Kさんは和紙を漉く職人です。中堅職人の有望株で,いずれプロフェッショナルの域に達することが期待されている職人です。
このKさんからは,毎年ご自分で漉かれた和紙の年賀状をいただきます。その文面をわたしはとてもたのしみにしています。
今年は,ていねいな文字でこう認められていました。
「お元気でいらっしゃいますか。昨年は〇〇学校にて,一年生の生徒さん達とさつまいものつるを使ってはがき作りをしました。皆,いっしょうけんめいに作ってくれました。〇〇先生に教えて頂いたことが活かされてこの様な経験をさせて頂きました。嬉しかったです」(文中の“〇〇”はわたしの勝手な読み替えです)。
地域に溶け込んで汗を流していらっしゃるKさんの姿が見えて,わたしこそうれしくなりました。一字一句に無駄がありません。丹念に記された文字からは,職人気質とでもいえそうな底の深いまなざしが伝わってきました。
実は,Kさんとの出会いは今から10年近くさかのぼります。それは愛知県でのこと。
あるテレビ局が製作する番組で,わたしは野草紙研究家として協力し,Kさんは若手和紙作り職人として裏方で手伝いをされた際に知り合ったのです。プロデューサーの配慮でKさんが招かれ,バックアップ役として動かれたのでした。そのときに,なんと真面目なお人柄だろうと思った記憶がよみがえってきます。「この姿勢なら,伝統文化を引き継いで大成なさるだろう」とはっきり感じました。それがご縁で今に至っているわけです。
番組は30分ものでした。しかし,思いがけない難題がいくつか出てきてロケは朝から深夜に及びました。結局何とか無事に終了したものの,とうとうわたしはその日に帰宅できなくなりました。それで,朝一番の新幹線で帰ったことが懐かしく思い出されます。
和紙作りは伝統工芸の一つです。Kさんが地域に身を置いて伝統の技を日々追求しながら,学校にも目を向け子どもたちの育ちを支えようとされていることはまことに尊いことです。どのような達人の域に達しようが,こうした営みをたいせつにされていれば人間としても確実に成長なさるはず。その真面目なまなざしにわたしは大きな拍手を贈りたいと思うのです。