りたいと思うのです。
引退にかかわる一連の記事でわたしのこころに響いたことばは,在籍していたヤンキースのオーナーであるハル・スタインブレナー氏の次のものです。
「今のチームがあるのは、彼が様々なことを実現してくれたおかげだ。彼は技術の向上に努力していたし、チームやファンに対する責任を進んで受け止めていた。大事な場面で自分自身を高めることができる選手だった。今後もヤンキースの家族として愛される選手だ」
より高い目標を掲げながら,自分のためにチームのために,一時も精進を怠らなかった生き方がお見事です。これからの道を松井選手らしく切り拓いていく姿に,これからも注目しています。