語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【堤未果】「社会保障のための増税」のウソ ~来るべき医療崩壊~

2014年05月05日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)消費増税(5%→8%)を受け、各業界で価格転嫁が一気に起きている。
 安部総理は、増税分は社会保障費に充てる、と強調している。

 (2)だが、今後継続的に引き上げられる(予定の)消費税によって社会保障部門が圧迫されるリスクがある、という逆説的な事実を、どれだけの国民が知らされているだろうか。
 通常の課税取引であれば、商品の仕入れ時に支払った消費税は、納税しても事業者に損得は生じない。
 しかし、消費税に係る控除が適用されない分野がある。医療機関だ。
 社会保険診療は、社会政策的配慮から非課税取引とされている(自由診療、健診は課税対象)。よって、医療機関は、患者=最終消費者から消費税を受け取ることができない。
 利用者が窓口で支払う医療費に消費税はかからない。しかし、医療機関が仕入れる薬、医療機器、建物の建設・改修、パソコンなどの消耗品購入や外注費用にはすべて消費税が課せられ、「仕入れ税額控除」は認められていない。

 (3)消費税が5%時に日本医師会が行った調査の結果によれば、社会保険診療の売上に対し、医療機関が支払った消費税の平均額は次のとおりで、「これ以上消費税が上がると医療機関の存続が難しくなる」。
  (a)私立医大病院・・・・3億9,200万円/病院。今後消費税率が10%になれば、1病院当たり、倍額の7億8,400万円になる。
  (b)その他の医療機関(国立病院機構、厚生連、自治体病院、地方独立行政法人、小規模診療所)・・・・社会保険診療報酬の2.2%を控除対象外消費税として負担している。

 (4)政府は、「控除対象外消費税問題」に対し、先送り措置(制度の不備を改革する代わりに、医療サービスに対する診療報酬の上乗せで補填する)を採ってきた。
 だが、この政府の対策はほとんど機能していない。
 診療報酬の上乗せの対象となる該当項目の半分が、すでに医療行為として実施されていなからだ。さらに、診療報酬の上げ幅が医療機関の持ち出し分2.2%に比べて不十分だからだ。
 そもそも、非課税であるはずの医療に消費税納税義務が発生する、という現行制度の不備がもたらした負担を患者につけかえる「診療報酬上乗せ」方式は、根本的解決ではなく、問題の先送りにすぎない。
 医療機関が経営を悪化させれば、地域医療の連携が崩れる。この国を崩壊させるリスクへつながる。

 (5)社会保険診療を課税対象として、仕入れ税額の控除を認める代わりに、診療報酬での補填を廃止する。
 ただし、患者への急激は負担増とならないよう「軽減またはゼロ税率」で行う。
 こうした現実的な改革案(すでに現場からは提出されている)を政府は真剣に検討すべきだ。
 「社会保障と税の一体改革」とは、一体、何だったのか?
 マスコミは、消費増税問題を取り上げる際、目先の物価ばかりに目を向け、誰もが当事者になる医療という重要分野への影響を取り上げていない。
 
 (6)「社会保障を持続可能なものにするために、消費増税はやむをえない」と、政府は繰り返し主張する。
 だが、本当にそうか?
 増税が医療崩壊を加速するなら、この国に未来はない。 

□堤未果「待っているのは医療崩壊 「社会保障のための増税」のウソ ~ジャーナリストの目 第204回~」(「週刊現代」2014年5月10.17日号)
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