たいていの種子では,発芽したときにまず顔を覗かすのが根です。根でからだを支えて保持する作業が最初の営みなのです。それがひとまずできてから地上部に力を注ぎ,葉を広げ始めます。
これまで記事にしてきた発根の様子について,改めて順を追いながら整理してみます。
乾燥していた種子に水分が入っていき,温度と光を感じると発芽の準備が整います。すると,胚乳に蓄えられていた養分を使って根が出かけます。本来なら地中に埋まっているので,根の先端は重力の方向,つまり地中深くに淡々と伸びさえすればよいのですが,地表に横たわる種子はそうはいきません。手探り状態で,まずはちょこっとだけ出ながら,重力の方向を感知します。
伸びる方向を定めると,一心にその方向を目指します。同時に,できるだけ早くからだを固定して,体内に水分と栄養分を吸収しなければなりません。そのために表皮細胞が変化して,管状の根毛になり伸びかけます。下写真は根毛が発生し始めた時点で撮ったものです。
地表で逆立ちした種子から出た根は,成長の向きを反転させて地中に向けて大急ぎ。それに合わせたようにして根毛が伸びてきました。そして土壌の粒をつかもうとしています。
横向きになった種子から出た根は90度方向転換します。土粒がなくても,とりあえず原則どおり根毛を大量につくります。根に気持ちがあるとすれば,このときは「ワラをもつかむ思い」でしょう。
根先が土の中に入らないと一苦労です。根毛が土粒をつかめば,からだをがっしりと支えることができます。すると,根が支えるのに比例して地上部の茎・葉が起き上がり,重力の反対方向に伸び始めます。
このときにはもう葉緑体ができているので,降り注ぐ日光を浴びて成長に必要な養分を自力でつくり始めます。巧妙なしくみを思えば,「化学工場の操業開始!」といったところです。この頃の芽は多くが種皮を被って,なんだか優雅な曲線を描いて見えます。わたしは,この姿に初々しさを見る気がして,気にいっています。