カタクリの花が受粉が成って,結実に至り,そして種が落下すると,それをアリが巣に持ち帰って発芽して……。そんなふうに分布拡大の説明がなされています。種子にはアリの大好物である甘味成分のエライオソームが付着していて,それを誘引物質にしてアリを招いているというわけです。
では送受粉はどうやって行われているか,容易に想像がつきそうですが,それがどうもなかなか。その場面を目撃しないとなかなか理解できないものです。わたしもまた,翅のある昆虫が訪れて花粉を運ぶ,写真で見るとギフチョウが紹介されている,その程度のことしかわかっていませんでした。
この度訪れた隣市の群生地で,この点に格段の関心を抱いて観察してみました。じつは,これまでもここを訪れて観察し,地元の人にインタビューもしていたのですが,解決できないままになっていたのです。ギフチョウは野生では絶滅していますから,見ることはないでしょう。どんなチョウやその他の昆虫が来るのか,見られるか,興味津々です。
受付の方に,これまでと同じインタビューをしました。
わたし「受粉にチョウやって来るのですか。たとえば,ギフチョウとか」
係 「アリですよ。アリが運ぶんですよ。チョウなんか来たら困ります。それを捕りに来る人が出て来て,ここが荒らされますから。虫なんて来ないですよ。アリですね」
わたし「ありは種を運ぶんでしょう。わたしがどうしても知りたいのは,この説明板に貼ってある資料に載っているギフチョウのように,花粉を運ぶ昆虫のことなんですが」
係 「そんなものはいませんねえ。見たことがありません。アリじゃないですか」
これでは埒があきません。結局,チョウ,それも大きめの目立つチョウについては印象にないということなのでしょう。それなら,自分で確かめてみるほかありません。
カタクリの花はわんさか咲いているので,注意深く見てけば目にとまる昆虫が出てくるはず。しばらくして,小さな昆虫が飛んでいるのが目に入りました。ハエのなかまです。葉にとまりました。
さらにしばらくして,近くにヒラタアブがやって来ました。これら虫たちは明らかに花を訪れようとしているはず。このときは花に入るところは見られませんでした。
同じところに,今度はハチのなかまが訪れました。しかし,たぶん,このハチは他の虫の外敵でしょう。いかにも,そんな雰囲気で触角をぴくぴくさせていました。この観察結果は,虫が棲息している状況証拠になるでしょう。
離れたところで,今度は別のハエのなかまとヒラタアブを発見。
これまでの観察では,結局花に入って行く昆虫の姿を目撃できませんでした。しかし,この分だときっと見つかるはず。そんな淡い期待感を抱いて,もう一度周回観察コースを歩くことに。撮影は二の次です。
(つづく)